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プロローグから最終回!?

お久しぶりの方、お久しぶりです。

初めての方、宜しくお願いします。


耐性は強いので、ガンガン批評下さい。必ず返信させていただきます。

 剣と剣がぶつかり合う度に、激しく火花が飛び散る。

 耳触りな金属音が、がらんとした空虚な大広間に響き渡る。


 ――――もう、どれほどの時間、こうして斬り結んでいるのだろう?


 足は泥水に浸かったみたいに重く、魔力も気力も尽き果てた。

 もはや頼りになるのは、この手に握る愛剣しかない。


「……やるな」


 苦し紛れに送った賛辞は、反撃として戻ってきた。

 危険な一撃を(すんで)の所で避け、いま一度、対峙する敵を見据える。


 ――――強敵だ。紛れもなく。


 これまで刃を交えた強者たちの中でも、五指に入る実力だろう。

 額に浮いた脂汗が、何よりも雄弁に物語っている。


「どうした? 口が利けないくらいに疲れたのか?」


 問い掛けの答えは、再度の斬り込みを伴って返って来た。だが、今度は避けずに鍔迫り合いに持ち込んだ。


「貴様と馴れ合うつもりなど無い」


 交錯する視線と視線。

 手を伸ばせば触れえる距離。


 交わしているのが酒杯であらば、親密とも取れる距離感だろう。

 しかし、そんな僅かな隙間に満ちる濃密な殺気が、互いの存在を確実に拒絶している。


「まだ、名を訊いていなかったな」


 骨が軋むような鍔迫り合いの中、死刃と視線を交える相手に名を尋ねてみた。すると、数多の死地を乗り越えてきたのであろう、精悍な顔をした若者の口が動いた。


「俺の名はセイローン」

「……セイローン、か」

「覚えておけ。貴様を倒す者の名だ!」

「そうか。では『勇者セイローン 奮闘及ばず此処に眠る』とでも墓標に刻んでやろう」

「戯言を!!」


 怒りの感情が上乗せされたか、剣圧が更に増す。どうにかして均衡を保っていたが、いよいよ手首が悲鳴を上げ始めた。

 咄嗟に飛び退いて、取り落としかけた魔剣の柄を握り直したが、痺れた手ではそんな簡単な事ですら覚束ない。


「貴様に殺された父と母の仇! 今日こそ取らせてもらうぞ!!」


 魔剣を構え直している隙に、勇者が斬り込んできた。激情に囚われていたとしても、その剣筋に乱れは見えない。無理を承知で迎え撃ってみたものの、弾かれて手から離れた魔剣が、ひどく派手な音を立てて石畳の上に転がった。

 

 ――――短命な人の身でありながら、良くぞ此処まで練り上げたものだ。


 勇者セイローン……ここ数百年の間では、最も優れた勇者であろう。万魔蠢く我が居城に単身で攻め入り、遂には我が元まで辿り着いた。驚嘆すべき事実だ。

 

「うおぉおおお――――!!」


 裂帛の気合いを上げ、矢のような勢いで勇者セイローンが突進してきた。


 堂々たる風格、圧倒的な技量。そして、額に輝く勇者の聖紋。


 ――――大いなる力の三角レガシィ・オブ・ストレングス――――


 そのどれもが我を……この万魔の王を倒すに相応しい。


「これで終わりだ! 魔王!!」


 はっ、として顔を上げると、迫る聖剣の輝きが目を射た。そして、激しい衝撃が胸を襲った。


「み、見事だ……セイローンとやら。だが――――」


 ずるり、と聖剣が胸から引き抜かれると、背に突き抜けるほどの深い傷から血液が溢れ出した。足に力が入らなくなり、自然に膝が砕ける。


 ――――まだ倒れる訳にはいかない。


 折れそうになる心と身体に喝を入れ、何とか膝立ちになって勇者の顔を見上げると、そこには怒りと憎しみが綯交(ないま)ぜになった暗い眼差しがあった。


「覚えておくがいい」


 力で屈服させる事は出来ようとも、怒りや憎しみでは魔王は滅ぼせないと言う事を。

 いつになったらお前たちは気付く? だが……それを伝えた所で何だというのだろう。


 ――――我は魔の王。嫌悪され、憎悪される為の存在。


 数百年の昔にも。

 数千年の未来にも。


 ふと自嘲の笑みが口元に浮かぶ。それがまた、セイローンの怒りを掻き立てたようだ。

 我が頭上に聖剣が掲げられた。紅潮した勇者の顔には、仄暗(ほのぐら)い愉悦の感情が張り付いて見えた。


「ここで我は倒れようとも、必ずや次の魔王が世界に再びの災厄を――――ぐっ!」


 ごぼっ、と盛大に喀血してみせると、セイローンは聖剣を振り上げたまま、慌てたように飛び退いた。

 溢れる鮮血を拭いながら、これまで幾度と繰り返しただろうか。半ばお約束のように成り果てた呪詛を唱えてみる。

 

「数十年……いや数百年の後か。新たな魔王が現れし頃にはセイローンよ。お前は生きてはいないだろう」

「何を……」

「人間どもよ、せいぜい束の間の平穏を味わうが良い。くくくくく……」


 含み笑いを漏らすと、床下から不穏な地鳴りが響いてきた。すると、間を置かずに石畳が激しく波立ち、次々に円柱が倒れ、轟音を上げて天井が崩れ始めた。


「残念だったな、勇者よ。お前の手には掛からぬ! ふふふ……くははははっ!!」


 我が浴びせた哄笑を背に受けながら、降り注ぐ瓦礫の中をセイローンは駆け出した。一度だけ振り返ったその顔には、止めを刺せなかった悔しさが滲んで見えた。


「はあーっはっはっはっは!! ……はぁ」


 走り去る勇者の背を確認してから、身体を横たえて長い息を吐いた。

 小石の雨を全身に浴びながら胸に手をやると、すでに出血は治まりかけていた。


「……疲れた」


 ひと際大きな岩塊が、顔面に目掛けて落ちてくるのが見えた。その鋭く尖った先端をぼんやりと眺め、何となく目を閉じてみた。


 雷雨の夜のように、絶える事なく耳を打つ轟音。

 疲れ切った身体を、ひたすらに翻弄する振動。

 ただそれだけの……単調な世界。


 心地良さすら覚える律動に身を任せていると、やがて揺れは収まり、そして音も途絶えた。


「……静かだな」


 不意に訪れた静寂を楽しんでみる。死後の世界とは、このような感じだろうか。悪くは無いな。そこは全てが真っ平で、明も暗も……優も劣も無い。

 そうやって思索に(ふけ)っていると、何やらぬるりとした生温かい液体が顔に降りかかってくるのを感じた。

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