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心の転生

 俺達が街に戻った時には既に、決起集会が行われている最中であった。


「……我らが首長ディオスを王位に仕立て、ここに新たなる国を建立する!!」


「「「「「「おおぉー!!」」」」」」


「……」


 俺は黙って再びヘルプを押した。


『……このゲーム、建国できたの?』


「できるよー! ミーとしてはお勧めしないけど!」


『……建国することのメリットは?』


 最初は軽い気持ちで訊いていた。


 だがある事に気が付いた俺は、そこから言葉を一つ一つ選び取る様に、注意深く質問を始めた。


「うーん、やっぱり新しい国を作るとして、新たなカラーが生まれることが一番大きいね。そして今回白を国の色として決めたようだからほとんどの人――つまりまだ他の国に仕えていない人全てを対象に国民として認めるようだよ。つまり今ある国だと職業がある程度固定されるけど、この白き国だと職業は固定されないのがメリットというべきかな」


 やはりテンプレというべきか、当たり前の答えを返してきた。事実首長の身に纏うは白きマント。そしてステータスボードを開けばもれなく俺達は新たなる国「ストラード」国民として扱われている様である。


『……どうしてこのようなことが通ったんだ?』


「現時点でのホワイトだけで、選挙を行ったようだよ」


『なっ!?』


「ユー達はもちろんドラゴン討伐でいなかった時だけど!」


 俺はそこで異議を申し立てた。


『そんな選挙無効だ!』


「有効だよ」


 そこで初めて、システマは俺尾震え上がらせるような、不気味な笑みを浮かべた。


「だって、街にいた過半数以上のホワイトの有効票があるし、国を作るための三分の二の賛成を得たんだもん。合法にこの国は建てられたし、ミーもこの国を認めざるを得ない」


 システマは淡々と話すが、俺は現時点での国づくりの、見落としてはならない大きなデメリットに気が付いていた。


 そしてそれが、システマの口から出るのを恐れた。


 だがこれだけは聞いておかなければならない。


『――現時点で、皆が低レベルの時点で建国する大きなデメリットを教えてくれ』


「……やっぱりユーは賢いね」


 その直後のことだった――


「――皆伏せろ――!」


 ――首長の頭上に、雨の様な銃弾が降り注がれたのは。


「――他の国から、弱小国として狙われる事かな」


 俺達の頭上に、マシンバラ製の巨大な空中要塞が影を落としていた。


『……皆! この街から脱出だ!』


 俺は声を張り上げたがアヤはおろかシロガネですら、眼前の光景に目を疑いその場を動くことができなかった。


「そ、空に……」


「どうして導王の魔法陣が――」


 次の瞬間、街に光の柱が幾何も立ち並んだ。


「っぎゃああぁぁあぁ!!」


 人々の悲鳴と、アバターが消えていく中、俺は憤りを覚えた。どうして国を建てようなどと思いついたのか。どうして先を見通せないのか。


 ――どうしてそんな、愚かな選択肢を選んだのか。


 だが今は脱出を最優先しなければ――


『オイッ! ぼさっとしないで逃げるぞ!』


「……ま、待ってくれ……」


『何をして――』


 ミツキはこの光景に腰をぬかし、動けなかった。


 ステータスバーには「恐怖」という文字が浮かび上がっている。


「……!」


 俺はミツキを担ぎ上げ、慌てふためくアヤを落ち着かせつつ街の脱出を図った。


『浅き森まで走れ! そこなら発見されづらい!』


「御意に! だが周りの者達は――」


 中には負傷し中途半端に動けないまま、助けを求める者がいた。




「……ッ」


 だが俺は助けることができなかった。助け切れるほどの力を持っていなかった。


 途中アヤもその声に耐えることが出来ない様子だったが、俺が背後から肩に手を置き落ち着かせることで、何とか最後まで走りきることができた。


『……俺は、俺は――』


 ――何も、できなかった。




「……」


 街を焼く煙は、どこまで遠くへ行っても視界に入ってきた。始まりの草原には、多くのリセットされた人間がぼう然と立っていた。


「……」


「――やあやあ、ユー達はこの世界の訪問者だね!」


 聞きたくもないセリフを、システマは淡々と冒険者に語り始める。


「……」


 俺はその場にいるのが耐えられなかった。かといって浅き森には今、ホワイト狩りに来ている多くの国々の兵が潜んでいるだろう。


『……俺は、俺は――』


 俺はふさぎ込んだ。結局のところどういう選択を取ろうが俺は、悲惨な目に合うように調整されているらしい。


『……もう、疲れた』


 俺はこの記憶も捨ててしまおうと思った。


 ちょうど目の前に太刀がある。それで自害すれば――


「待て!」


 そんな俺を止めたのは、いつの間にか「恐怖」のステータスが消えていたミツキだった。


「早まるな!」


『無駄だったんだ。俺は誰も助けることが出来なかった』


「しかし私を――」


『俺は! 助けを呼ぶ他のプレイヤーの手を振り払ったんだよ!!』


 そこまで言って、やっとミツキは俺から手を離した。


『……』


 俺は黙ってパーティ解散のボタンを押した。


「むっ! 待てっ、ジョージ! 一体何を――」


 もう誰も傷つけたくない。もう、俺に――


『――誰も構うな。俺一人で、この戦争を――』




 ――終わらせてやる。



意味深に終わりましたが、製品版という名の本編を書くかどうか、考え中です。

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