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第陸幕 迦楼羅という親バカ

 迦楼羅って、マジか。

 本人も言う通り、烏枢沙摩明王には及ばないものの、人間からしたらどちらも天災級である。逆に言えばその天災級を超える妖力を持つ待雪は何者なんだろうか。

 待雪の親代わりが怪異の長で、その友人が火の怪異の頂点級たる迦楼羅。何ともまあ、ビックな事で。


「迦楼羅兄さん、あなたからも言って。棗は自意識が低すぎるの」


「いやいや、俺は客観的な事を言っただけだぞ? あと迦楼羅さん、俺はまだ待雪の婿じゃありませんからね」


「ふむ、その髪が駄目だな。切ればそこそこの容姿になるだろう。婿殿、「まだ」という事は、いつか婿になるのかね?」


 くっ、揚げ足取られた。待雪の婿というのを頭ごなしに否定するのは可哀想だと思ったから配慮したのに。……なる可能性は無きにしも非ずだけど。


「迦楼羅兄さん、あんまり私の棗を虐めないで、ね?」


 待雪が庇ってくれるが、さりげなく「私の」扱いされている。


「ほう、待雪の方からベタ惚れしたというのは本当だったのだな。私としては相手からベタ惚れすると予想しておったのだが」


 あ、この人親バカだ。真顔で迦楼羅がそう呟くのを聞いて、そう確信した。

 すると迦楼羅は俺の方を向き、これまた真顔で俺に告げた。


「私はな、待雪が小さい頃、それこそ赤子だった頃から見守っていたのだ。それはそれは可愛くてね、よく私に『かるらお兄ちゃん』と言ってくれたのだよ。それに『おおきくなったらけっこんしようね!』ともな。

 いつか誰かと結婚するとは思っていた。だがまだ先の事と思っていたのだよ……何せまだ千歳程だからね。滅ぼされぬ限り永遠の時を生きる我等怪異にとっては短い時間だ。

 だが久しぶりに可愛い待雪が私に会いにきてくれた時、待雪はこう言ったのだ……好きな人ができた、婿にしたい、と」


 血涙を流し、苦汁を飲むような顔で、地獄の底から響くような声で昔を語る迦楼羅。迦楼羅の威厳とか、ゼロだな。というか、いつ……あれか? 俺が寝てる時か?

 そう思う俺を尻目に、迦楼羅の愛妹話は続く。待雪本人はプルプルしてるけど。


「その時の私の気持ちがわかるか? しかも待雪は、でも私は、あの人にやってはいけない事をしてしまった、と泣いているのだぞ? 何度迦楼羅炎でそいつを焼き尽くしてやろうかと思った事か。待雪が止めなければ、主は今この世にいなかったぞ?

 久しぶりに会いにきてくれた可愛い待雪が、好きな奴の事を語る。兄としてこれほどまでに苦痛に満ちた時間はなかった……!

 更に! その好きになった奴というのは、年若い男の人間、小僧だと言うではないか! 待雪の忌み名に気付いていながら避けなかった事は評価に値するが、待雪には不相応と言う他ない!」


 ……迦楼羅さん、私もキツイです。待雪(いもうと)のことが好きなのはわかりましたから、もうほんと黙ってください。これ以上威厳を壊さないでください。


「答えろ小僧、いや棗! 主は、待雪を幸せにする覚悟があるのかぁぁぁぁぁぁぁ!」


 もうやだ、このシスコン火鳥……

 でもまあ、聞かれたからには答えるしかあるまい。


「わかりません」


 これが俺の答えである。俺には覚悟も何もない、でも捨てる覚悟もない。だから、これが一番適切だと思うのだ。

 カチン、と固まった迦楼羅。しかし、次の瞬間には全身から迦楼羅炎を立ちのぼらせた。目がイってるぞ、おい。


「……ククク、その答えをよくもまあ私の前で言えたものだな、小僧? 私にかかれば、貴様を一瞬で消し炭にする事など容易いと言うのに……」


「それも考えました。けれど、こう言う時こそ誠実であれと私は思うのです。おそらくここで、「ある」と答えていれば、今私は死んでいました。迦楼羅さんには私の心を読むのは容易いと思いますので、真実を申したまでです。

 それに、いざとなったら待雪が助けれくれると思いますし、ね。そうだろ、待雪?」


 待雪の方を見る。あれ、いない。と思ったら、前からふわりと良い匂いが。

 前を向くと、待雪が手を広げて俺を庇っていた。だろ?

 迦楼羅はしばらく迦楼羅炎を立ちのぼらせていたが、はあ、とため息をつくと迦楼羅炎を消した。


「合格だ、小僧。あると答えれば消し炭に、ないと答えても消し炭にしていたよ。待雪との信頼関係も、この短期間で成長したようだ。

 待雪は力は私を凌ぐ。俗に、と言うか我等上級の中でも限られた者にのみ伝わる等級である災禍級怪異だ。待雪が本気で暴れれば、私の他烏枢沙摩明王も出ねば勝てぬだろう。

 まあ、技術はまだまだだから、簡単には負けないがね」


 フッとニヒルに笑う迦楼羅。しかしそこでは終わらない。


「もしも、もしもだが待雪を泣かせたら……私はお前を燃やす。それと棗、貴様が私の事を義兄と呼ぶ事は許さんぞ! いいな!

 それと婚姻前に枷をせがむなよ!」


「はい……」


「迦楼羅兄さん……うぅ」


 そして何とも言えない空気を残して、迦楼羅は去っていった。

 ……何だったんだろう、あれ。


 ◆◇◆


「いただきます」


「いただきます」


 もぐっ……待雪が作ったごはん、美味しい。

 迦楼羅が去ってから一日が経った。俺と待雪は平常運転だが、迦楼羅から見れば十分イチャついているらしい。シスコンフィルターを通してるから普通とは違うんじゃないかと思ったが、真顔で「棗……お前、我が妹のごはんを食べ、作った着物を着ているのだぞ? それをイチャついてないと言うか、燃やすぞ」と凄まれた。確かに思い返してみれば、そんな気もする。


「迦楼羅兄さんは優しくてかっこいいけど、あれが唯一の欠点なの」


 あと、待雪も大概ブラコンだと言う事が判明した。試しに俺と迦楼羅どちらを選ぶ、と聞いたら即「棗。棗一人いれば私は生きれる」と返された。愛が重いです。


「確かになぁ、あれがなければさぞかしモテてただろうに」


「迦楼羅兄さん、実際モテる。女の子とかの扱いも上手い。あ、あっちの方の経験も豊富だから、女の子から寄ってくるの」


 これ待雪、恥ずかしいなら言わんでよろしい。

 それはともかく、最近は待雪に見惚れる回数も増えてきた。これは不味い傾向だ。

 自殺したいと言う欲求も、だんだんと小さくなっているのを感じている。絆されてきてんのかな、俺も。


「あとさ、最近俺に抱き付いてくるけど、あれって何なの?」


「棗の匂いを嗅ぐため。それにナツメニウム補給のために必要な事」


「なんだナツメニウムって。未知の物質か」


「そう。強力な部類の見鬼の能力を持ち、人にしては妖力が多く、常世に耐性があり、自殺したいと願い、人型の白鬼に好かれる特殊個体でのみ生成される私の命の源」


「タ○ニウムにミ○ハニウムかよ」


 んじゃマチニウムとでもこちらは名付けようか。

 その後談笑していたが、待雪があくびをしたのでもう寝る事にした。女の子に徹夜は致命的だからな、これくらいは普通だよ。

青エクの迦楼羅かと思ったか? 馬鹿め!

似ても似つかぬわ!

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