第16話:配置された獲物
ダウナー受付嬢は、カウンターの下から古びた広域地図を取り出した。
彼女は細い指先で、王都から俺が歩いてきた道筋をなぞる。
「……見て。昨日の峡谷の場所、それから今日の牙狼の出没地点」
彼女がペンで印をつけた場所を繋ぎ合わせると、一つの事実が浮かび上がった。
それは偶然の配置にしては、あまりにも整合性が取れすぎていた。
「これ、全部『あなたの進行方向』に配置されてる。まるで、あなたがそこを通るのを分かっていて、網を張っていたみたいに」
「……え」
喉の奥が引き攣るような感覚に襲われた。
偶然、不運な場所で魔物に襲われたのではなかった。
俺が歩く先に、あらかじめ殺意が用意されていたのだ。
「あなたのデータはまだギルドにも詳しく登録されてないはず。なのに、あなたの歩数や速度を計算して、待ち伏せを仕掛けている誰かがいる」
彼女は眠そうな目を細め、静かに、だが確信を持って告げた。
「三浦さん。あなたは偶然の被害者じゃない。……明確に、狙い撃ちにされている獲物だよ」
ゾッとした。
前の世界での嫌がらせは、せいぜい机にゴミを入れられるか、聞こえるように悪口を言われる程度だった。
だが、この世界の理不尽は、大地を削り、群れを差し向け、物理的な死をもって俺を追い詰めてくる。
誰だ。誰がそんなことをしている。
俺の背後で、森の木々が不自然にざわめいた。
冷たい汗が背筋を伝い、呼吸が浅くなる。
監視されている。
今の言葉を聞いていたかのように、周囲の温度が数度下がった気がした。
俺はたまらず、ギルドの裏手にある静かな森の入り口へと足を向けた。
人混みから逃れたかった。
だが、その選択すらも、相手の計算通りだったのかもしれない。
静寂に包まれた森の奥。
鳥の鳴き声すら消え、不気味なほどに凪いだ空気の中で。
その声は、唐突に、爆発的な音量で響き渡った。
「ちーがーうーだろ!!」
耳を劈くような、狂気を帯びた叫び声。
俺は全身の毛が逆立つのを感じながら、ゆっくりと、その声のした方へと視線を向けた。




