主の真名と、蒼銀の三傑
読んでいただきありがとうございます。
今回は主人公の内面に深く切り込む、非常に「濃い」回です。
ついに自分自身の名前を魂に刻んだ主人公。
その「真実の名前」が何なのか……それは、この後に続く番外編にて明かされます。
三傑と名付けられた幹部たちの圧倒的なパワーアップにもご注目ください!
銀狼たちの捕食を終え、俺の核にはかつてないほどの魔素が満ちていた。充足感の中でまどろむ俺の脳裏に、不意に激しいノイズが走る。
(……そうだ。俺には、かつて別の名前があったはずだ)
それは、灰色に塗りつぶされた世界で、ただ漫然と生きていた男の記憶。無機質なオフィスで誰かに呼ばれるたびに、自分という存在が摩耗していくような感覚。あの世界で俺を縛り付けていた、記号のような、ひどく安っぽい二文字の苗字。
今の俺は、一粒の泡から始まった。ナマズを喰らい、銀の装甲を奪い、今はこうして多くの配下を従える主となった。過去の自分を捨てるつもりはない。だが、今の俺を縛る鎖にするつもりもない。
「主様? どうかされましたか?」
エルナが心配そうに、ぷかぷかと浮く俺の体にそっと触れる。彼女の指先から伝わる、熱いほどの信頼と魔力の共鳴。
俺は、核の奥底にある「前世の欠片」と「バブルレイスとしての魔力」を一つに練り合わせ、権能を発動した。
『固有権能【真名の刻印】を自身に対して発動。――個体名を確定させます』
(……これからは、この響きが俺の魂だ。二文字程度の安っぽい記号じゃねぇ、俺だけの真実をここに刻む)
カチリ、と核の深部で何かが噛み合う音がした。俺の魂に、黄金の文字で一筋の名が焼き付く。声には出ないが、その意志の爆発はエルナへと伝わった。
「主様……。今、あなたの魂が……真実の輝きを得たのですね。そのお名前……私は一生忘れません」
俺は満足げに一つ跳ねると、視線を眼下に集まった戦士たちへと向けた。
俺は魔力の雫を三つ、空中に浮かせた。二文字程度の安い名で済ませるには惜しい、真に力ある魂を持つ三体を選び抜く。
(寄れ。お前たちには、俺の右腕となる資格がある。……蒼銀の三傑としてな)
真っ先に進み出たのは、石の槍を抱えた屈強な戦士だ。
(お前は不動の騎士となれ。名は『シュヴァルツ』だ)
次に、霧の中に消え入るような気配を持つ、鋭い瞳の雌コボルト。
(お前は触れれば死を招く花となれ。名は『アザミ』だ)
最後に、仲間に加わった魔狼のリーダーを見据える。
(お前は一族の王さえも喰らう、新たな牙となれ。名は『フェンリス』だ)
『固有権能【真名の刻印】――対象三体の限界突破を確認。個体進化を承認します』
雫が弾け、彼らの胸に重厚な刻印が刻まれる。シュヴァルツの皮膚は金剛鱗へと変質し、アザミの脚には空間を削る瞬歩が宿る。そしてフェンリスの牙には、敵の魔力を直接喰らう権能が芽生えた。
「「「御名、魂に刻みました! 主様!」」」
魂で繋がった彼らの咆哮が、森の静寂を切り裂いた。
「予約時間を間違えて、予定より早く17話と番外編を公開しちゃいました(笑)
楽しんでいただければ幸いです!
この後の第18話は、今夜20時に予定通り投稿します!三傑の無双、お楽しみに!」




