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とある酒場にて、吟遊詩人の語り

 それは、遥か数百年も昔の話となります。

まだ、この世に3つの国しかなかった時代。

この世界を統べる人間の国、カリブス国。

今と比べれはとても小さな国でした。

そこに、赤髪を纏ったとても美しい姫がおりました。

しかし、彼女は国王、王妃のどちらにも似ていなかったために、蔑まされ不遇な人生を送っておりました。

赤髪の姫はどうして私は他の家族と違うのだろうと悔やみ涙を流し続けたのです。


「誰も私を愛してはくれないの」と呟きながら。


彼女の辛く悲しい時間は長く、生まれてから15年成人するまでも続き、家族であった王や王妃達だけではなく、家臣である国関係者の者達にまで「王族の血族ではない」と言われる程でした。


しかし、ただ1人だけ彼女を守る騎士がおりました。


騎士は普通とは違った価値観を持っていたためか。

あまり、評判の良い騎士ではありませんでした、それには理由があったのです。

今の時代では、王や特定の人物に忠誠を誓う事も珍しくはありません。

ですが、当時は特定の人物にではなく国に忠誠を誓うのが騎士の常識でした。

しかし、その騎士はただ1人、国ではなく赤髪の姫ただ1人に忠誠を誓っていたのです。


彼女は信じられない気持ちがありましたが、心から騎士の存在を喜びました。

それが恋心へと変わるのに時間はかかりません。


騎士は姫の恋心に気付きましたが、それに応える事はしません。

いえ、出来なかったと言えるでしょうか。

騎士は姫の事を深く愛しておりましたが、愛に応える事を禁忌と戒めたのです。

姫と従者の愛……それは今でも禁忌とされた事です。

「下の者が主人に恋焦がれてはいけない、それは逆も同じ事なのです」

そう言い続けて騎士は姫と恋柄になる事はありませんでした。

姫は少し悲しい気持ちになりましたが、「一緒に居てくれるなら……」と自分の気持ちを誤魔化しながら騎士と接するようになりました。




 1人でも赤髪の姫を認めてくれる人物が居る。

それだけで彼女の世界は花が開いたように幸せな日々へと変わりました。

しかし、そんな騎士と姫の日常が終わるのは突然の事でした。

いえ、必然とも言えたのかもしれません……。

赤髪の姫は騎士の愛がどうしてもほしくなってしまったのです。

姫が騎士に愛を囁けば、騎士はとても嬉しそうな笑顔を浮かべましたが、一向に応えようとしません。

赤髪の姫は王族だから、彼は応えてくれないのではないかと考える様になりました。

それならば……と赤髪の姫は王族を辞めるために父である国王へと直訴をしたのです。


「私は名を捨て、1人の国民にしてくださいませ、北の集落は人が足りないと聞いております、その地に私を流してください」


 当時流刑は死刑に次ぐ思い罪です。

といっても、本来は東にある大河に罪人を流すといった事ではありますが。


そして、彼女が北の集落へと王族という地位を捨て流せと言いました。

北の集落……今ではカリブス国の北は多くの亜人族や人間達が暮らす独立国家となっています。

しかし当時は亜人種と敵対していた人間です。

亜人種も当然敵対心を露にしておりました。

どちらにも多くの被害がでていたのです。

その危険な地域に流してくれ。

姫はそう言いました。

国王はいきなり何を言うのかと訝しげに姫を眺めますが、姫の意思が固く本気なのだろうと感じ取りました。

しかし、赤髪の姫を流刑にする程の罪などありません。

悩んだ王は考えた結果、是と答えました。


彼女は国王から了承の意を聞くととても喜びました。

赤髪の姫はその時初めて国王へ笑顔を向けたのです。

しかし、国王はその笑顔を見て、顔を顰めました。

王族の誰にも似ない赤髪の姫は、王にとって邪魔者でしかなかったのです。

そして王は重臣の1人を呼びました。

なんと、国王は何を思ったか、彼女を亡き者にしようと考えたのです。




 赤髪の姫は周りが思っていたより賢い人でした。

良いといわれた瞬間はとても嬉しく思いましたが、数瞬の内に何かあるのではないかと思い、聞き耳を立てていたのです。

そして、彼女は自分を殺すように指示する父親の声を聞いてしまったのです。


姫は今までに無いほどの傷を心に受けてしまいました。

生来冷たく扱われては居ましたが、赤髪の姫は父親を愛していました。

しかし愛する父親の口から「赤髪の姫を殺せ」と発せられた言葉にただただ涙が溢れた事でしょう。

そして、彼女はただ一つの心の拠り所である騎士の元へ走りました。

豪華とは言えませんが王族が着るに価するドレスを脱ぎ去り。

民達が着る一般的な服を着て。




 突如騎士の前に現れた姫を見て騎士は驚きましたが、只ならぬ赤髪の姫の格好と雰囲気に慌てる心を鎮めながら姫に聞きました。

普段のドレスではなく、何処にでもあるような服を着た赤髪の姫が走って着たからです。


「姫、慌てて一体どうしたのですか? それにその服は?」


騎士は赤髪の姫に聞きました。

そして、赤髪の姫の口から驚くべき事実を聞いたのです。

騎士は元々国への忠義等ありませんでしたので恨みへと変わるのに時間はかかりませんでした。

そして、騎士は彼女に今後はどうするつもりなのかと聞くと、姫は言いました。


「ここではない何処かへ連れてってほしい」


騎士はギルドに所属していた時期があったために、依頼をしながら旅をして、いいところがあればそこで暮らしましょうと姫に言いました。

赤髪の姫はその言葉を聴いて感動し涙を流したと聞きます。


2人での旅路はそれなりに厳しい物でしたが、姫は生まれてきて初めて充実した日々を感じる事が出来たのです。

外について何もしらなかった赤髪の姫。

赤髪の姫は騎士と共に外の世界を知っていくことが幸せだとも思っていました。




 しかし、旅は唐突に終わりを迎えてしまうのです。

2人が長い旅路の果てに辿りついたのは、旧エルドマド帝国でした。

街に着き、一息ついた2人でしたが、2人を帝国兵達が囲み始めたのです。

姫はエルドマド帝国の正妃となるのだと言われ、困惑しました。


 当時の王は消えた姫を殺し消し去ろうと考えておりましたが、姫は何処かへ消えてしまった。

そのため、帝国に王妃として送ると言ったが、その騎士が姫を拉致して帝国領地へ逃げてしまった故、彼女を救ってほしいと帝国へ言いました。

邪魔だと思っていた娘であったとしても、関係の悪かった2国の友好関係を築く切っ掛けになると読んだのです。

そして、帝国は彼女を躍起になり探しました。

姫の美しさは帝国領内でも有名だったのですから。

当時の帝王も赤髪の姫の姿見を見て、一目惚れをしたとも聞いた事があります。


姫を見つけた帝国兵は彼女を城へ連れていこうとします。

騎士は彼女を守るべく、帝国兵に襲い掛かりました。

騎士はとても強く、帝国兵を300人以上倒したとも言われています。

しかし現実は無常。

騎士は疲れのせいか、隙を取られ姫を人質に取られてしまいました。

騎士は悔しそうな表情を浮かべたまま、兵士達に貫かれていきます。

そして、騎士は倒れ伏し、命の灯火を消してしまったのです。

ああ、なんと憐れな事か……愛する人を守れず、道半ばで倒れゆく騎士。


しかし、天は彼ら2人を見離さなかったのです。

騎士の死に行く様を見せられた赤髪の姫は深く悲しみ、自分を捕らえている兵士から剣を奪い取ると自分の喉下へ剣を突き刺しました。

捕らえていた兵士は突然の事に驚き、彼女を放すと、姫はゆっくりとした動作で騎士の下へ歩いたのです。

彼女の刺した短剣は明らかに致命傷でした、傍から見ても刺した瞬間に死んでもおかしくない程の傷でした。

しかし……彼女はそのような傷を負っていても一歩一歩確実に騎士へと近づいて行きました。

そして、騎士に抱き付くように倒れ深い眠りへとついたのです。


「騎士様、今貴方と添い遂げます」


と言い残して。




 その後、兵士は姫を騎士から離そうとしましたが、何人がかりであっても2人を引き離す事はできませんでした。

そう、天が2人を死して尚別れさせないかのように。

仲間を殺された兵士達は怨み等すべて忘れ、ただ自分達の過ちに涙を流しました。

帝王も2人が深くそう死して尚愛する2人を痛く感動したと聞きます。

そして、帝国は2人を神々が認めた夫婦であると帝国領で盛大に祭儀が行われました。

後に行われる国祭の一つである<双伝祭>と呼ばれる祭りの原型と呼ばれております。


死後、赤髪の姫は自分自身の愛を貫いた尊き人と色々な人々から愛されました。

そして、騎士は騎士の中の騎士と羨まれ、理想の騎士と呼ばれ続けられるのでした。


赤髪の姫の名はフェティーダ=カリブス。

赤髪の姫の名前は有名でありますが、騎士の名前はよくわかっていません。

ただ、姫からはラフィと愛称で呼ばれていたと言われています。


2人の墓は旧帝国領の何処かにまだ存在していると伝えられているそうです。

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