盲点
魔法陣が光り出し、オレは警戒の念を強めた。
だがそれ以上のことは無く、再びドラゴンは攻撃を始める。
――何故あのドラゴンは俺を攻撃しない? 更に言うならなぜあの魔導師は攻撃されない。
魔導師のレベルは二十五。おれ達よりレベルが高いとはいえヘイト減少の魔法やスキルはまだ組めないはずだ。
「……」
『全員いったん退避。散開しろ!』
「どういうつもりでござる!?」
『いいから早く!』
俺はパーティに指示した後、試しにその場を離れてみることにした。
案の定ドラゴンは魔導師を無視して俺の方へと真っ直ぐに向かってくる。
「……」
やはり。
俺を追ってきている。相変わらず黒いブレスが辺りを燃やし尽くしている。
しかしそれにしては攻撃の精度が悪くなってきていないか?
「……」
俺は怪しんだ。もし敵が見えていないのだとしたら、攻撃があたるはずも無い。
「……」
俺はもう少しだけ離れてみることにした。
すると不思議なことが目の前で起きた。
『……ん?』
突然ドラゴンが止まった――というより、これ以上追ってはこれないのだろうか、その場をホバリングするだけで追ってくることが無い。
「……」
俺はゆっくりと近づいてみた。すると――
「ボガァァ!」
やっべ、ブレス危なっ!
すれすれで回避できた俺は、再び推理を始めた。
「……」
何故ドラゴンはそれ以上追うことができないのか。そして攻撃の手も来る気配など無く、ただ辺りを見回しているだけだ。
「……」
おかしい。どうも野生のモンスターの動きとは思えない。
『……もしかして』
俺は他のメンバーにチャットを飛ばし、ある作戦を立ててみることにした。
『……もう一度あの魔導師の元へ向かうぞ』
「というより、今ドラゴンは何処にいるのだ?」
『俺の目の前にいる』
「だいじょうぶですかっ!? 襲われて――」
『ない。今はな』
「……どういう事でござる?」
『とりあえず、俺の言うとおりにしてくれ』
作戦はこうだ。俺とミツキ、そしてアヤが陽動としてドラゴンを引き連れて魔導師の元へと戻る。
魔導師はもちろんドラゴンに攻撃するだろう。形だけだが。
それに気を取られている内にシロガネが魔導師にアンブッシュを仕掛けるという作戦だ。
陳腐なものかもしれないが、これで道が開ける可能性がある。
『……何とか俺と合流したという形で谷に戻ってくれ。後は俺がなんとかする。その間にシロガネは頼む』
「御意。しかし序盤からPKになるとは――」
『……案外ならないかもしれないぞ』
「それは一体――」
まあ、そうなる事を半分祈るだけだが。
「――来るぞ!」
『こいつしつこいな……!』
魔導師はミツキと俺の声に反応し、こちらの方を向く。
何故か戻ってきたときには他のパーティがいなかった。だがそれが俺の推理を確信付けさせる。
現状俺達は囮だ。最初からこっちの方を向いてくれれば作戦は半分成功だ。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
あのさぁ、いくら演技にリアリティを求めるといったって減って無いHPに回復魔法は辞めて貰えませんかねぇ……。
しかし魔導師は特にこちらに警戒する様子も無く、黙ったまままた魔法を撃ち始める。
『大丈夫だ! 体勢を立て直し、再び攻撃を仕掛けるぞ!』
――この言葉が合図だった。
「――ハァッ!」
「ぐっ!?」
アンブッシュ成功。魔導師のHPは一瞬にして半分にまで削れた。
それと同時に、ドラゴンの方にも不穏な動きを見ることができた。
「グアァァ!」
思った通り、ドラゴンはダメージを受けていないのに仰け反り、呻き声を上げた。
「……一体どういう事なのだ?」
『簡単なことだ。ボスはドラゴンじゃなく、あの魔導師だったという訳さ』
「ば、ばかなぁ!? 何故ばれた!?」
あのミッションは間違いだ。首長がドラゴンを見たという話だけを聞いた結果、ドラゴンがボスというミッションが仕立て上げられただけだ。
『最初から、そこの魔導師がボスだったというわけだ』
そう、このドラゴンもシャドウドラゴンによく似た偽物。おそらくワイバーンなどに特殊魔法をかけて幻術を見せているだけだろう。
『序盤にシャドウドラゴンが出てくる難易度だ。中盤にあるボスの正体が違っているパターンも十分考慮できる。俺達が戻ってきた時に他のパーティメンバーがいないのは、恐らく弱った所をこいつの魔法で倒されたのだろう』
俺の名推理に周りの者も納得し、今回の首謀者でありボスでもある魔導師に総攻撃を仕掛ける。
「そうと分かれば総攻撃でござる! 烈風刃!」
「練空拳!」
俺はもう一度剣を鞘におさめ、居合の構えを取る。
『――抜剣法!』
ドラゴンがいるとはいえ狙うは魔導師一人。明らかにこちらの方が早く攻撃が通じる。
「ぐはぁぁっ!」
HPが0になると同時に、すぐ後ろまで迫っていたドラゴンの姿も塵と消えて行った。
『っし』
「やったでござる!」
「うむ」
「よ、よかったですっ」
魔導師を倒し終えると、頭上でファンファーレが鳴る。それはクエスト完了を知らせる音でもあった。
それと同時に俺のレベルも上がり、クラスチェンジができるようになった。
『――よし』
俺は手に入れたばかりの電太刀を腰に挿げ、周りに見せびらかす。
軽く刀を振るう。するとバチバチと青い電流が刀身を這い、バチバチと破裂音を響かせる。
「……お主、もう電太刀を手に入れたか」
『たまたまストラードの途中でパルスサーペントが出たからね。おかげで死にかけたけど』
「私が倒したぞ!」
ええ、感謝しておりますとも。
「――やあやあ、よくやったねユー達!」
ヘルプボタンを押していないのに、何故かこの世界の管理人が現れる。
「ユー達ならできると信じていたよ!」
『普通気づかないからこんなの』
「まあまあ、それだけこの世界が複雑化しているという事で」
難易度が上がっている事だけは否定できないようだ。それにしてもこの管理人はよく俺に絡んでくるな。
『……面倒くさいんでもういいですよ』
「なっ、せっかくユー達にとって緊急な情報をもってきてあげたのになー」
『すいませんいくらでもいて貰って構いません、どうかその情報を教えてくださいませ』
我ながら綺麗な掌返しだが、それでも必要なものは手に入れなければ。
「フフーン、いいよ、教えてあげる」
さて、これでしょうも無い情報だったらどうしてやろうか。
「ストラードを首都に、新たな国が立ち上げられようとしているよ!」
……は?
『はぁー!?』