精霊様? いや、ただの元・泡です
読んでいただきありがとうございます!
地上に出た主人公を襲ったのは、圧倒的な「五感の喪失」でした。
しかし、彼はある法則に気づきます。
「水に触れてさえいれば、世界は視える」
少女の涙から伝わる絶望と、迫りくる赤い狼たち。
独自の感覚を武器に、陸上初バトルに挑む第7話です。
地上は、俺にとって「死の世界」に等しかった。
水の中なら、わずかな水の揺れで敵の形も、距離も、心音さえも鮮明に把握できた。
だが、陸に上がった瞬間――世界は一変した。
(……クソ、何も見えねぇ。何も聞こえねぇ……!)
空気という媒体は、水滴である俺の感覚を激しく乱す。
視覚はひどく歪み、光が乱反射して形をなさない。
音にいたっては、厚い壁の向こう側で誰かが囁いているようにしか感じられなかった。
目の前にいる銀髪の少女――エルナが、必死に口を動かしている。
だが、その「声」は俺の核まで届かない。
「……ぁ……! ……けて……!」
かすかに、泣き叫ぶような空気の振動が伝わる。
ふいに、彼女が流した涙が、俺の水の体に触れた。
その瞬間。
視界が「爆発」した。
(……っ! 聞こえる、視えるぞ……!)
理解した。俺は「水」を媒介に世界を捉える存在なんだ。
ほんの一滴でも、自分の体と繋がった「水」に触れてさえいれば、そこを通じて水中と同じ鮮明な情報が流れ込んでくる。
涙を通じて伝わってきたのは、エルナの震える声と、彼女が背負った絶望的な魔素の波形だった。
「精霊様……助けて……村が……っ!」
(言葉は分からねぇ。姿もまだボヤけてる。……だけど、お前が泣いてることだけは、今はっきり分かったぜ)
俺は、震える彼女の頬にそっと触れた。
涙という道筋を通じ、俺の意思を彼女の魔素に叩きつける。
エルナが目を見開き、ふらつきながらも走り出した。
俺は彼女が流す涙や汗の「湿り気」を感知の糸として、必死に追いかける。
森の出口。
そこには、ドロドロと澱んだ「赤い魔素」の群れが蠢いていた。
『ブラッド・ウルフ』。
空気が乾燥しているせいで、奴らの姿はまだ「赤い火の玉」にしか見えない。
村を焼く熱気が、俺の水分を奪い、感知をさらに鈍らせようとしてくる。
(視界不良、聴覚麻痺……。なら、自分から「視界」を作ってやるよ)
俺は、視界の端に浮かぶ黄金の円盤を意識した。
固有スキル(ユニークスキル)【運命輪】。
狙うは一つ。この「乾燥した世界」を、俺のフィールドに変える力だ。
「おい、ワン公。俺の『泡生』、陸上初バトルの相手になってもらうぞ。……ハズレが出たら、お前らと一緒に干物になってやるよ」
俺はナマズの鱗を鎧としてまとい、黄金のルーレットを全開でスピンさせた。
読んでいただきありがとうございました!
「水に触れていれば視える」という弱点兼、攻略法。
少女の涙が、主人公に最初の視界を与えました。
次回、第8話。
第4スピンの結果は!?
乾燥した戦場を、元・泡がどう攻略するのかお楽しみに!
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