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ローザ=アッハバーナ4

 コボルト達と共に暮らし始めてから新しい発見だらけの生活に満足している。

彼等の狩猟はとてもタメになり、それは人間の新しい文化となると思う、それに彼等が作った堀や柵は今後の街づくりを多いに進歩させる技術だと思う。

此方に移住してきた職人の人達は感動のあまりラフィ達を拝んでいたものだ。

それに慌てふためいていたラフィは普段の凛々しい顔つきはどこへいったのかとても可愛らしく映った。

それに、コボルト達はメンバーにとってBランクに上がるための踏み台のようにしか考えられていなかったけれど、この集落のコボルト達の戦闘能力は見張るものがあった。

ラフィを初め、彼を取り巻くコボルト達はAランクのメンバーにも引けを取らない程の強さだったし、ラフィに到ってはナンバー2と言われる腕のSランクメンバーを倒していた。

全面戦争になっていたらと思うと背筋に寒いものが過ぎったけれど、現実は彼等との共存、本当に良かったと思った。


彼もメンバーとなって私と一緒に集落を守って生きたいと思ったけれど、彼はこの集落の長となったため、それは叶わなかった。

彼はこの集落の皆を守る人なのだからしょうがないと思うけれど、時折過ぎるこの切なさはなんなんだろう。


それに、ラフィは基本的にとても優しく、その辺の人間とは比べる事も出来ない程の紳士ぶりで、その対応になれてない私は度々赤面しているのだけど、彼は気付いているのだろうか?


何故か私にだけ挨拶する度額に口付けしてくるのだけれど、一体どういう理由があるのかはわからなかった。

人語がわかるセリーアに聞いてもみたのだけれど。


「まぁ、あの人が? フフフ良い事聞いちゃった」


 とだけ意味深な笑顔を浮かべて去って行ってしまった。

もしかしたら、何か儀式めいた事なのかもしれないと考え、一瞬だけ求婚という言葉が浮かんだけれど、それはありえないと思考を振り払った。

だって、彼と私は種族が違うのだから、嬉しくないかと聞かれたら嬉しいと答えるし、たぶん私は泣いて喜ぶんじゃないかなと思うけれど……

そうじゃなくて、彼はとても優しいのだ、何かある毎に「不便な事はないですか」とか「コボルト達が不快な行動をしていませんか」とか「何時も大変なのですから時には休んでもいいと思いますよ」とか常に気配りが出来て、コボルトの人達だけでなく、最近移住している人達からも慕われ始めている。

彼が人間だったらと何度思った事だろうか。




 けど、私の悩みは全て杞憂だったのだと後になってわかった。

結果的に言ってしまえば私とラフィはお互い想いあっていたし、事実結ばれた。

経緯は言いたくないので詳細は省くけれど、歴史を研究していたカリブス国の学者が言っていた、彼の有名なレギン=カリブスという人物。

その生まれ変わりだと名乗る人が私達を強引と言うべき手法で結ばせた。

それ自体には感謝しているが、彼等が言うには私もその時代に生きていたという事を聞いた。

そして、前世のラフィと夫婦だったと聞かされた時は顔から火が噴出しそうなくらい恥ずかしかった。

前世でも夫婦だったからなのだろうか、私が彼に惹かれるのは……最初はそうだったのかもしれない、けど、彼に惹かれてるのはそれだけじゃないと私は言える。

前世は前世だし、今は目の前に居るコボルト族のラフィを私は愛しているのだから。

そう、誰がなんと言おうとも、私はラフィを誰よりも愛している。

彼が居なければ私は存在できないと自信をもって言える程に




 結婚して、行為を続けた時は彼との子供が本当に授かる事が出来るのかという不安はあった。

けれど、それは程なくして解消された。

ラフィとの間に生まれた子供を抱いて、私はとても安心する事が出来た。


彼との子供はコボルトの特徴を所々に受け継いだ、新しい人種と言うべき姿をしていた。

生まれた時は目も開かず、産声は何処か犬が甘えるように「クゥ~ン」という泣き声だったのを覚えている。

それも今は1年前の事、私の記憶が正しければ、生後1年はまだ喋る事も満足に出来ず、1人ではほとんどの事が出来なかったと思う。

けど、私とラフィの間に生まれたこの子はとても早熟な子だった。

生まれて1年もすると、人間の子供達と一緒に外で遊びまわり、日々元気に過ごしていた。

ラフィから譲り受けたと思える色をした頭髪。白銀色の様に光を反射し、とても美しく輝いていた。顔立ちは野性味のあり、親の私から見ても将来はとても格好よくなると思う。

それと、時折見せる表情は何処かラフィが人間だったらこんな感じかな? と思わせ、ドキっとさせられた。


そんな幸せな日々を噛み締めて過ごしている中、エルドマド帝国内である新種の食べ物が発見された。

その名前はネルギという名前で呼ばれていて、とても歯応えがあり、焼くと甘くておいしいらしい。

機会があれば皆で食べたいねという話をラフィ達としたのを覚えている。




 そのネルギはある日、エルドマド帝国とコボルト集落内で貿易している商人が馬車の荷台いっぱいに運んできた。

私とラフィの2人は久しぶりの休日を2人で満喫していた。

他の土地から持ってくる色々な品物を見ていると、商人がこのネルギを紹介してくれたのだ。

ラフィはとても喜んで、大量に買っていたし、私もどんな味がするのか楽しみだった。

けれど……ネルギを購入して3日目の夜にラフィがとても苦しそうなうめき声を上げていた。

上半身を起こして、ラフィにどうしたのかと聞いても返事がなく、ただ苦しそうにもがき苦しんでいた。

どうしたのだろうと眺めていると、突然ラフィは吐しゃ物を撒き散らした。


「ラフィ、大丈夫? どうしたの!?」


私は突然の異変に驚いて、彼にそう聞いたけれど返事は何もしてくれない、突然どうしたのかと心配し、ここを離れて助けを求めるべきか、彼と一緒に居るべきが悩んでいると、息子のアルクが騒ぎが気になって起き出して来た。

ラフィの苦しんでいるのを見て、アルク自身も心配そうな表情を浮かべていた、ここで私までもが混乱してはダメと瞬時に考えいると。


「アル…ク……、レギンを…呼ん……で来い」


と息も絶え絶えになって伝えていた。

それでもアルクは行動に移せない様だったから、私も少し声を大きめに「早く」と伝えて、彼の背中をさする。

レギンが血相を変えて現れたのは、アルクが家を出てから然程時間もかからなかった。


「ラフィ!? うん…え!? ……ラ、ラフィ…ごめん、確認のために灯りをつけるよ」


フィゾーさんは、近くのテーブルに置いてあった蝋燭に火をつけてから、ラフィの姿を照らす。

そして、彼の姿を見て私は絶句した。

彼の白い体毛に覆われた体は見る影もなく、所々に黄色い斑点が出来ていた。


「毒……? いったい誰が!?」


私がそう叫びフィゾーさんへと視線を向けるけれど、フィゾーさんは困ったような表情を浮かべて彼に話かけていた。

それから間もなくして、ラフィの意識は無くなり、それから起きる事は無かった。


幸せを感じていた直後に彼を失った心はとても痛く、あるべきものがない喪質感に襲われた。

何時も一緒に寝ていた寝台に彼の温もりは無く、彼の匂いも日に日に薄らいでいく。

彼にもう会えない、その事実が日々私を蝕んでいくのがわかった。


息子のアルクを始め。フィゾーさんや、その妻であるセリーアさんも毎日心配そうに私に気を使ってくれるけれど、私はちゃんとした返事が出来なかったと思う。


そんな悲しみに暮れる日々を過ごしていたある日、コボルトがラフィと同じ症状で亡くなるのが相次いだ。

そして、わかった結論は……ネルギの毒。

その毒は人間やアルクの様な混血種には無害だけれど、コボルトには有害だったみたいだ。

コボルトの中には死に至らしめる程の症状が出ない者も居たけれど、数割の確率で死に至るコボルトもいた。

たった一口食べただけで嘔吐する者。

1食ぐらいならば何も問題のない者

そして、ラフィのように時間が空いた後にもがき苦しみ死に至る者。


知らないにしても、彼を死に追いやったのは私だ。


フィゾーや他の人達は私のせいではないと言ったけれど。

事実は私が殺した様なものだ…私が彼に食べさせたから、彼はもがき苦しんで…最後に死んでしまった。


一生を共に暮らしていこうと思っていたのに、私が……私が!




 気付いたら私は、暗い空間の中に居た。

どうしてここに居るのか、ここがどこなのか、それすらわからない。


「可哀想な子、魂がそんなになるまで傷ついて、たった一度の人生じゃそうはならないわね。

 本来なら、アレの世界に干渉してはいけないという決まりだけれど、アレと私の関係だから然程問題はないでしょう。

 それに、私も貴女達が気に入ったわ」


何時の間にか目の前に居た女性はそう呟くと、私の頭に手を載せた。

その手は淡く輝いて、私の身体を照らす。


「さぁ、行きなさい。

 そして、また会いましょう」


女性は最後に笑うと、私の意識は遠く離れていった。


もう、あんな悲しみは追いたくない、それにあの人に辛い思いはさせたくない。

一層の事、彼に近づかず私は暮らさないといけない。


そして、私の意識は完全に消えた。

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