膨れ上がる希望
「ん…夢か…本当に最悪の夢だ。」
奴隷商人につれていかれ、いたぶられた後、監獄に入っていた。
小さい時の最悪な記憶。
なぜ今になってこんな夢をみるのか。
それはあの奇妙な格好をした男の人が私を助けようとしてくれたから。
私は7年ぶりに優しさを感じていた。
「いまから脱獄をする!」
わらの上で寝転んでいると監獄の中心で男達が騒いでいた。
看守はどうやら晩飯を食べに上に上がっているらしい。
この奴隷達の中でもっとも奴隷歴の長いゴスペルという見るからに巨体の男が脱獄の提案をしていた。
「脱獄って!そんなん無理に決まってんだろ!」
ゴスペルに無理だと言い張るこの男はハーメスという。
痩せ細って、片目が無く常に弱気な男だ。
「いいや!俺には提案がある!お前らちょっと来い!」
私は立ち上がり、ゴスペルについて行った、すると
監獄の壁に人一人入れる様な大きな穴が空いていた。
ゴスペルでも入れるなら、誰でも入れるぐらいの大きさだ。
「ゴスペル…お前いつの間に…てかその指…」
「まぁな、お前らが寝てる間に掘ってたんだ。3年前からな」
壁が土とはいえ、手で掘るのはかなりきついだろう。
「いま看守がいないこの時がチャンスだ、この穴は地上へとつながる。すまないが、地上に出た後はみんな見つからない様にしてくれ。」
「でっでもよ!この鎖のせいで走れねえよ!」
確かにその通りだ、この鎖のせいで私たちは行動を制限されている。
道具を使わない限りこの鎖はちぎれないだろう。
「ちょっと貸してみな」
ゴスペルが男の鎖を持つ。
「ふんっ!」
バキィと鎖がちぎれた音が鳴る。
なんだこの化け物は、お、おそろしい
「すげえ!ちぎれた!じゃあお先に行ってくる!」
鎖がちぎれた男は穴へと向かい、消えていった。
「次はお前の番だな。」
「はい…」
私の番がくる、だけど私は決して期待はしなかった。
この世界は思うようにはいかない。
バキィ!
鎖がちぎれる。
「じゃあ、行ってこい。」
「ありがとうございます。」
私は穴へと進み、中に入る。
「すごい…」
本当に手で掘ったのかと思うくらいきれいな穴だった。
外は夜なのでとても暗かった。
ここは街の市場か、よく市場の人にばれなかったなと私は思う。
とりあえず、人目のつかない所に行こう。
街の門の前まで着くと、なにやらガヤガヤと騒がしい。
何事かと思うと奴隷たちが這いつくばっている。
「お~い342番?なぜ私の元から離れた?誰が手引きした?言ってみろ」
「………」
商人の男が青髪の女性に怒りを隠しながら聞いている。
「…殺せ」
近くにいた兵士は青髪の女性を切り殺した。
「きゃあああっ!」
となりにいる女性が隣で殺された女性を見て震えている。
すると彼女は私と目が合い、「逃げて」と
口でそう言っているのが分かった。
「ええい!もういい!こいつらを殺せ!」
兵士たちがその場にいた20人の奴隷を殺し始める。
まるで7年前のようだった。
もう思い出したくないあの悪夢。
「あああああああああっ!」
「ちっ、まだ生き残りがいたのか!追え!追え!」
私は走った、泣きながら。
捕まったら待つのは死だ。折角自由になれるチャンスだった。
期待はしていないと思いつつも少しずつ自分の中で希望が膨らんでいた。
「大丈夫か?」
見上げるとそこにはあの奇妙な格好の男性がそこにいた。
希望はまだあったのだ。
奴隷少女視点はここで終わりです!次から主人公の楓君になります!