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王の名を冠する者

 右手に構えるは鎌。左手で振るうは鎖の付いた分銅。鎖帷子で身を包み、いつも戦場で見るあの冷たい視線が俺に突き刺さっている。


「情けない。それでも“刀王とうおう”でごさるか?」


 ……あーあ、それ序盤で言っちゃうか普通?


「と、刀王だと!?」


 案の定その言葉で俺の周りを取り囲んでいたプレイヤーが恐れおののく。


 無理もない。


「“王”の位を持つ者の一人か!? そんな奴がどうしてここに!?」


 ――事実この世界に生身の人間として来る前、俺のアバターはこの世界で“刀王”という位に就いていた。


 この世界において六王以外に“王”と名の付く位はあるが、非常に希少かつ高名であり、事実その国でナンバーツーの実力を持っていることに等しい。またその武器の使い手としてトップランカーであることを示している。


 俺は以前ゲーム内で刀を愛用していたため、必然と刀王のくらいを目指すことになっていた。その位を手に入れるための一騎打ちは数知れず、その全てを俺は無敗で切り抜けてきた。


 なかには一対複数もあったがその全てを無傷で返り討ちに、故に近接職の中ではほぼ最強に近い存在と恐れられ、戦場でも俺が現れるたびに敵軍は毎回クモの子を散らすかのように撤退していく。


 そんなゲーム内で有名なプレイヤーを前にして、チンピラ風情が正気を保てるわけも無かった。


 そして俺がこうも強気でいられるのにはもう一つ原因がある。


「ば、ばかなっ!?」


 先ほど倒したプレイヤーの死因は鎌による暗殺。その一撃は必ず首元等を狙うため防御力など意味が無くなる。


 そしてそれを見事成し遂げた目の前の忍者もまた、有名なプレイヤーだった。


『……元“忍王にんおう”が面白い事を言うな』


「フン、今のお主の慌て様に比べればまだまだ」


 プレイヤー名「白銀の影」――通称シロガネ。口が達者な彼女だが、その位と実力は誰もが認めるレベルだ。なにせ俺が仕えていた剣王の国「ベヨシュタット」の高官を何人も闇に葬っている。それも誰にも気づかれずにだ。


 気づかれていないにもかかわらず、なぜ彼女が葬っているのが分かるのか。


 答えは簡単だ。毎回毎回律儀にも天誅と書かれた手紙を、死体の近くに置いていくからだ。


 どうやら彼女は完全に忍になりきっているつもりである様で、フリーでパーティを組んだことがあるがいつも「〜でござる」「〜にて候」などインチキ臭い忍者語でチャットをしていた。


 しかしなぜ彼女が俺を助けたのか。


「一般人が悪漢に襲われていると思い助太刀に参ったのでござるが……必要無さそうでござるな」


 いやめっちゃ必要です。


『……フハハハハ! お前も初期クラスじゃこの人数は無理なようだな!』


 いやなんで挑発したんでしょうね。ゲーム時代の名残が無意識に出ているのか?


「たわけが! お主の手を借りぬともこの程度の下郎、打ち砕いてみせる!」


 そう言って勢いよく俺の近くに着地&パーティ参加。これで三対五。しかも先ほどのやり取りを聞いてか、二人の王を相手に立ちまわれる自信を失っている。


「む、無理だ……王二人を相手に勝てる訳がねぇ」


「で、でも……初期装備だぞ?」


「馬鹿かてめぇ! あの刀王の方はナマクラ刀でブラッドマウンテンの番人を一人で倒した伝説を持っているんだぞ!?」


 あ、それはガセです。本当は二人パーティでどんくさい相方がナマクラ刀を持っていただけです。俺は普通に倒しました。


「あの番人を!? ……無理だ! 勝てる訳が無い!」


 いやあの番人一撃重いけど動き遅いから刀でいなしまくっていたら余裕でしたよ?


 まあいいや。無駄にビビっているようだしここはいつものアレ、言っておくか。


『……さっさと前に出ろ。叩き斬ってやる』


「案ずること無かれ。死の苦しみは一瞬なり」


 なんでお前も決め台詞言っているの?


「むっ……かっこいい口上だな。では私も何か――」


『しなくていいいから』


「むぅ……」


 チャットで言うのはそこまでないけど実際自分が目の前で発言するとなると機械音声でもかなり恥ずかしい……でも相手はこれで完全に逃げ腰になっている様だ。


「ゆ、許してください!」


「慈悲など無用!」


 いや無駄な戦闘要らないからねシロガネさん。


 そう思っていたところで突然先ほどまで後ろで隠れていた魔導師にチンピラの怒りが向けられる。


「おいどんくさい魔導師! てめぇのせいだぞ!」


「えっ!? えっ!? 言う通りにすれば解放してやるって言ったじゃないですか!?」


 なるほど。アヤも利用されていただけか。まあこんなのがあんな策を張れるとは思えないが。


「うるせぇ! ……とにかく今は退散だ!」


「覚えてろよ!」


 いちいち覚えてられないよそんなこと。まあいいや。


 それよりシロガネという心強い知り合いを発見したことが喜ばしい限りだ。


『サンクス』


「礼には及ばん。しかしお主もさっそくパーティを組んでおるようだが」


『そのうち一人がPKモードをオンにしてこのようなことが起きたんだけどね』


「それは卑怯千万! 始末するか?」


 苦無を光らせるのは止めてください。俺も色々とそれにはトラウマがあるんです。


「ひぃっ!」


『その人はやらされていただけだから、そこまでする必要は無いよ』


「そうか……」


 苦無を収めてくれたところでようやくこの世界に引き込まれたことについて話ができそうだ。


「私は「でゅーかー」に忍んでいたところで気を失い、こっちに来ていたでござる」


『デューカーか……拳王の所で何を?』


「もちろん悪徳高官に天誅を下すところでござった。しかしこっちに来ては何が何だかわからんでござるよ」


 やはりリアルでござる口調はきついものがあるな。しかも本人は冷徹そうな見た目であってその口調だから変にこみあげてくるものがある。


「何をニヤニヤとしているでござる」


『いやー、何でもないよ』


「私に隠し事は通用せんぞ」


『げ、現時点で隠すことなんてないよ』


「あ、あのー」


 そうだった。ミツキとアヤを放置しっぱなしだった。


「お二人はどういったご関係で?」


「宿敵同士であった」


『まあそれで合ってるかな。戦場ではしょっちゅうアンブッシュしかけて来たし』


「それに御二方とも元“王”だとか」


「そうだが?」


 さらりとシロガネは言っているが、王の位を得られるなど滅多にないことである。更に言うならその位を持った者が二人そろっていることがもっと驚くべきことである。


「す、すいませんでしたぁっ!」


 そう言ってアヤが顔を青ざめてパーティから外れる。


「私みたいな役立たずが、そんなすごいパーティにいる事なんてできません! さっきの事もありますし本当にすいません!」


 頭をぺこぺこと下げるが俺としてはあまり気分が良くなかった。


 自分自身を見ているようで胸糞が悪くなるからだ。

 

『……頭を下げるのをやめてくれるかな』


「ひゃいっ!」


 アヤは突然の俺の発言に声を裏返らせる。


『言っておくけどそれは過去の話だ。今は君たちと同じ初期装備のただの剣士だ』


「私もただの下忍で候。いずれは王の座を再び我が手に取り戻すが」


『そういう訳だ。君はパーティにいてもいいんだよ』


「……いいんですか?」


 そう言ってアヤは恐るおそる俺が差し出した手を握る。


『……宜しく』


「よっ、宜しくお願いします!」


 これでまずは四人そろった。パーティの空きは後二人。そしてそろそろ首長の家の前が開いている頃だろう。




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