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第漆幕 怪異の館にご招待

「……棗」


「待雪? どうしたんだ、そんな深刻そうな顔して。風邪でもひいたのか?」


「……楸から、私と棗へ怪異の総本山への招待状が届いた」


「……は?」


 ◇◆◇


 以上が、事の顛末である。


「……どうすんだよ」


「……どうしよう」


 二人で同じ事を言い、同じタイミングでため息を吐く。いつもはこれで待雪が喜ぶのだが、今はそれがない。それどころの話ではないのだ。


「怪異の総本山ってさ、あれだよな。上級怪異が沢山いて、俺みたいなのじゃ速攻喰われるような所だよな」


「私が喰わせないけど、それで大体あってる。楸からの注意もあると思う。でも抑えきれずに襲ってくる可能性、大」


「だよなぁ」


 ああ、胃が痛い。妖狐楸……何を考えているんだ。

  待雪によれば、一言で言えば腹黒、二言で言えば超腹黒。そんな人のようだ。

 何だよそれ。お腹真っ黒どころじゃないよ。


「私の他にも子供はいる。人化の法を使って他の上級怪異を誘惑したりして、そのまま一夜の関係へ、っていう感じな人なの」


 それで子供を孕み、産む……なんてBBAだ。


「養子の私から見ても、凄く美人なんだ」


 ここで人化の法について、待雪から聞いた事を話しておこうと思う。

 この術を使えるのは、一定以上の強さを誇る上級怪異のみ。使うと種族的特徴が現れるものの、俺クラスの見鬼では真の姿を看破できる。

 この術は現世では使えない。使っていても、常世から出た途端に解除されてしまうそうだ。待雪は現世に行ったことがなく、そのままの姿で幻術を施せば良いので知らないようである。ちなみにこれで現世に行ってもすぐに正体バレしてしまう。あくまでも幻術は見えなくする、目を騙すなので、ぶつかったりしたら違和感を覚えてアウトになるのだ。


 人化の法を使っていると、真の姿の時より力が弱まるのだとか。それでも力加減がしやすい上に過ごしやすいので、使えるものは大抵使っているようだが。待雪はこれが真の姿なので、力の低減はない。


「……私の幻術で騙す?」


「うーん……無理だと思うぞ。目敏い奴にはすぐバレると思うし、そもそも待雪だけでも注目の的だ。到底、騙しきれないさ」


「だね……」


 もしも今日騙せたとしても、これをずっと続けるなんて不可能だ。感が良い怪異ならこれで気付くし、そもそも楸さんがバラしたら即終わる。


「お腹痛い……」


「大丈夫? 妖術かける?」


「いや、いいよ……というか抱き付くな」


 柔らかいものが当たるんだよ。ちっちゃいけど、こっちは健全な男子なんだからやめてくれ。

 鬼の一族は愛情深いとは知っていたけど、お腹痛いって言った瞬間に抱き付いてお腹触って回復しようとするレベルとは。今度迦楼羅さんに聞いてみよう。


「でも行かなくちゃならないんだよなぁ、嫌だろなぁ」


「大丈夫。私が棗を守るから」


「今日は待雪が頼もしいよ……」


「もしも棗にキスされたらもっと頼もしくなるよ?」


「うん、平常運転ですね」


 実にいつも通りである。

 そしてもう対策考えようにも不可能なので寝ようとしたその時……


「相変わらずイチャついてるな、棗」


 不穏な声が聞こえてきた。しかも隣から。


「何やってんですか迦楼羅さん」


「チッ……冷静だな」


「感情死んでるので」


 その声の主、迦楼羅は向かい合っている俺達を見るような位置に移動した。わかりやすく言うと三角形になる。


「まったく、なんで我が義妹と小僧がイチャつく姿を見にゃならんのだ。楸め、あの腹黒が」


 大物たる迦楼羅が腹黒と呼ぶ……なんじゃそりゃ。


「で、何しにきたんですか」


「ん、ああ。お前達を怪異の総本山に連れて行く役割を任されたのだ。待雪はそこへの扉の開き方を知らんからな」


「ありがとう、迦楼羅兄さん」


 待雪に礼を言われて気を良くしたのか、迦楼羅は、はははっと笑った。


「何、気にするな。とにかく、明日には此処を出るぞ。待雪は少し辛いだろうが、すまん」


 待雪は少し辛い? ……どう言う意味だ。


「迦楼羅さん、待雪は少し辛い、というのは何ですか?」


「何だお前、待雪から聞いていないのか」


「迦楼羅兄さんっ、ダメっ」


 話そうとした迦楼羅を待雪が止めるが、迦楼羅は待雪を一瞥すると言い放った。


「お前の忌み名を知っても離れないでいてくれたのだ。今更この程度、問題あるまい」


「でも……」


「待雪、お前が惚れた男だぞ。少しは信じろ」


「……わかった」


 ……なるほど、大体は理解した。

 おそらく待雪の出生に関連する事なのだろう。今更、である。

 今更——


「今更、俺が待雪を嫌いになる訳ないだろ。少なくとも俺は、待雪との信頼関係はその程度では壊れないと思っているぞ。待雪は違うのか?」


 意地の悪い質問だ。否、意地の悪い確認だ。

 ただの、答えの確認。聞くまでもないとわかっているのに行う、俺みたいなゲスのする事である。


「そんな訳ない。私は棗を愛しているし、棗ならどんなものでも愛せる自信がある。大好き」


 いつの間にか腕の中に現れた待雪を抱き締め、頭を撫でる。この程度のスキンシップなら気にならなくなってきた。ああもう、なんだこの可愛い生物。

 すると、ピクピクしながら俺達を見ていた迦楼羅がごほんと一つ、咳払いをした。慌てて離れる待雪。待雪の柔らかさが消えて残念な気持ちになる自分がいるのがわかる。くぅ、絆されてきてるよ。


「私のいる前でイチャつくな、まったく……まあ良くはないが、話そう」


 そうして、迦楼羅による待雪の話が始まった。





「待雪はな、お前も薄々気付いているだろうが、この社に封印されているのだよ。何故かわかるか?」


 あの時、最初に待雪に会った時、俺は封印の術が社全域に張られている事に気が付いていた。

 待雪を見るまでは、何か他の強大で邪悪な怪異が封印されていると思っていた。だが、待雪を見た瞬間理解したのだ。

 待雪に対して、この封印が張られている事に。だが、疑問に思う点もある。

 待雪を封印するならば、もっと強力な術を張るのでは? と。


「待雪は生まれた直後から莫大な妖力を持っていた、と聞いている。今も年々増加している筈だ。そんなのが暴走したら、被害は避けられない。

 でも待雪の性格からして、そんなことは起きない。だが他の上級怪異はそんなことを知らないため、封印したとし体面だけでも守った、とか?

 あとは性格という不安定なものを信じるのは長として失格だから、足止め程度の封印を張り、有事の際には長自身が出向いて処理、かな」


「ご名答だ。所々自信がなさそうだが、お前は頭は悪くない。自信を持て」


 迦楼羅に誉められた。少し嬉しい。

 待雪は黙って聞いている。不安、なのだろうか。

 迦楼羅はそれを見るが、気にせずに話を続けた。


「ほぼ棗の言う通りだ。が、更に待雪にはある役割がある」


「役割?」


「そう、役割だ。と言っても、待雪がそこにいるだけで良い楽な仕事だがな。

 その仕事は門番。常世同士をあまり接触させない為に、境界の霊門(れいもん)と呼ばれるこの場所を管理しているのだよ」


 境界の霊門? ダメだ、聞いた事がない。


「境界の霊門ってなんですか?」


「境界の霊門とは、常世同士を繋ぐ一定の範囲の場所の事だ。これは不安定な為、待雪が管理し勝手に開かないようにしているものだ」


「……それってつまり、待雪がそこにいなければならないって事ですよね?」


「……そうだ。待雪はここに縛り付けられているのさ。そして棗、お前が待雪と結ばれるのなら、お前もここに縛り付けられる事になる」


 結ばれるのなら、そういう事か。

 待雪がこの話を聞かせるのを嫌がったのは、これを聞いて俺が逃げると思ったからだろう。

 ……阿保か。

 待雪を手招く。そして思い切り白いほっぺを引っ張った。


「い、いふぁい」


「待雪、こういう事は早く言いなさい。俺が逃げるとでも思ったの?」


「う、うん」


 ほっぺを離す。赤くなっているが、涙目で大変可愛らしい。意外とSの気があるのかも。


「逃げないよ。そもそも逃げたら殺されて死体を色々やられると思うし、現世の関係で狭いとこはどんと来いだ」


「棗……それは待雪と結ばれると言ってるようなものだぞ?」


「言葉の綾です。ああほら、待雪も落ち込まないで」


 ……実際は、これも良いと思ってる。

 今、自殺願望はほぼ無い。ではそうなった要因は何か?

 待雪だ。待雪のおかげで、そして待雪に対しての想いで。正直に認めよう。絆されてるとかそういった次元じゃなく、マジで陥没している。

 二人に言うのは、なんか恥ずかしいからまだ言わないけど。


「まあ良い。明日、お前達二人を怪異の総本山……伏見稲荷大社・裏に連れて行く。準備しておけよ」


 こうして、伏見稲荷大社・裏へのドナドナが決まった。

書き貯めは今回で終わりました。

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