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本部百葉短編集

コンビニに弁当を買いに行く話

作者: 本部百葉

遊び方

 文章中にいろいろとネタを仕込んでるよ(キラッ)君はいくつ見つけられるかな?

 お友達と競争だぁ!

 冷蔵庫を開けるとそこは空だった。

 正確に言うと、あったはずの食材は消え去り、代わりに一枚の紙切れが入れられていた。大方の検討はつくが、念のため、わずかな希望の為にそれを手にとった。

 ーー貴公宅の食材は私が預かった。加工し振る舞う為、空腹にてしばし待って頂きたく候。

      ーー美しき隣人

 希望はものの見事に打ち砕かれ、残ったチリも風に吹かれて暗い夜空に飛ばされた。今頃は星になって味気ない空を飾っているだろう。

 突然に隣りの部屋から爆発音が響いた。次いで謎の呪文。何かの溶けるような音。再び爆発音。以下ループ。…………。

 美しき隣人が食材をどう加工しているかは知らないが、少なくとも調理しているわけではないだろう。マンガじゃあるまいし料理で爆発なんてしてたまるか。

 平和な夕食なんてものは、桃の林の奥の桃源郷となった。どうせたどり着くことなどできないのだから、夕食を取るには他の方法を考えなければなるまい。

 多少出費はかさむが我が身には変えられない。コンビニで弁当を買うことにした。

 奇怪な音のする部屋を通り過ぎて、アパートの階段を降りた。

 しかし……。戸締りはしっかりしていたはずなのだが、彼女はどうやって部屋に入ったのだろうか。毎度のことながら不思議で仕方が無い。

 アパートから、また爆発音が響いた。



 電線や槍が降ってきたり、爆弾や落語家の噺が落ちていたり、車や芸人が突っ込んできたりしたが、それらとは比べ物にならないほどの危機が目の前にあった。

「なぁ兄ちゃん、ちょいと金貸してくれんか」

 自分は今、リーゼントにサングラスをかけた不良と、蜘蛛の巣に絡まれている。

 こんなところでカツアゲなんてくらったら、家に帰らなければならなくなるではないか。それはつまり、美しき隣人に得体の知れぬ加工物体を振舞われるということである。それだけはなんとしても避けなくてはならない。

「それは残念。今あんまりお金を持っていなくってね。いやぁ、残念だ」

 そしてなにげなく離れようとするが、失敗に終わった。

「あんまりってこたぁ少しは持ってんだな。それでいいから出してくれよ」

 不良が詰め寄ってきて、いよいよダメか、と走り出そうとしたまさにその時だった。何色とも形容し難い不気味な光が身体を包み込み、どういう訳か体が浮かび上がったのだ。

 おおこれがアブダクションか。などと感慨にふ浸る余裕はなく、とにかく何かに掴まろうとするが、近くにはポカンと口を開けて間の抜けた顔をしている不良しかおらず、道端の電柱までは少し遠い。迷う暇もなくリーゼントを掴むが、無駄だった。

 そう、その不良、ヅラだったのである。

 宇宙船に吸い込まれる中、「俺の髪を返せ」という悲痛な叫びを聞いた。



 宇宙船の内部はおおよそ宇宙船らしくなかった。宇宙船らしいとはどんなものかと聞かれると困るが、少なくともこれは違うだろう。

 ベットやテレビ、冷蔵庫なんかはまだしも、なぜだかハニワや付けヒゲ、メイド服などよくわからないものが多くあった。

『ようこそ御客人。気分はいかがかな』

 頭に直接声が響いた。目の前にいる宇宙人らしき人物がテレパシーの様なものを使っているらしい。黒いローブをまとっており、どんな姿をしているのかはわからない。

『貴公には我々の問いに答えてもらう為ここに召喚した。拒否などするまいな。問答に応じるならば、相応の例はしよう。よろしいか』

「え、ああ、はい」

 テレパシーでなくて大丈夫なのか、とも思ったが、そんな超能力は持ち合わせていないのだからどうしようもない。

『快い返答感謝する。それでは早速始めるとしよう』

 そうして宇宙人との問等が始まった。内容については特筆すべき点はなかった。コーラを飲めばゲップが出るくらい当たり前のことを聞かれた、とだけ言っておこう。

『ーーところで、貴公の手にあるそれだが、実に興味深い。我々に譲ってはもらえぬだろうか。……無理に、とは言わぬが』

 その言葉を聞いて、自分の手にリーゼントのズラが握られているのを思い出した。毛が汗で湿っていて、少し気持ち悪い。

「これですか。ええ、かまいませんよ」

 どうせ他人の物だし、そんなことより早く夕食を食べたい。

『おお、おお! それはありがたい。貴公には感謝してもしきれぬな。して、貴公の望みはなんだ? 我々に可能な事柄ならば全力をもって成そうぞ』

 感極まった宇宙人がずいっと近づいて、手を握ってきた。感触は地球人のそれと大差ない。

「すぐそこのコンビニまで送って下さい」

 そう言いながら宇宙人の手をほどいて、ヅラを渡す。

「ところで、その格好や言葉遣いのモデルは地球人なんですか?」

 嫌な予感がしていたので、訊いた。

『うむ、地球ではこれが普通だとな、前の地球人にな、言われたのだ。次の問答には貴公が適任だともな』

 ……美しき隣人の行動範囲は、どうやら宇宙規模だったらしい。



 コンビニの前まで送ってもらって、とりあえず深呼吸をした。

 思えば、長い十数分だった。一生にあるかないかの出来事を多く体験した気がする。それもこれも全部、美しき隣人から振舞われる謎の加工物体を避ける為だ。

 昔アレを食べたが、その日一日トイレが恋人となった。

 ーー今夜はカプセルホテルにでも泊まろう。

 そんなことを考えながら弁当をレジに持っていって、そして気付く。

 この数十分の出来事全てに意味がなかったのだと。その元凶をもはや避けられないのだと。

 もっと早くに気付くべきだったのだ。それこそ、アパートの階段を降りるより前に。

 …………財布、忘れた。



iPhoneで打つのは疲れるね。パソコンが欲しい……。

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