第7話:Welcome Isekai
――場面は少し遡る。
冒険者ギルド、昼下がり。
人の少ないホールには、紙をめくる音と、やる気のない返事だけが響いていた。
「……次の人、どうぞー」
カウンターに頬杖をつきながら、気怠そうに対応しているのは、例のダウナー受付嬢である。
書類の山は片付いていない。インクは乾きかけ。水晶もどこかくすんでいる。だが、本人はまったく気にしていなかった。
そのとき――ギルドの扉が勢いよく開いた。
「ただいま戻りました――って、え?」
出張から帰還した先輩受付嬢は、カウンター周りの惨状を見て固まった。三秒後。
「ちょっとあなたぁぁぁぁぁ!!!!」
怒号が建物全体に響いた。ダウナー受付嬢は顔も上げず、
「……あ、おかえりなさいです」
とだけ返した。
「おかえりじゃありません!! 私が出張行く前に何て言いました!?」
「……えーと、体調に気をつけて?」
「違います!! ランク判定の水晶を買い換えておいてって言いましたよね!?」
「……あ」
「あ、じゃないんですよォォォ!!」
カウンターを叩く音が響く。周囲の冒険者たちは思わずびくっと肩を震わせた。
「結果どうなってると思います!? 」
「……過疎だから三人で済みましたね……」
「済んでません!! 判定不能が三人も出てるんですよ!!上に報告したら大問題です!! 最悪、私たち二人とも――」
そこで先輩受付嬢は、喉を震わせながら言った。
「クビかもしれないんですよ……!!」
「…………」
ダウナー受付嬢の顔から、急速に血の気が引いた。
「……うわぁーん」
「泣きたいのはこっちです!! とにかくその三人を探して――」
泣き出した後輩に追い打ちをかけようとした、その瞬間だった。
――ゴォォォォォン!!!
とんでもない地響きが、ギルドを直撃した。
床が跳ね上がる。棚が激しく揺れ、書類が雪崩のように落ちた。
「な、何ですか今の!?」
「地震か!?」
「いや外だ、外で何か起きてるぞ!」
冒険者たちは一斉に武器を掴み、外へ飛び出す。受付嬢二人も慌てて後を追った。
揺れのした方向へ駆ける。街外れへ、さらにその先へ。
そして――全員、言葉を失った。
「……は?」
そこにあったはずの原っぱが、消えていた。
代わりに広がっていたのは、地面が一直線に抉り取られた、巨大な峡谷だった。
まるで大地そのものが殴り飛ばされたかのような、異常な光景。風はまだ荒れ狂い、土煙が遅れて崖下へと流れ落ちている。
「な、なんだ……これ……」
「魔法じゃねぇ……こんな規模、聞いたこともねぇぞ……」
唖然とする冒険者たち。その峡谷の縁、すぐそばに――。
ボロボロのスーツ姿の男が、一人、力尽きたように倒れていた。
「だ、誰ですかあの人!?」
先輩受付嬢が周囲へ叫ぶ。すると、野次馬の中にいた日に焼けた中年の御者が、目を細めて言った。
「ああ、あれは流れ人のあんちゃんだな。今日ここに来たばっかの」
「え」
ダウナー受付嬢が、震える手をゆっくりと挙げた。
「……さっき冒険者登録した人……あの人です」
峡谷を見る。
倒れている男を見る。
もう一度峡谷を見る。
「なななな、なっ、何ですってーーーーーーー!!!???」




