第七章 終着
今まで過ごしてきた日常を思い返す
列車が描く軌跡に惹かれたのは、いつ頃からだろうか
旅が好きになったのは、いつ頃からだろうか
一人になって笑ったのは、いつ頃からだろうか
進行方向からけたたましい警笛が響いて、隆司の眠気を覚ましてくれた。貨物列車の通過で、貨車特有の通過音が数十秒間響いた。隆司は、幼い頃、貨車をよく眺めていた。中に何が入っているのか気になることがあり、また、北は、北海道から、南は九州まで続く鉄路を進む機関車の勇ましい姿を想像して、よく姉に話していた。姉は、列車に関しては、ほとんど無知に近かったが、それでも、隆司が楽しそうに話すのを見ているのが、心地よかった。
機関車を動かす動力の響きは、客車のそれに比べ、力強い
運転手の表情を窺うと、強張っている
信号を睨み付ける
自分の手、目、耳を信じる
上野駅に到着したのは、午後の八時くらいで、多くの人が行き来していた。駅舎の中央に掲げられている時計が、暗がりの中で、もの悲しく、時を刻んでいた。
「すごいきれいじゃん」
隆司が、声の方を振り返ると、二人ずれの男女が、クリスマス用にイルミネーションされた歩道を、スマートフォンで撮影していた。隆司は、綺麗だとは思ったが、ただ、原色が交互に点滅しているだけにしか見えなかった。隆司は、ため息をついた。息が白く見えた。再び、時計と、暗がりの中で輝ききれていない上野駅に向けて、カメラを向けた。
東京の静寂、確かに、人がいない、もの悲しい情景が、僕は好きだ。ただ、上野駅が、十年という月日の中でこうも変わってしまったとは、想像もつかなかった。また、長針が一つ進んだ。ああ、誰も眺めていない。また、息が白く見えた。
隆司は、空を眺めた。星の輝き、月の表情がよく見えた。
「田舎で見た景色とほとんど変わらないじゃないか」
暫く、星を眺めていた。隆司の普段の視点に広がる明かりが薄く、遥か彼方の世界の光がひと際輝き、肌で感じられる寒さが強かった。
お姉ちゃん、今回もまた少しだけ近づけました
もう、星になったのでしょうか
寒空の中で輝いているのでしょうか
静けさの中、寒さが強まる中、
僕は、もう少しだけじっとしています
飛行機の点滅が遥か彼方に見えた。流れ星のように、徐々に高度が下がっていった。暫く眺めていた。軌跡が無くなるまで、追い続けていた。
時計の短針が、九を指し、長針が、十二を指した。居酒屋から出て来たようなサラリーマンの数が増えていった。隆司は、空を眺めて、改めてため息をついた。今度は、白くならなかった。列車の警笛がけたたましく響いた。ホームで何かあったのだろうか、と考えた。すぐに、そんなことはどうでも良いことだ、と思った。
「もう少しだけ、眺めていても、いいですよね」
星が、一つ一つ、何かを囁いているように思えた。それは、明るく、甘美な響きで、隆司の心に響いていた。