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ローザ=アッハバーナ2

 実家に戻り、両親に挨拶する事なく、書庫へと脚を運んだ。

家系図が何処にあるのかはわからないけれど、虱潰しに探す事にした。

幾つもの棚を探したが、全然見つからない……彼のいう事は本当だと思うのだけれど、自分の目で確かめたい、そして他のメンバー達にその事を証明したかった。


それから2時間程経っても見つからずここにはないのかなと思い始めた頃、名前は覚えてないけれど、老執事が何を探しているのか聞いてきてくれた。

そして、家系図を探している事を聞いたが、どうやら、現当主の父上が持っているらしい。

執事にお願いして父上に会えないか聞いたけれど、今はカリブス城に居るため、会うことはできないと伝えられた。

そういえば、この執事はこの家に何十年と仕えていたはず……もしかしたら、知っているかもしれない?


「一点、貴方にお聞きしたい事があるのですがよろしいですか?」


「私に答えられる事でしたら……」


「何十年か前にアッハバーナ家にアラフィルという人は居ませんでしたか?」


老執事にそう聞くと、一瞬だけ表情が固まったのが見えた。


「申し訳ありませんが、私は存じません……」


たぶん、この執事は答えられない理由があるみたい……

それなら、彼にしつこく聞くのは酷なのでしょう。


父上は、今日ここに戻る予定はないらしいので、また後日来る事を執事に伝えて、ギルドが運営している宿に泊まる事にした。




 翌日、昼頃に屋敷に戻ると、父上はまだ休んでいる最中との事だったので、応接室で待たせてもらう事にした。


2時間程すると、父上が執事と共に現れた。

ソファから立ち上がり、父上へ頭を下げる。


「お久しぶりです、お元気そうでなによりです」


「お前も、息災で何よりだ……それで私に聞きたい事とは何だ?」


挨拶も程々にソファに腰を下ろし、一息ついてから父上へと聞きたかった事を聞くことにした。


「父上はアラフィルという人物を知っていますか?」


「……残念ながら私の知り合いにはその様な者はいないが……?」


少し間を空けてから答える父、その間は動揺なのか、本当にそんな人物を探していたのかは私にはわからなかった。

けれど、少なくとも執事は心当たりがあるはずなんだ、それならば父上が知っていてもおかしくない。


「赤髪の姫と騎士に出てくる騎士の名前です、アラフィル・アッハバーナと聞いております」


「ほう……ソレは奇遇だな、我が家名もアッハバーナだしな」


「父上、誤魔化すのは止めに致しませんか? 私はただ真実が知りたいだけです。

 そこの執事の反応を見れば、我が家にその人物が居たという事はわかります」


面倒な駆け引きなんてする時間が勿体無い。

父上がどんな思惑で誤魔化しているのか知らないけれど……


「誤魔化すか……しかし、アッハバーナ家にはアラフィルという名の者はいないが?」


「ならば家系図を見せてもらってもよろしいですか?」


父上は大きな溜息を吐き、「少し待て」とだけ言い、退室していった。

執事は何処か居心地悪げにしていた、彼に聞けば教えてくれるだろうか?




 10分もすれば、父上は一冊の本を持って戻ってきた。


「コレが家系図だ、確認してもないがな」


そう言って、私に家系図を提示してくる。

父上から受け取り、本を開く。

家系図といっても、対して何十ページと並んでいるわけじゃなかった。

精々10ページ程だろうか?

そして、一通り読んだけれど、アラフィル・アッハバーナという人物の名前は無かった。

彼が嘘をついたの……?

いや、彼が嘘をついたなんて考えられない。

それなら……そういえば、彼は縁を切られたと言っていたはず。

つまり、何処かに消された跡が……これかしら?

一つだけ不自然といえば不自然にあいた部分がある。


「ローザ、アラフィルという人物は居ないであろう」


「いいえ、父上……アラフィル・アッハバーナという叔父は確かに居たようです」


その言葉に、眉間に皺を寄せてこちらを見る父上が居た。


「何を言い出すのだ」


「父上、この部分、不自然だと私は思いますが……それに、アラフィル・アッハバーナは縁を切られたと聞いております。間違いないですよね?」


最後の一言は執事に向けて言うと、執事は顔から汗を流している。

どうやら、私の予想は当たりのようね。


「それなりの裏づけはあるという事か……

 確かに、アラフィルは私の弟で居た。

 当時、末姫のフェティーダ王女を拉致した挙句、心中した馬鹿者だ。

 皆と同じ扱いをしておれば、あんな事にはならなかったというのに……本当に馬鹿な弟だった」


彼に向ける言葉はキツイものだったけれど、その表情はとても悲しげに見えた。

たぶん、父上は彼の事が弟として愛していたのだと思う。


「アラフィル・アッハバーナを知っている者はどれくらい居ますか?」


「私の兄弟と前当主、それとこのマークシンぐらいだ」


それならば、彼が知っているというのは不自然だ。

という事は、彼は本当にアラフィル・アッハバーナの生まれ代わりだという事なんだろう。


「父上、ありがとうございます。

 それでは、私は急がなければいけないので、これで失礼します」


「ああ、ローザ……幸せにな」


「ええ、父上も」




 屋敷を後にしてから、私はギルドへと足を向けた。

たぶんギルドマスターならば私の考えに賛同してくれるだろうかと思ったが、彼を説得しなければコボルトとの共存は成り立たないのだから、私が頑張らなければいけない。



ギルドに着き、受付の女性へギルドマスターとの面会を伝えると、すぐに会ってもらえる様で良かった。


「ローザ=アッハバーナです、入室してもよろしいでしょうか」


ギルドマスターの居る部屋の前で確認を取って、返事を受けてから入室する。

ギルドマスターは執務用の机に座り、私を待っていたようだ。


「やぁ、来るのを待っていたよ。

 少々待ってもらっていいかな? すぐに終わらせるから」


「はい」


「ああ、そこの椅子に座って待っていてくれ」


「はい、失礼します」


ギルドマスターに進められたソファに腰を下ろし、どう伝えようかと思案している間、部屋の中はペンを走らせる音だけが響いていた。




「待たせたね、それで今回の用件というのは何かな?」


「はい、先日のコボルト集落の件です」


「それは受付の方で済ませる案件じゃないのかい?」


「はい、今後の人間とコボルトとの大事な話になると思います」


私の言葉にギルドマスターは興味を示してくれたようでした。

ギルドマスターの返事を待っていると、「続けて」と答え、彼との出会いやコボルトという種族は私達と共存したいと言っていた事を伝えた。


「コボルトが人語を喋る……それに、共存を願うか……今までメンバーとして生きていたけれど、信じられる話じゃないね。まるで絵空事のように聞こえる」


「ですが、コボルトが人語を話していたのは確かです。

それに、その集落の代表と名乗っていた白いコボルトは……ギルドマスターは赤髪の姫と騎士を知っていますか?」


「あの物語を知らない騎士とメンバーはいないよ、それがどうしたんだい?」


「その白いコボルトがその物語を知っていたらどうしますか……」


「そんなのは共存に関係無いんじゃないのかな? それに、人語を喋るんだ人間が作った物語を知っていたって不思議じゃない」


「いえ、真相を知っているとしたらです」


「真相……? 興味深いね」


「帝国首都の近くにはその墓があります」


「ふむ……それで?」


「その騎士の名前はアラフィル=アッハバーナ、姫の名前はフェティーダ=カリブスと言います」


「アッハバーナ……君の血縁者だね、それにお姫様は王族の王女様か。

 けど、それは無いと思うけど? だって、アラフィルという名前のアッハバーナ家の人間はいないし、王族にもフェティーダと呼ばれた人物は居ないはずだ」


アッハバーナ家と王族であるカリブス家はその偉大さ故に悪事に使われる事がよくある。

自分はアッハバーナ家の人間だと名乗る者も昔は少なくなかった。

そのためにアッハバーナ家とカリブス王家では新しく生まれた子供等の名前だけを載せた家系図を公開しており、一般市民でもそれを観覧する事は可能となっていました。


ギルドマスターは国の実力者の1人でもあるため、また依頼者が虚偽の依頼等を行うのを防ぐ為に、アッハバーナ家と王家の家系図はチェックしていたのでしょう。


「いえ、アラフィル=アッハバーナという人物は実在しております、現当主のご兄弟でしたから」


「君のお父上の他には1人の弟だけと記憶していたけれど?」


「3男がアラフィルという名前です、勘当され家系図から消されていたので知らないのはしょうがありません」


「それを証明できる者は?」


「現当主と先代当主、それと昔からアッハバーナ家に仕えている一部の使用人です」


ギルドマスターは顎に手を置き、数瞬程考えると、顔をあげる。

表情を見る限り何かを決めたようだ。


「君の言う事に偽りはなさそうだ、偽りだったとしても君にとっての得はわからない。

 けれど、コボルトとの共存を決めるのは少し待ってもらいたい。

 君を含め、Aランク以上のメンバーを招集したいからね」


その日はギルドマスターと別れ、私は契約している宿へと戻る事にした。


 


 それから7日程日が経過して、ようやくギルドマスターから召集がかかった。

私としては、1日でも早くコボルトとの共存を確かにしたいというのに……


ギルド本部の中にある会議室に入り、自分へと宛がわれた席へと腰を下ろし同じ様に席についている周囲に目を配る。

何度か見た事や聞いた事のある実力者であるメンバー達と明らかに装備が派手でその場にはそぐわない装備をしている人物が数名……たぶん騎士団の者達が立っていた。


「うん、これで全員ですね……さっそく本題に入らせていただきます。

 実は、Sランクメンバーのローザがコボルトとの共存できるという説を唱えました。

 その説を聞いた所、私自身もそれには賛同できると思います。

 余程の反対理由がない限り、ギルドは今後コボルトとの共存を目指していこうと思っています。

 なので、今後ギルドとしてはコボルト関連の討伐依頼は極力受け付けないという意思をカリブス国を初めとした国の方々に表明します。

 ただ、人を無闇に殺した場合等犯罪行為と思われる行為をした場合は罰を与える為、盗賊達の様な対応はとります」


ギルドマスターの言葉を聞いて、一番に反応したのは黒の光沢が目立つ帝国の者だった。


「コボルトと共存等認めん! あやつらは害虫と同義! 我が帝国の民達はどれ程の被害を受けたとお思いか!?」


それに続き、カリブス国の人物も反対意見を出していく。


「メンバーの方々もコボルトの被害を受けていると思います、それにあのコボルトが私達と共存を希望するとは到底考えられませんな、その会議場でも仮面を取らない者の虚言ではございませんか?」


私の中ではカリブス国にいい心象は受けない。

理由は? と聞かれればわからないと言うしかないけれど、何故かこの国に忠誠を誓っている人達を見ると嫌悪感が先立ってしまう。


「ご両人、それは人間側の一方的な価値観だと思われます。

 思い込みという物は時として人の視野を狭め、それが死と繋がる事もあるでしょう。

 それは個人だけの話ではなく、そう国というものを滅ぼす可能性もあります」


ギルドマスターは冷静に反対意見を真っ先に出した2人へと向けて答える。

その言葉を聞いた2人は頭に血を上らせ、顔を真っ赤にしている。

これが大事な会議に赴いた国の関係者かと思うと溜息が漏れる思いだ。


「ギルドマスターだからと言って勘違いをしていまいか?

 御主等ギルドは国にいるからこそ今の地位があるという事を忘れてはいまいか?」


何を勘違いしているのだろうか……彼等の手が届かない場所や対処できない事を率先して解決しているのは私達ギルドだ、それをあたかも国が情けをかけてやらせているとでも言いたいのだろうか?


「ハハハ、面白い事を国は言うもんですなぁ」


大きい笑い声を上げて、声を出したのはギルドマスターの横にいる、Aランクメンバーの1人だろう。

確か世界一の膂力といわれる程の男だったと記憶している。


「貴様、その言葉、国へ対する侮辱と取るがよろしいか」


「それならば、あんたらが言った言葉はギルドへ向けての侮辱ととってもいいのかな?

 俺は構わんよ、国がギルドをそう評するのならば、俺はコボルトと一緒に暮らそうじゃないか。

 それにコボルトというのは基本的に穏やかな人種だ、、彼等は狩猟を生業としているのだから、その狩場を荒らせば人間に襲いかかるのは通りだろう。

 お前らだって、自分の領分に他人が入ってくれば怒る、それと一緒だ」


それはどうなのかと思ったが、確かに一理あると私自身も思う。

それに、コボルト達にだって集落があるのだから生活をする。

そして、今まで使っていた狩場に突然我が物顔で人間が侵入すれば警戒して襲い掛かってくる。


私もその意見に同意と思い頷き、ギルドマスターも頷く。

他のメンバーは何を考えているのかわからないけれど、現状は共存派が優勢といった所だろうか。


「ぬぐっ……シャウトールの者の意見はどうか!?」


「へっ!? あ、ああ……そうですね、共ぞひっ……カリブス国の方と同じ意見ですっ!」


共存を唱えようとしたのは丸わかりではあるけれど、カリブス国の使者の視線を受けて、悲鳴をあげるあたりシャウトール国はとても弱い国なんだろう。

なんとも情けないとも思うけれど、あの国はそこまで酷い国ではないのかもしれない。


「ふむ……現在は3対3と行った所ですかね、ただ……貴方方国に所属する方々は少々視野が狭くなっているようですが」


何処か挑発めいた言動を吐いて、ギルドマスターは彼等に視線を向ける。

はっきり言ってしまえば、こんな会議は不毛なんじゃないかと思う。

国の人々はコボルトだからと頭ごなしに批判しているだけだし、こちらの意見を頭に入れてるとも思えないのだから。


「カリブス国とエルドマド国のお二人に問いたい。

 貴方がたはコボルトに文明は無いとお考えか?」


「当たり前だ、文明とは人間しか持ち獲ない英知の結晶である」


「あんな野蛮人が文明を持つなど考えるだけでおぞましい」


うん、彼等はどうしようもない人種なんだろう。

凝り固まった固定概念と選民意識。

嫌悪感が出てくるのはこの人達の考え方がこうだからなのだろうか。


「ふぅ……マスター、もう話すだけ無駄なんで帰っていいですか?」


だるそうに声を出して、ギルドマスターへと声をかけたのは……このギルドのナンバー2と言われる程の実力者だったかな?


「ドラス……もう少々待ちなさい」


「いえいえ、無駄ですよ。

 いいじゃないですか、国は今後ギルドと関わらないと決めれば。

 俺はコボルト達好きですもん、小さい頃森で怪我した時助けられましたし。

 彼等が襲ってくるのは狩場を荒らしたというのもあるでしょうけど、大半は家族を殺された恨みだと俺は思いますよ。

 その禍根を消す事は難しいと思いますけど、難しいからと諦めたらそれこそ無理な話です。

 何十年、何百年ともいう長い時間をかけて無くしていけばいいんです。

 それの第一歩が共存という手じゃないんですかね。

 それに報告書にあった白いコボルトってのは、その集落の族長ですよね。

 確か彼は先日Aランクのメンバーを倒したという傑物だったと村人から聞きました。

 全面戦争にでもすれば彼等を根絶やしにできるかもしれませんけどね、人間にも少なくない傷を負うでしょうね」


彼が人間を倒したというのは初耳だった。

けれど、彼ならば実力者と言われるメンバーにも負けない程の自力はあると思う。

私達と話した時だって、殺せる所を合えて殺さなかった節が見当たるし。


「それもそうですね、では国の方々、ギルドは今後コボルトとは共存していく方針へと変えていきます。

 コボルト側から依頼があればギルドはコボルトからの依頼も。

 それと万一戦争になった場合は宣戦布告した方にはギルドは不干渉を徹しますのでよろしくお願いします」


「ま、待て! 万一それが罠だった場合、おぬしらはどうするのだ!?

 下手をしたらお主らが死ぬかもしれんのだぞ!」


カリブス国の使者は慌てた様に捲くし立てるが、そんなのは既に覚悟の上だ…それに。


「そんな事を言ってしまったら、何も出来はしません。

 疑うという事はとても大事です、けれど疑う事だけをしてしまったら手を取りあえるものも取り合えなくなってしまう。

 例えそれが罠だったとしても、その時はその時なのですよ」


ギルドマスターは言いたいことを伝えたと考えたのか、席を立ち「解散」と号令をかけて退室していった。

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