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第17話:このハゲー!!

森の奥から現れたのは、一見すると貴族のような気品あるドレスを纏った女性だった。

だが、その形相は鬼気迫るものがあり、手に持った杖で、目の前に跪く巨大なオークの頭を何度も何度も殴りつけていた。


「このハゲー!! ちーがーうーだろ!! ちがうだろーっ!!」


殴打のたびに、杖から不気味な紫色の光が溢れ出し、オークの筋肉が不自然に膨れ上がっていく。

それは強化魔法なのだろうが、受けている側のオークは恐怖でガタガタと震え、泡を吹いている。強化というよりは、命を前借りして無理やり出力を上げているような、そんな悍ましさがあった。


「なんで言われた通りにできないの!? お前ら!! 私がどれだけ苦労して、あのスポンサー様に顔を繋いでると思ってるの!? これ以上、私の評判を下げるな! 私の心を傷付けるな!!」


その絶叫を耳にした瞬間、俺の脳内に中学時代の職員室や、会社での会議室の光景がフラッシュバックした。

理不尽な怒号。筋の通らない罵倒。

そして、圧倒的なまでの自己中心的思考。


(……完全にアレだ)


異世界に来てまで、こんな聞き覚えのある罵声を浴びることになるとは思わなかった。

彼女もまた「流れ人」なのだろう。だが、俺のように擦り切れた末に来た人間ではなく、権力と狂気を抱えたまま、この世界という新しいおもちゃ箱に放り込まれた側の人間だ。


「私のスポンサーを怒らせるなと言っているのよっ!! オマエ、頭がオカシイよ!! このバカが!!」


女性は、動かなくなったオークをゴミのように蹴り飛ばすと、ようやく俺の存在に気づいたようだった。

乱れた髪を指で整え、一瞬で「上品な貴婦人」の仮面を被り直す。


「あら……見られてしまいましたわね。お恥ずかしいところを」


その瞳の奥は、まったく笑っていなかった。

彼女は俺のボロボロのスーツを値踏みするように眺め、口元を扇子で隠しながら、低く、冷たい声で付け加えた。


「私の計画を邪魔したEランクって、あなたのことですの?」


空気が、一瞬で凍りついた。

目の前の女性から放たれるのは、魔物など比較にならないほどの「黒い魔力」と、前の世界で散々味わってきた「質の悪い悪意」だった。

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