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思惑

 西の山までおおよそ三十分。そしてそこからシャドウドラゴンのいる渓谷まで三十分。合計一時間の旅路だった。


 道中それなりに敵とも遭遇、それなりにレベルを上げることもできた。


 そして俺を先頭にミツキ、シロガネ、アヤの順で崖近くを延々と歩き続け、徐々にドラゴンのいる谷底へと向かう。


「あわわ、これ足を滑らせれば――」


「ゲームオーバーでござろうな。しかし安心なされよ。文字通り痛みは一瞬でござろうから」


「あわわわわ……」


 どうしてそう無駄にビビらせるかなシロガネさん。ここで足を滑らせてしまっては――


「あぁっ!?」


 俺は視界からミツキが消える瞬間を逃さなかった。すぐさま手を伸ばし落ちそうになったミツキを救い出す。


『だ、大丈夫!?』


 右手で何とか捕まえたミツキを引っ張りあげると、俺の引っ張りが強かったのかミツキはそのまま俺に飛びついてくる。


『あっ、ごめ――』


「し、死ぬかと思った……」


 どうやら死の恐怖に怯え、ミツキは自ら飛びついたらしい。俺は女の子特有の胸の柔らかい感触に包まれ、少しの間役得を感じていたが、周りの視線が痛いことに気が付く。


『……あのー』


「……! す、すまないっ! 思わず抱きついてしまって……」


『いいけど――』


「所詮ジョージ殿も男よ……」


 誰だっておっぱい押しつけられたら喜びますよそりゃ、ええ。ひきこもりでも男だ。パソコンでそういうものを調べる日だってくる。


『……とりあえず先に行こうか……』


「そうだな。先へ急ごう」


 微妙な空気を漂わせた原因は空気が読めていない様だが、そうかまってはいられない。俺は再び例のドラゴンの待つ谷底へと足を進めていった。




「――回復はまだかぁっ!?」


「こっちに向かってきたぞ!」


「あぁ! うちのパーティから一人やられた!」


「また一人喰われたぞ! 盾役はどうしたんだ!?」


「そんな者とうに壊滅状態だ!」


 俺がたどりついた時にはすでに戦闘は始まっていた――が、それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


 恐らく元は三十人で戦っていたのだろうが、既に残っているのは五人ほど。そしていずれもがパーティを率いることができるほどこのゲームに慣れていた経験者だけだった。


 そしてそれ以外の全てが、その暗き影に呑みこまれ、闇の業火の前に灰と化していた。


『……あのさぁ』


 ドラゴンのレベル表記が五十のままなんですけど。


『ふざけんな!』


「無理でござる!」


 何でレベルは据え置きなんだよ! 俺達死にに来ただけじゃん!


 とはいえ周りを見渡すと、犠牲を払っているだけに四分の一は減らせている様だ。


 ――そして生き残りの中に、俺がここに来る前噂をしていたそれに当てはまる、魔導師の姿もあった。


『……一人だけ強いようだな』


「恐らくあの魔導師の事でござろう?」


『ああ』


 一人だけフードを目深にかぶり、自分の顔をさらさないようにしている。そして多くを喋ることも無く、パーティの状況を伝達する様子もない。


『あいつ一人だけでやっているな』


「どうやら周りはヘイト稼ぎくらいにしか思ってないのでござろう」


 その通り、できるだけ周りに注意を引かせ、その隙に防御値無視の風魔法で相手を引き裂いていた。


『……すごいな。噂に聞く導王か?』


「それは無いでござる。導王はもう少しうるさい奴であった」


 シロガネはどうやら導王を知っているらしい口ぶりのようだが、俺は直接そいつを知らない。


 あのゲームで唯一王が交代した都市がある。


 導王が統治する街ブラックアート。魔法が栄えた町であり魔導師ソーサラーの育成にもってこいの場所だ。


 ――そして初代導王、つまりNPCであった王を差し置いて初めて王の座を奪った者がいた。


 噂では千の魔法を操り一騎当千の武功を積んだという。


「だが我としては現時点でのあの強さの魔導師は誰か? と聞かれればあの導王以外ないでござる」


 魔法職は敵の弱点属性を理解することが基本だ。しかしその段階を超えて次は全体を見越した戦略を立てる事が重要だ。


「――裁断リッパー


 分断魔法――しかし初級魔法が主流の現時点(レベル十)で中級魔法が出てくるという事は、確実に序盤の攻略法を知っているという事。


 そしてフードを被った魔導師の攻撃はシャドウドラゴンに的確にヒットしている。


『……防御力が高いシャドウドラゴンを相手に「裁断リッパー」は確かに有効だ』


「手練れでござる。が、しかし周りの犠牲を一切見ていないで候」


 そう、回復魔法を要求されてもそれに一切耳を傾けず、ただひたすらに駒が全て倒れるまで同じ魔法を繰り返す。


『俺達も参戦するぞ』


「御意」


「うむ」


「え、えーとっ、後方支援しますっ!」


 アヤが援護のための補助魔法をかけ終えると、俺達は戦線へと加わることにした。


抜剣法ばっけんほう――』


 最初だけ仕える特殊技。超速の居合により防御無視の切断攻撃ができる技だ。


『シッ――』


「グオアアァ!」


 上手くヒットし、ダメージを与える。だがレベル五十にとってはかすり傷に過ぎない。


「ハアアァッ!」


 ミツキが練撃を加えるが、いずれもむなしくダメージ表記が一の連続だ。


「……!」


 そしてシロガネもまた不意打ちによる防御無視攻撃を加えるが削りが少ない。


「再び隠れるでござる!」


 シロガネがまたアンブッシュ攻撃を仕掛けようとしていると、それを逃すまいとシャドウドラゴンは狙いを定める。


 ……何故だ。


『俺が一番ダメージを与えた筈だ! 何故俺に――』


 ――ヘイトが向かない?


「がはっ!?」


 シロガネは背後から攻撃を喰らい、HPを一気に減らしてしまう。


『いったん下がれ! アヤは回復を!』


「はいっ!」


 すぐさまアヤが回復魔法を撃って何とかしのぐが、このゲームのアルゴリズムの違いに違和感を覚えた。


『おかしい……そう思えば何故あいつは標的にされない?』


 あの魔導師が一番ダメージを与えているのだ。


「……フッ」


 俺の驚いた表情を知ってか知らずか、魔導師は不敵に笑う。


 そして辺りに仕掛けてあった魔法陣が一斉に輝きだす。


『マズイな……』


 俺はこの戦いに、早くも敗北の予感を感じていた。



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