第12話:消えた「異」
「……通常、六芒星区分なんて重要案件はさ。裏の金庫で厳重保管して、ランクに見合った連中を指名で呼び出すもんなんだがね」
支部長の低く、静かな声が査定室に響く。
彼は手元の依頼書をひらひらと揺らしながら、視線をゆっくりと受付嬢二人へと向けた。
「なぜこれが、一般冒険者の掲示板に紛れ込んでいたのかな?」
「ひっ……!」
ダウナー受付嬢が、今度こそ完全に喉を鳴らして固まった。
隣に立つ先輩受付嬢は、直立不動のまま視線だけを斜め45度に固定し、激しい冷や汗を流している。空気だけで分かる。これは寝ぼけていたか面倒くさがった彼女が、中身も確認せずに適当に振り分けた結果だ。
支部長は深くため息をつき、俺に向き直った。
「本来、あの森には『異常核』と呼ばれる魔力の結節点があるはずだった。そこから溢れる汚染された魔力が、周囲の獣をA級魔物へと変異させていたんだ」
支部長が卓上の地図を指差す。そこには昨日、俺がいたエリアが記されていた。
「だがあの峡谷……。お前の拳は、魔物だけでなくその『核』ごと、消し飛ばしたらしい。地脈観測の結果によれば、現在あの地点には魔力の『穴』が開いている状態だ。不自然なほどに何もない、空白の空間だ」
「……穴、ですか」
「ああ。自然界ではあり得ない事象だ。王都の本部もこれを重く見て、近く専門の調査隊を派遣することになった。……お前の力は、一ギルドの裁量で隠し通せる規模を越えつつある」
支部長は一度言葉を切ると、俺の目をつらつらと覗き込んだ。
「三浦。お前にはしばらく、この街に留まってもらう。表向きはEランクの新人としてな。だが、お前は本日付で正式にギルドの『最優先監視対象』に指定された。これは内密の話だ。変な動きをすれば、王都の騎士団が動くことになるぞ」
さらりと言われた脅迫。だが、今の俺にはそれを拒む権利も、力加減の分からない拳を振り回して逃げる勇気もなかった。
「……分かりました。おとなしくしてます」
「そうしてくれ。だが、一つ忠告だ」
支部長の目が、獲物を狙う獣のように鋭くなった。
「『異常』は、核が消えたからといって終わったわけじゃない。地脈に開いた穴が何を呼び込むのか、あるいはあの魔物たちが何に怯えていたのか……。お前が消し飛ばした跡地に、まだ何かが潜んでいる可能性は捨てきれん」




