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最終幕 結婚式

怒涛の超連続投稿。

「……おう」


「……ん」


 向かい合い、どちらからともなく視線を外す。

 棗は髪を切り、紋付羽織袴を着ている。待雪は白無垢を着て、薄く化粧をしている。

 そう——結婚式である。


「おめでとう」


「おめでとう、じゃな」


「おめでとう、お姉ちゃん」


 そんな初々しい二人を祝福するのは、三人。

 一人は迦楼羅。怪異化した棗を見て大層驚いていたが、待雪が死ななくなるのでグッジョブと思ったらしい。棗を一回殴ってから、素直に祝福してくれた。

 二人目は楸。此方は普通に祝福してくれた。待雪が若干の警戒心を抱いていたようだが。

 三人目は、楸の娘(たたら)だ。待雪に色んな知識を吹き込んだ張本人で、上級怪異の妖狐である。


 本来なら沢山の人を招く結婚式だが、待雪の場合忌み名などの要因が絡み合ってこの三人しか招けなかった。

 しかしそれでも、棗と待雪は幸せだった。


「ありがとう、みんな」


「ん。本当、嬉しい」


 並んだ棗と待雪が、三人に挨拶回りを行う。

 ぶっちゃけ必要ないのだが、雰囲気が大事なのだ。

 それが済み、結婚式の過程を全て済ませた後。


「さて、結婚式が済んでから新郎新婦がやる事と言ったら一つじゃろう?」


「そうだな、真に遺憾だがな……真に遺憾だがな!」


「わーい、お姉ちゃんも大人になるんですね!」


 と、三者三様であるが同じ主張した三人に、棗と待雪は同じ部屋に押し込まれた。

 要するに、致せという事。


「……え、ええっと……その、優しくするから」


「……ん。来て、棗……」


 その言葉を聞いた棗は——

 ゆっくりと、待雪を押し倒した。





 ——チュン、チュン。


「ん……」


 これが俗に言う朝チュンか。

 棗はそう思い、目を開けた。一言、情事の様子を表すとすれば。

 二人とも鬼なので体力が無尽蔵、と言った所であるか。


 腕の中に柔らかい感触があるのを見て、どうやら抱いたまま眠ってしまったようだと思い出した棗。綺麗な白髪を撫でて、微笑んだ。


「……なつめぇ」


「うわ、なんだこの可愛い生き物……」


「……なつめ?」


「あっ……おはよう、待雪」


 自分の名前を寝言で言うとか可愛い過ぎる——と、そう思いながら待雪と笑い合った。


「……んぅ、なんか変な感じ……」


「だ、大丈夫か? 初めてだから加減がわからなくて……」


「……ん。でも、棗と交わった事が確認できるから、このままでいい」


「待雪……」


 起きて早々桃色空間を作り上げる二人。

 そのまま継続通算数十回戦目に突入するかと思われたが、棗がストップを掛けた。


「待雪、ちょっと待ってくれ。いや待雪とする事は大変魅力的だけど、ちょっと待ってくれ」


「……なあに?」


「待雪に、俺の過去を話そうと思う。此処に来た詳しい理由とかさ」


 全裸で寝たまま、棗は語りだした。


「俺が此処に来た理由は、自殺って言ったよな?」


「ん。そう聞いた、よ」


「でも、それだけじゃないんだ。俺が此処に来た二つ目の理由はね——人に絶望したからだよ」


 静かに、棗は語る。

 棗は生まれながらにして見鬼の異能と多量の妖力を保有していた。それ故に虐げられ、拒まれていた。

 だが、自分を拒絶しない者が一人いた。退魔師の女だ。

 家族にも絶望していた棗は、自然と彼女に依存するようになっていた。まあその依存も、待雪に対する狂気染みた愛とはベクトルが違うのだが。例えるなら……そう、引き合う磁石のような、自然と離れられないもの。


 ある時、棗は裏手の自販機に向かい、飲み物を買おうとした。

 表に行くと、誰かとかち合った時に気分が悪くなる可能性がある。それを見越しての行動だったのだが……もしやそれが悪夢の引き金になるとは、誰も予想しえなかった。


 裏手に回った時、女の声が聞こえて来た。

 棗はその声を退魔師の女だと当たりを付け、何を話しているのだろうと耳を傾けた。

 そして聞こえて来たのは——


「彼はもう私を信じ切ってるわ。そろそろそっちに連れて行くから、後始末はよろしく」


 え、と、棗は動揺した。後始末、とは、どう言う事なのだろうか。


「まったくチョロいわよね、少し優しくしただけでコロッと信じちゃうんだから。え、私? あんな根暗、私の管仲じゃありませーん」


「……ぁ」


 何故、どうして?

 そう問いかけるような、暗く熱い思い。

 そうだったのか。所詮同じか。

 そう納得するような、暗く冷たい思い。

 相容れないはずのその感情が混ざり合い、溶け合い、塗り固められて行くその感覚に、棗は混乱した。

 それが切っ掛けだったのか、退魔師の女と目が合った。


「え、棗君? 全部聞いちゃったか。まあいいや、もともともう直ぐだったし。

 ごめんね——いやーーーーっ!!!」


 突然、大声を上げた。そして少しだけ服をずらし、倒れ込む。

 女は、棗を強姦未遂の犯人に仕立て上げるつもりなのだ。

 それに棗が気付いた時には、すでにもう手遅れであった。




「……と、こんな感じで居場所がなくなってね。なら死のうと言う事で、樹海の奥地にまで行ったという訳だよ」


 話を終えると、棗は待雪を見て——慌てた。

 泣いていたからだ。


「うう、棗……そんな事があったの……?」


「そ、そうだけど、待雪が泣く必要なんかないだろう」


「……ぐすん。ううん、大好きな棗の悲しい話を聞いて、泣かない訳、ない」


 待雪はそう言うと、棗の頭を胸に押し付けた。

 そのまま棗の頭を抱き、撫でる。


「大丈夫、私は棗を裏切らない。だって、妻の鬼だから」


「……ああ。俺も待雪を裏切らない。待雪の夫で、鬼だから」


 しばらくそうしてまったりしていたが、我慢出来なくなったのか。

 継続通算数十回戦目に、突入した。


 ◇◆◇


「棗、桜が咲いてる」


「本当だ。綺麗だね」


「ん」


 待雪と結婚式を挙げてから、約半年になる。

 その後も本格的に居住する準備があって忙しかったけど、問題なく終わった。

 俺は鬼としての力を制御できるようになり、待雪と練習試合をして腕を磨いている。俺は今後永遠に待雪と一緒に狭間の番人をするのだ、このくらいは出来なければ。


 まあ本音としては、妻に負けたくないって言うのが一番だけど。

 鬼に転生してから、俺はそれまでにも増して愛情深くなり、嫉妬深くなった。どちらも鬼なので、この愛情は永遠に尽きないだろう。尽きさせや、しないが。


「もうこんなに経ったのか」


「なあに?」


「いや、何でもないよ。あ、ほら、あそこにはハナミズキが咲いてる」


「本当? ん、綺麗」


 俺がいるのは、明鏡の泉という場所。迦楼羅達が作ってくれた、別の場所を覗ける妖具だ。

 これで里山を見たりして、楽しんでいる。

 ……でも、いつかは、待雪と一緒に現世に行きたい。

 そう思う。


 永遠に続く俺と待雪の時間は、きっと幸せなものになるだろう。いや、してやるさ。

 俺の中の自殺願望は、もう消えた。

 誰でもない、この鬼のおかげで。


「ん、どうしたの?」


「……何でもない。ただ、ちょっと」


「変な棗」


 互いに笑い合い、愛し合い、育み合う。なんと素晴らしく、心踊るものなのだろう。


「待雪」


「?」


「愛してる」


 そっと、唇にキスをする。

 待雪は少し驚いた様子だったが、柔らかく微笑むと。

 俺の唇に、優しく、キスをしてくれた。

閑話書くかは未定。後一話登場人物紹介をしたら、一旦終わり。

ご愛読、ありがとうございました。出来れば末長く、あなたの頭の中に棗と待雪が居ますように。

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