第二話 D
その日。朝から雨が降りっぱなしだった。学校へ行くには大変憂欝と思わせる天気だ。
リドルは無遅刻無欠席である。学校を遅刻したり、長期にわたって欠席している者達が、人間としてだらなしないと思った。 遅刻をする人間は“ダラシナイ”。それは機械的な思い、いや、彼がもとからの常識的な思いだった。
だから、学校へ行きたくなくとも行かなければならない…。彼はこれを義務として考え、自分の気持ちをおさえつけた。おさえた気持ちというのは、彼の“ガッコウヘイキタクナイ”という気持ちの事で。また、彼は遅刻していくと「どうしたの?」などと、周りから聞かれるのが嫌いだった。彼は、どうしたの?という言葉に深い意味などない、ただあいさつ程度にかわす言葉としか考えてなかった。彼は自分の事をなまいきとか、自分勝手というふうによく思った。
彼は校舎外にある、古い旧校舎の図書室が前から気になっていた。旧校舎は基本的に立ち入り禁止。図書室の使用可がみとめられたらしいが定かでわない。彼は校舎内の図書室によく行っている、Dに声をかけた。Dというのは同じクラスの女子で、友達がたくさんいて、クラスの学級委員で性格が明るい。担任の先生に使用可か聞いてみるのが早いと思うけど、リドルは先生が嫌いだったから、ならば同年代に聞いたほうが身が楽だった。Dは、自分の机で雑誌をみていた。Dは彼が近寄ってきたことに気がついたようだが、気付かぬふりをしていた。
「旧校舎の図書室いったことある?」
Dは見上げるようにして彼をみた。
「ある。」
「どんなとこ?」
「行かないほうがいいよ。カビ臭いし、本の種類も全然ないし。行かないほうがいい。」
彼女の雑誌には宇宙の写真が載っていた。彼は意外だな と思った。彼女は誰よりも外見を気にする人だから、てっきりファッション雑誌かと思った。
リドルはそこにたたずんでいた。彼女は雑誌に目を落として、少したってこういった。
「リドルみたいな人は好きかもね。ああゆう所。」
リドルはすぐには意味が理解できなかった。
「どーゆー意味?」
彼女はしばらく答えようとしなかった。
リドルが言い直そうとしたその一歩前に彼女はこう言った。
「別に。なんでもない事だよ。」
そっけないかんじに言った。彼にはそれが少しむかついた。
「まぁぃいや。今日の放課後行ってみよう。」
彼はそこがおばけ屋敷であれ、掃除を全然してなくとも、本の種類がなくても図書室に行きたかった。何故だかわからぬ、興奮が胸の奥深くにあったから。自分だけの場所がほしかった。それでいて彼は結構、そーゆー事を好んだ。たとえば、鏡の世界に入ってみたいとか、ある日に本を開いたら突然不思議な世界に行っちゃったり!
はっきりいえば、架空の世界が好き、冒険が好きなのだ。外見がクールで大人っぽく通っている彼は、中身はそんな大人びているだなんて、とんでもない!彼は今にも割れそうな鏡のよう。ヒビが入っていない部分は、まだ心が真っ白な部分。
授業がおわると、彼は即座に走った。久しぶりのわくわくした気分だった。「はやく、はやく。図書室に行きたい。」
そんな思いを抱えて、彼はいつもより大股で走った。時計が四時の針をさしているころに。