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 既に首長の家の前の人だかりは消え、残っているのは恐らく戦闘が起きたのだろう生々しい切断の跡や、壁のへこみが見られる。


「……」


 これは中々に規模の大きい戦闘が起きたようだ。このせいで何人がリセットをくらったのだろうか。


『これは……』


「何という惨状でござろう」


「序盤でこれほどの戦闘が起きるとは、懐かしいな」


 恐らく俺とミツキだけだろう。この場に懐かしさを感じるのは。


 最初の時もそうだった。ゲーム内で俺とミツキがこの街で分かれ、その後またすぐにまた会った。


 その時はこの先着争いに俺は参加し、ミツキは遠くで見ていた。そしてその場で最後までたっていたのは俺と、その時たまたま組んでいた別のメンバーだけだった。


『この場で最後まで生き残ったのが誰か分かるか?』


「ふむ……」


 シロガネが戦いの跡を見てこの場で争った人数、クラス、そして戦闘状況を推理する。


 推理スキルをシロガネが持っているようでよかった。


「恐らく近接戦闘でござろう。魔法を使用した痕跡――燃えカスや氷が見当たらないで候」


『そうか……』


「あ、あのっ」


 あれから黙ったままだったアヤが口を開く。何を伝えたいのか。


『何かな?』


「魔法は使用されたと思いますっ、そのっ、なんか風のエレメントが騒いでて――」


『風……確かに初期魔法で風属性の魔法はあるようだが』


「恐らく壁の傷跡も、風属性の切断魔法かと思うんですけどっ」


 そうなると少々話が変わってくる。初期魔法だと風属性はせいぜい敵を浮かせて転ばすくらいしかできないはずだ。だがここまでに魔導書を読んでいるとしたら――


『少々厄介だな……』


「むっ、どうしてだ?」


『いや、序盤で魔導書を手に入れているという事は少なくとも経験者、更に言えばその獲得競争に勝った熟練者ともいえる』


「なるほど……」


「面倒でござるな……」


『既にこの場を去っているという事は、何らかのクエストに向かったに違いない。遅れを取らないよう急ごう』


 そう言って俺は家の戸を叩く。


「入れ」


 言われるがままに俺達は中に入ると、見覚えのある長い髭と、猛々しい腕、そして大剣を携えた中年と会いまみえた。


「何のようだ」


『俺達は旅人だ。最近この辺で起きていることを教えてほしい』


「何だお前もか……よかろう、今から話してやる」


 やはりこの男が次のクエストへのフラグだったか。


「――西の山に、最近大きな影が飛び回るようになったと言われている」


 え? ちょっと待って。


 その場で青ざめていたのは俺とシロガネだけだった。


『……すいません少しだけいいですか?』


「何だ?」


『ちょっと仲間で相談したいことがあって……』


「変なヤツだな……まあ、良いだろう」


 寛容な首長から許可を得たところで俺とシロガネとで残りの二人の方を向く。


『……これ無理ゲーだわ』


「何で序盤にドラゴンが……」


「何だなんだ? 一体どういう意味だ?」


「へぇっ!? ドッ、ドラゴ――」


『シーッ!』


 今更になって驚くアヤの口をシロガネが急いで塞ぐ。それを見て察したミツキはこっそりとオレに耳打ちをする。


「……どういう事だ?」


『ドラゴン種の討伐は普通中盤から出るはずなんだよ。平均レベル三十ぐらいの奴でないと討伐は難しいとされているのに、あの首長俺達のレベルを考えていないよ』


 しかもこの辺で出てくるドラゴンなど、特殊クエストのブシャドウドラゴンしか思いつかない。


 その名の通り影のように真っ黒なドラゴンで夜にしか活動せず、満月の夜以外は闇夜に紛れて補足がし難いというクソモンスターではないか。


 序盤にこれとは、あの管理人の頭のアルゴリズムを変えなければならない。


 ん? 管理人?


「……」


 俺は黙ってステータスボードのヘルプボタンを押した。すると例の管理人がどこからともなく現れ俺に馴れ馴れしく話しかけてくる。


「何々ー? ミーに何か用かな?」


『あのさぁ……』


「ん?」


『序盤にシャドウドラゴンのクエスト設置する馬鹿がどこにいるんですか?』


「ん? ユーの目の前にいるけど?」


 開き直られるとぐうの音も言い返せない。


『……今日って満月?』


「いいや、新月だけど?」


 オワタ。闇に溶け込まれて補足など完全に不可能だ。


「それにしてもユーだけだね。今日の月の満ち欠けを聞いたのは」


『……え?』


「他の人達もドラゴンとまで察するのはいいけど、シャドウドラゴンという事までは分からなかったし予測もしていなかったようだよ」


 てことは先行組は恐らく全滅か。


『……今何時だ?』


「今午後三時だね」


『というよりも今の季節は?』


「春だね。スプリングー」


 という事は日没まで後三時間か。


「……」


「何を色々と訊いているのでござるか?」


『少し黙ってくれ。考えている途中だ』


 もしかすると……もしかするとだ。


『……先行組には二つの可能性がある。一つは情報不足による全滅。もう一つはシャドウドラゴンの巣を知っているから日没前に叩きに行ったか』


「そうだね。ユーの推理力には参ったよ!」


 システマがうざくなってきたためヘルプを解除しようかと思ったが、俺は最後に一つだけまた質問をした。


『何人このクエストを受けた?』


「……」


 すると今までぺらぺらと喋っていたシステマが突然黙りこくる。


『……どうした?』


「ゴメン、ミーが教えるのは日にちとか基本操作だけど、そういう経験者特有の踏み入った質問は答えられないんだ。ミーはあくまで初心者の手助けをするだけ。オッケー?」


『……分かった』


 そう言ってヘルプボタンを押しなおして俺は三人の方を向く。


『……どうする? これからレベル上げをして万全に整えてから向かっても構わないし、今から最速で行って巣を叩きに行ってもいい』


「我はどちらでも構わないでござる」


「わ、私はっ、もうちょっとレベルを上げた方がいいかとっ」


 確かにそうだ。常識的に考えれば直行はリスクが高い。だが――


「私は今からでも行っていいぞ。強い奴と戦えるのだろう?」


 勇猛なのか無謀なのか、ミツキは今から行くことを提案した。


「えぇーっ!? ぜぜぜっ絶対無理ですよっ!」


「言っても序盤のクエストなのだろう? そこまで難しいとは思えんが」


 そうだ。シャドウドラゴンとはいえ序盤に出てくるのだ、調整が施されている可能性も残されている。


『……じゃあ、行こうか』


「うむ」


「了解した」


「あわわわっ――」


 俺は首長の方を向き直り、再び声を掛ける。


『――その話、詳しく聞かせてください』



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