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ローザ=アッハバーナ1

 アッハバーナ家の長女として生まれた私は王族と結婚するのだと、子供の頃から言われて育ってきた。

3歳ぐらいの父がそう言うのだからとそう思っていた。

けれど……5歳の頃から時折見る夢を見てから、それだけは嫌だと、ただ理由もなく思い始めた。

それがどんな夢だったのか思い出せない、ただとても悲しくて、自分の無力さを呪う気持ちだけが起きてからも続いて、小さい頃は何度も泣いたのを覚えている。


それが7年も続けば、父親が決めた相手と結婚し、ただ生きていくのなんて嫌だと反発し続けた。

それから家を飛び出しギルドの門を叩いた。

ギルドは私の出生等まったく気にした様子もなく受け入れてくれた。

城下街に拠点を置くのはただ嫌で、今だ力の無い私はすぐに家に帰されるのだけは避けたかった。

だから、すぐに始まりの街へと拠点を移し、自分の腕を磨き続けた。

下位ランクの時はとても辛かったのを覚えている。

私の体を舐めるように見る男の視線。

一緒に依頼を受け、その野営中に襲われかけた事も数多くあった。

けれど、どうしてかそのタイミングで亜人や盗賊達が襲ってきて、未遂で終わっていたのは本当に良かったと思う。


自分で言うのも変だと思うけれど、私は見た目はいいと思う。

それに、子供の頃から好きだった物語に出てくる赤髪の姫と同じ髪の色も自慢だった。

父親や国の重臣の人達も私の髪をほめてくれた。

だからこそ、下位ランクだった私はなるべく素顔を見せない様にして、性別をわからないようにもした。

胸が人より小さかったのも性別をわからなくできた要因だったとは思う……少し悔しくはあるけれど。



 齢16になる頃には、Bランク間近と言われる程にまでなっていた。

そして、ギルドから言われた昇格条件がコボルト50匹の討伐かゴブリン100匹の討伐。

最初はコボルトの方が数も少なかったため、コボルトを狩ろうと思った。

けれど、コボルトを目の前にした時どうしても彼等を殺す事なんてできなかった。

確かに襲われた時は自衛のために殺した…けれど、彼等を殺す事はいけないことなのではないか。

そう私の本能が叫びだした。


それからはゴブリンを倒す依頼だけを受け続けた。

そして10日もしないうちに無事Bランクにあがった私は、ジャイアントアントの被害が多発しているえる、エルドマド帝国に拠点を移す事にした。


エルドマド帝国はジャイアントアントの被害が多い為か腕の立つ上位ランクのメンバーが多い。

けれど、そんな上位ランクのメンバーでもアシッドアント等に殺されるという被害も多かった。


この時からだったかな、私が全身を鉄の鎧で固め始めたのは。

最初は息苦しかったし、重かった。

けれど、この国で修練を続けるうちに自分の力が異常な速度で伸びていた事もわかっていた。

1年もすれば1人でジャイアントアントの巣を潰せるぐらいの腕を身につけていたし。

不思議と息切れを興す事もなくなっていた。

最年少でSランク昇格という噂が流れる程の実力を得た私がある噂を聞いたのはそんな時だった。


『赤髪の姫と騎士』の墓がこの国のどこかにある。


私はその噂に飛びつき、今までに稼いだ財産を使い情報を集めた。

しかし、情報は全くと言っていいほど進展しなく、出任せだったのかと諦めかけていた時だった。

帝国軍の将軍を護衛する依頼を受けた時の事だった。

将軍は50代ぐらいの顎に長い白髭を携えた美丈夫だった。

そして、将軍という偉い人物なのに、丁寧に頭を下げ「今日はよろしくお願いします」と言い、依頼の場所へと歩き始めた。

そこは帝国首都から半日も歩かないで到着する近くの丘だった。

そしてそこには小さな石造りの墓が1つ。

墓の前に到着した途端に私の目から涙が流れ始めた。

何故涙がいきなり流れるのか、さっぱりわからず困惑していると、帝国軍の将軍が呟き始めた。


「この墓は私が尊敬している騎士と姫の墓です。

 2人は生きてる間に添い遂げる事はできませんでしたが、体だけでもと私が作った物なんですよ」


呟き、花を添えてから、「戻りましょう」と言い、岐路に着いた。

帰り道の間に、私の好きな物語はあるかと聞かれたので、赤髪の姫と騎士の話が好きだと言うと、とても嬉しそうに顔を綻ばせてから。


「私も一番好きな物語です」


と言った。

それからは何故か、赤髪の姫と騎士の墓を探すという意欲は鳴りを潜めた。

自分でもなんでかなんてわからなかったけれど、あの墓がそうだったんじゃないかとなんとなくではあったけれど思う事にして、自分の腕を磨く事だけに集中した。






 ジャイアントアントの巣を1人で数個壊しているとギルドマスターから召集を受けたのは20になった時の事でした。

数年ぶりにカリブス国に戻り、ギルド本部にいくと、現マスターから直々にSランク昇格を告げられた。

そして、その最初の任務がエルドラド帝国首都の北東にあるコボルト集落の調査、または殲滅を伝えられた。

どうやら、帝国領内のとある村に人語を喋るコボルトと数匹のコボルとが現れ、村に襲い掛かったらしい。

そして、近くにコボルトの集落を発見したので、彼等の生態を調べたいとギルドマスターは言った。

内心は嫌だったが、ギルドマスター直々の命令だったために、了承を伝え、今回の依頼に赴くメンバー達と一緒に帝国へと向かう事になった。




 その集落に到着した途端家の中から百以上は居るコボルト達が現れた。

しかし、驚いたのはコボルトには色々な顔立ちがあった事だった。

私が過去に見たコボルトはどれも同じ顔だったため、とても驚いた。


 コボルトの中には、私達に襲いかかる者と怯え縮こまる者、子供を守ろうと必死に抱きかかえる者が居た。

私達がやっている事はまるで盗賊と同じではないか。

彼等は彼等の生活がある、その上で私達が戦いあうことはしょうがないのかもしれない。

けれど、コボルトは村に襲い掛かってくる事は私が知る限り今回しかなかった。

しかし、この光景はなんだ。

人間がコボルトを虐殺してるだけじゃないか。

家族だと思われるコボルト達にメンバーが襲いかかり、武器を持ったコボルトは後ろに居る子供と妻と思われるコボルトを構うように戦っている。

しかし、メンバーはその子供と妻のコボルトを人質のようにして、コボルトを殺している。

私は調査をしにきたのだ、なのに……

数時間もすれば、集落には無残に殺されたコボルト達の死体と、仕事をしたと満足気なメンバー達。

このやるせなさはなんだ。

私はどうなっても無力なんだろうか。

またしても、誰も守れないのか。

またとはなんだ……?

私は誰かを守ろうとした事は一度もなかったはずだけれど。

その疑問に考えていたが、今後の指示を1人のメンバーに聞かれたので戻る事にした。

去る際、集落だった場所を見ると、無残に崩された家屋と悲しげに倒れ付したコボルトの死体が残っていた。

どれだけ謝罪をしても、彼等は私達を恨むんだろう。

私は彼等に何をすれば贖罪となるのかだけを考えていた。


 依頼が終わった後、襲われたと報告の有った集落に聞くと。

人間に怪我人はなく、食糧を少し取られただけと聞かされた。

人語を喋るコボルトは何か言っていたか聞くと。

「ワケテクダサイ」と聞こえただけらしい。

それは、食糧を分けてもらいたかったのではないかと内心思ったが、保身に走り、深く追求する事はできなかった。



 それから数ヵ月後、始まりの街から北側に行った所にコボルトの集落を発見したと言う報告を受けた。

規模は前回よりも小さく、生き残りが集まったのだろうという見解だ。

その際、私もその任務に出る事を立候補し、今回の指揮をギルドマスターから任された。

今回は数も少ないと言う事で10人程で向かう事となった。


 集落が目に見え始めた頃、集落から数十人が東に向け飛び出したコボルト達が目に見えた。

私は待てとメンバーに叫んだが、彼等は頭に血が上っているのか、私の制止を聞かずに追いかける。

このメンバー達はなんなのだ、何故こうもいう事を聞かない。

今回先頭を走っているのはBランクメンバーだ、残りはCランクだったと思う。

もしかしたら、あのBランクメンバーとCランクのメンバーは同じクランに所属しているのかもしれない。

けれど、そんなのは関係ないはずだ。

私がこの指揮を任されているというのに、彼等は追いかけ続ける。

私は何とか止めようと彼等を追いかける事にした。


 足の遅い順に1人また1人と殺されていく光景を見せられ、歯軋りする。

なんとか止めないと、しかし案が浮かばない。

彼等を殺せば止められるだろうが、そうなると私は……

どうして、こんな時に保身に走ってしまうのかと自分に嫌悪感を覚えはじめた、その時だった。

コボルト達が逃げる方向に大きな集落が見えていることに気付いた。

あんな所に人間が住んでるなんてのは聞いたことはない、しかしコボルトがあんな大きな物を作れるというの?


 そして、数分もしないうちに集落から白い体毛を纏った”何か”が駆け出してきた。

それはとても早く、数分もしないうちに逃げているコボルトを抜き、先頭を走っていたメンバーに襲い掛かる。

Bランクのメンバーの剣と白い体毛の何かが衝突した瞬間、こちらに吹っ飛んでくるメンバー。


「ぐあっ」


苦悶の表情を浮かべながら悲鳴をあげる。

そして、動きを止めたその”何か”を見た瞬間、私の胸がドクンと鼓動を跳ね上げる音がした。

私の体は歓喜に震える。

思考が停止したのは数秒だったと思う。

ハッとすると剣や槍を持ったコボルト達が白いコボルトに追いついていた。


 今までのコボルトとは明らかに雰囲気が違う。

そう思い。


「双方剣を納めませんか、私達は殺し合いをしに来たわけではありません」


コボルトに私の言葉が通じるかわからなかったが、前に人語を喋るコボルトが居ると聞いた事があった。

もしかしたらと少しの願いを込めて聞いた。


「ならば、ナゼあの者タチに襲い掛カッタ?」


ゾクりとまた体が震える。

白いコボルトの声を聞いた瞬間、胸が熱くなり、目から涙が溢れてきそうだった。

何故と思う自分も居たが、やっと会えたと喜ぶ私も居た。


「あなたは……人間の言葉がわかるのですか?」


「ア…発声はイマいちだが……会話ハできてるハズだ、それよりも質問ニ答エロ」


どこか分りにくい発音ではあったが、ちゃんと人間の言葉だとわかる。

そして、彼の左後方に居るコボルトが何か吼えると、白いコボルトも何かをうなっている。


 再度、白いコボルトが唸ると周囲のコボルト達が吼え始める。

何を言っているのかわからないが、彼からの質問に答えていない事に気付き答える事にした。


「襲撃をしてきたのはあちらが先です、始まりの村に20匹程のコボルトが襲ってきたのでその撃退の後、追撃を行いました。

 私としては話し合いが通じるのならば殺し合いをしたいとは思っていません」


剣を持ってない片方の手で顎をなで、考え事をしているようだ。

何処か可愛らしいその仕草に、彼の顎を私が撫でたいと言う欲求に襲われるがなんとか我慢する事ができた。


「そウか……全てを信じろトイウのは無理だが、そちらの言い分をある程度は信ジよう

 しかし、家族をコロされていル者もいるかラナ、徹底抗戦ヲ唱エルものガほとンどナノだ」


彼等が人間に徹底抗戦を唱えるのは私達のせいだ……

罪悪感に頭を下げ、申し訳なく思う。

けれど、コボルト達と戦わなくてもいい未来が作れるのは今しかないと考えた私は顔をあげた


「そうですね、確かに恨みは深いと思います……しかし、貴方はどう思っているのですか?」


彼も私と同じ考えなのならば、確信がもてる。

人間とコボルトがともに暮らせると言う未来を。


「出来ルならば共生ヲしたいと思う、しかし……人間は欲に目ガクラミ裏切ル者もイル、信用デキルかは怪シイ。

 ソレに怨恨は深イ、なラバお互イに不可侵を結ブベキだと思う」


彼も私とほぼ同じ考えを持っていた。

その事がとても嬉しくて、涙が目を潤していくのがわかる。

心臓の動きはさっきから激しく動き続け、彼に近づけと身体が急かす。

けれど、ソレはまだ早い。

まだ、人間とコボルトは危ない関係なんだ。


「コボルトという種族から見たら、人間の多くを恨む人達は居るのでしょう。

 私も出来れば共生していきたいと思いますが、それはまだ難しいようです。

 それならば、人間とコボルトの国同士がお互いに干渉しないようにしましょう。

 ただし、私としてはコボルトの生活というのも知っておきたい。

 コボルトと共に暮らしたいと思う者がいれば、受け入れてもらいたいのですが」


少しでも私の願いが届いてほしいと言う願いを込めて。

私の気持ちを吐き出していく。

周りのメンバーは私を睨んでいるが構う事なんてない。

好機は今しかないのだから。


「そレガ罠ではないトイウ証拠ハアルか?」


「赤髪の姫へ誓った騎士とSランクのメンバーとしての誇りに誓い」


誓いをたてた騎士は私が誰よりも尊敬する騎士だ。

その騎士と私のSランクとしてのプライドにかけて誓う。

そう思いを込めて呟くと、彼の目から涙があふれ出てるのが見えた。


「フェティーダ=カリブス……」


彼は誰かの名前を呟いた。

カリブスはカリブス国の王族とエルドラド帝国に数名しかいない。

フェティーダとは誰かと考えた途端、心が再度高鳴った。

彼だ、彼なのだと。

私は途惑いながらも彼に質問する事にした。


「コボルトも赤髪の姫と騎士の物語を知っているのか?」


「いや、私は人間の記憶ガアルからダ。

 物語ヘトナッタのだな、ローズとの旅路ガ」


彼は人間の私から見ても、とても嬉しそうに、そしてとても悲しそうな表情浮かべ呟いている。

その表情を見た瞬間、感じた事の無い愛しさが心を埋めていくのを感じた。


「貴方はあの物語を知っているだけではなさそうですね」


コクンと頷くと、メンバー達が驚き騒ぎ出す。


「コボルトがあの物語を侮辱するな」


Bランクメンバーの1人が腹立たし気に叫ぶ。

メンバーの声を聞いて腹が立つのは私だ。

少し苛立ちながら、そのメンバーへと釘を刺す。


「少し貴方達は黙っていなさい、貴方は……騎士の名前を知っているのですか?」


「騎士の名はアラフィル、アラフィル=アッハバーナ。

 アッハバーナ家の三男だッた、フェティーダ=カリブスと旅立つ数日前に家族の縁を切られている。

 姫ノ名はフェティーダ=カリブス、偽名でローズ、と呼んでいタ」


アラフィル=アッハバーナ。

私の血筋なのは家名を聞けばわかる。

しかし、私が知っている限りそんな人はいない。

父親からもそんな人の名前は聞いた事はなかった。


「騎士が死んだ後、姫はドウナッタ」


「騎士の後を追って自害したと言い伝えられています。

 その後、騎士と同じ墓に埋葬されたと言われています。

 現にエルドラド帝国の首都近郊に2人の墓は存在しておりますから」


質問に答えると、涙を流しながら彼は顔を綻ばせ「ソウカ」と呟いた。


「話が逸れましたね、コボルトは今後人間と敵対しないと言うのであれば、全メンバーを代表してコボルトとは友好な関係を築いていく事を誓います」


「ワカった……我が集落の全コボルトを代表して誓おう」


「ありがとうございます、人間とコボルトの友好関係を築く為の話し合いをしたいと思います。

 少々調べたい事もありますので、今日の所は戻らせていただきます。

 また後日そちらに赴かせていただきます」


「ああ、反対者モイル事だろウから気をつけろ」


なんとしても、コボルトとともに生きる道を繋げて見せると誓い。

コボルト達と別れた。

メンバーはこちらを睨んでいるか、知った事ではない。

私の制止した事はギルドマスターに報告する事も決めた。


「先に戻っている、軽はずみな行動は慎みなさい」


それだけ残すと全速力でカリブス国首都へと戻る事にした。

調べる事はたくさんあるのだ。

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