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はじめての戦闘

 ……詰んだ。


 というよりオワタ、とでもいうべきであろうか。


「グルルル……」


「ルガァッ!」


「フシューッ……」


 ウルフが現れた!


 ウルフが現れた!


 グラップベアーが現れた!


 パルスサーペントが現れた!


「……」


 序盤の雑魚敵としてウルフはいい。グラップベアーも掴み技が強いが隙が大きいのでなんとかできない訳でも無い。


 問題は黄色い大蛇、パルスサーペントだ。


「……」


 始まりの草原から北へ向かうと、最初の目的地である「ストラード」へとたどり着くことができる。


 通称「白き街」「不可侵地域」と言われ、無所属のものが最初に目指す場所だ。ここで仕える国を選んで馬車で移動したり、憩いの場として居座ったりもできる。


 その前にそこへ行くにはまず「浅き森」を抜けなければならない。


 浅き森は名前とは裏腹に緑が生い茂っており常に薄暗く、夜になるとパルスサーペントというレアモンスターが現れる。


 このパルスサーペントを倒すと「電太刀でんだち」というユニーク武器を落とす。それは剣士を育てて侍にランクアップすると使える様になる、序盤便利な野太刀なのだが――


「……」


 ここまで来るのにモンスターを倒してきたため今のレベルは5。単体でパルスサーペントと戦ってぎりぎり勝てるかどうかぐらいだ。


 しかし今回それに加えウルフとグラップベアーがいる。パルスサーペントの固有技「スタントゥース」をくらえば、麻痺状態のままボコボコにされて一貫の終わりだ。そしてこんなところで今までの知識を失ってしまう事にもなってしまう。


「……」


 というよりも、何で昼間にスタンサーペントが普通に出てきているの? あれか? アルゴリズムが変わったってこういう事なのか?


『……おわた』


 そう呟きながらも先ほど手に入れた銅剣を構える。何とかするしかあるまい。


「……」


 相手方も戦闘態勢にはいる。


 俺は剣を両手に持って、横薙ぎの体制を取る。そして――


「! グゥォッ!?」


 ハンマー投げの要領で投擲&逃走。銅剣はどうやらグラップベアーに当たったようだ。うめき声とともにこちらのレベルアップ音が鳴り響く。


『うおおおおっ!』


 キーボードで叫び声を打ち込むのは我ながらシュールだが、これで一人でも周りのプライヤーが気づいてくれないものか。


 せめて遠距離型のプレイヤーがいれば――


「誰かいるのか!?」


 女性の勇ましい声が聞こえる。良かった、女性なら大抵遠距離型の魔導師ソーサレスだったり支援型の僧侶だったりするのだが――


「手を貸そう!」


 俺は盛大にずっこけた。まさかまさかの闘士ファイター。しかも初期装備。長い髪を揺らして戦闘態勢を取っているが闘士初期の隙だらけの型だ。おまけに少女は変に一直線そうだ。


 手を貸すどころか足引っ張りにもなりかねない。


『……チェンジで』


「何を呆けたことを言っておるのだ! 貴様の後ろにはモンスターがいるではないか!」


 ウルフは何とか撒いたようだがパルスサーペントはしっかりとついて来ている。


「何だこの蛇は? 見たことが無いぞ」


『ちょっと黙ってもらえませんか』


 幸いパルスサーペント一匹なら、今の俺でも勝ち目はあるはず。


 ステータスボードから初期装備である鉄の片手剣を呼び出し装備する。


「私も手を貸す――」


『俺一人で十分です』


 少女の不満そうな顔を後ろに構えをとる。パルスサーペントの基本行動パターンはこうだ。


 まず飛び掛かりを中心にできる限りこちらをスタントゥースで麻痺状態にしようとする。そして麻痺状態になった者を締め付けて徐々に絞め殺すというパターンだ。


 麻痺治療薬など所持していないため一度でも捕まったらアウトだ。故に接近する際飛び掛かりで伸び切った胴体を切りつけるしかない。


「……」


 幸い今までの数戦で、自分の身体能力は現実よりも向上していることを把握することができた。それでもステータスの範囲内での行動力でしかないが、今の俺には十分だ。


 できる限り飛び込みを誘うために距離を取る。すると案の定スタンサーペントは体を縮め、飛び込みの体勢を取る。


「……」


 来た!


 案の定飛び込みによる噛み突きをしかけてきた。それを回避し伸びた胴体を切りつける。


 少女にヘイトを向かせず、こちらで一気に叩くしかあるまい。


 続けて切り上げを繰り出して二撃目の攻撃を加えると、再び開いては体を縮め始めて攻撃態勢を取る。


「おおっ、やるではないか!」


『うるさいからっ! 集中きれるでしょうが!』


 こっちは命を張っているのだ。かき乱さないでほしい。


「次が来るぞっ!」


 うるさい。


「キシャーッ!」


 サッと避けてまた切りつける。地道だがこれをするしか方法はない。後はこっちの集中力が切れるか相手が先に力尽きるか……と、また来たようだ。


『よっと』


「……それにしてもすごいな。もう敵の攻撃に慣れたようだな」


 何故か聞き覚えのある言葉だが今はそう相手にしてられない。


 ――かれこれ三十回ほどであろうか、ヒット&アウェイで何とか体力を五分の一まで減らすことに成功した。


 しかしそこからは、恐らく誰も見たことが無い構えを見せつけてきた。


「……」


「うむ? どうやら動きが変わったようだが」


 とぐろを巻いてこちらの様子をうかがう。マズイ、この構えを俺は知らない。これは防御体制なのか、攻撃体制なのか。


『……どうするべきか』


 とりあえず周囲三百六十度見回してみる。しかし首だけが常にこちらを向き、その視線は離れることは無い。


「……」


 先手必勝!


『うおおおおっ!』


 首を刎ねる様に空を斬る。しかしそれをあざ笑うかのように隠れていたしっぽに薙ぎ払われる。


『ぐわっ!』


 こういいながらもキーボードでしっかりと悲鳴を打ち込むのは自分がまだまだ余裕だからか。


 しかしその余裕も次の瞬間には消えてしまう。


 すぐにとぐろを解いた大蛇は、俺の身体をその長い体でしばりつけてきた。


「くっ……」


 初めて自分の口から焦りの声が漏れた。LPがどんどん下がってきている。内側から剣で暴れて切り付けようにも縮んだ肉体は思ったより堅く、刃が通りそうな気配がしない。


「大丈夫かっ!?」


『大丈夫な訳無いでしょ!』


 空いた手でタイピングするもその手すら動かなくなってきた。

 

「あ……がっ……」


 首筋にスタントゥース。牙が深く突き刺さり、そこから何かが流し込まれる。


 なるほど、麻痺するとはこういう感覚なのか……などど感心している場合じゃない!

 

「た……すけ……」


 麻痺毒が全身を周りかけているところでようやく少女が状況を理解する。


「LPが減っているぞ!」


 知っているから! 早く助けてよ! 助けてください!


「助太刀しよう! はぁぁぁぁー……」


 気合溜めとかしなくていいから! まず一発当てて拘束解除してよ!


 そうも言ってるうちにLPがどんどん下がって赤くなってゆく。


 ああ、残念ながら俺の冒険はここで終わってしまう様だ。次の俺には勇敢に戦って死んだと伝えておくれ――


「――練空拳れんくうけん!」


 突如俺の身体が吹き飛ぶと同時に、拘束状態から解放される。痺れながらも剣を取って敵の方を振り向くと同時にレベルアップ音が鳴り響いた。


『……勝った?』


「やったぞ! 初めて練空拳が当たった!」


 後ろの方で不穏なワードが聞こえていたが、今はあの少女がいたことに感謝しよう。


『……恩に着るよ』


「それほどでもない。私は貴様が弱らせていたのを横取りしたに過ぎない」


 それでも死なずに済んだだけましだ。


 とりあえず命の恩人に握手を求める。


『俺はジョージ。君は?』


「私の名前はミツキ、という事になっているな」


 自分のステータスボードを見て確認する。というより自分のアバター名すらまだ見ていなかったというのか。


 それにしてもミツキ? みつき? もしかして――


『――もしかして、最初の高原で闘士の男だった人?』


「……その通りだ」


 声のトーンが落ちている。あまり突っ込んでほしく無かったのであろうか。


『ごめん、変なことを訊いたね』


「いいんだ。私は確かにあの時の闘士の男だ。あの時は騙したようですまなかった」


 むしろ女の子と知って多少テンションが上がっているのですが。しかしそれにしてもなぜ男アバターにしていたのかは気になるところだ。


『どうしてあの時男キャラにしていたの?』


 女性アバターでリアルも女性なら姫行為なりできただろうに。もったいない。


「……私はこの通り少々女らしくない所がある。それでせめて架空の世界くらいは男でいたかったのだ」


 むしろそのギャップがイイ! という人もいると思うのだが。まあ姫行為自体俺はあまり好ましくないのだが。


『そうなんだ。まあ今回の事はありがとう』


「こちらこそ変わらず接してくれることが嬉しいよ」


 変わるも何も最初から俺のスタンスは変わらないが。ん? そういえばスタンサーペントを倒した跡に何か落ちている様だ。


『……これは!』


「何だこの刀らしきものは」


 バチバチと空気中に放電する音。刀身を這う青い電流。電太刀キター! 後はレベルを3上げればサムライにクラスチェンジできる! そうなれば序盤これほど楽なものは無い!


『ヨッシャー! ……あ』


 そうだった。ミツキもいたんだった。


「何だそれは? 強いのか?」


 強いも何も序盤役に立つ上、中盤以降ある武器と合成すれば終盤近くまで使用できる優れものだ。はっきり言ってコレの価値を見いだせない人には渡したくない。


『……刀だけど、あんまり強くない上闘士は装備できないね』


 今の俺も装備できないが。


「そうか? なんだか電流が流れていて強そうだぞ?」


 やっぱり騙される訳無いか。しかたないが、ここはじゃんけんで――


「しかし貴様が言うなら本当なのだろう。それは貴様が持つといい。私が装備できないのなら仕方がない」


 え? いいの? 貰っちゃっていいの?


『ありがとう!』


「おおう、そんなに嬉しがられるとは思ってなかったぞっ!?」


 勢いで手を取り感謝の念を伝えたが、冷静に考えたら見ず知らずの少女の手を取ってしまっている。


「――ああっ!? ごめんなさいっ!」


 必死で頭を下げて謝る。しかしそれでも許してもらえるはずが――


「何をそんなに謝る? むしろこっちとしては貴重な戦闘経験をさせてもらった。ありがとうはこっちが言いたい位だ」


 ――よかった。


『……ごめん、ちょっと取り乱しちゃって』


「それはいいが、どうして先ほどからキーボードで喋っている?」


『それは色々とワケがあって……』


「まあいい。私も詮索するのは止めよう」


 本当にいい人だ。序盤で子供っぽいだなん思ってごめんなさい。


「それより麻痺状態のままだが大丈夫か?」


 そういえば緊張とは別に足腰がふらついている。スタンサーペントの麻痺毒を長時間流されるとこうなるのか。


「肩を貸そう」


 そう言ってミツキが肩を貸してくれる。少女に肩を貸される青年など我ながら情けなくも思えるが今はその好意に甘えておこう。


 ――もうすぐだ。もうすぐでストラードに到着するんだ。



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