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第11話:流れ人

支部長は、灰色の石のようになった水晶を机に放り出した。高価な代物がただの石ころに変わったというのに、彼は惜しむ様子もなく、ただ深く椅子に背を預けた。


「三浦 京。お前のような連中を、この世界では『流れ人』と呼ぶ」


その言葉に、俺は黙って耳を傾ける。


「数年に一度、あるいは数十年に一度。お前のように、この世界の理の外側からふらりと現れる者がいる。大抵は、何らかの特異な力を一つだけ持っているものだ。火を出すことに長けているとか、剣の腕が異常に立つとかな」


支部長は、窓の外に広がる王都の景色を眺めた。


「だが、お前のはその類じゃない。特化型ではなく、桁が、あるいは存在の強度が、この世界の枠組みを根本から無視している。……昨日の峡谷、あれをどうやった」


俺は少し黙ってから、正直に答えた。


「……自分でも、よく分かりません。ただ必死で。あの日、あの時、思い出したことをなぞっただけで……意識して使えるようなものじゃないです」


「制御不能、か」


支部長は顔をしかめた。


「一番厄介な答えだな。お前をこのまま野放しにするのも、かといって、その力を恐れて排除しようとするのも、このギルドにとっては損失が大きすぎる」


彼は手元の書類に、乱雑な字で何かを書き込んだ。


「よし。お前のランクは暫定で『E』とする」

「……いいんですか? あの、一応峡谷とか作っちゃいましたけど」


「Fのままだと目立ちすぎるし、かといって今の実力不明の状態でいきなり上級ランクに据えれば、周囲の嫉妬と混乱を招くだけだ。Eなら、多少腕の立つ新人で通る」


事務的な判断だった。俺にとっては、注目を避けられるのなら願ってもない提案だ。


「ところで、三浦。お前が昨日持っていったあの依頼書だが」


支部長の目が、鋭く細められた。


「あれはただの薬草採取じゃない。六芒星の区分が付いていたはずだ。……本来、あれは『異常発生調査』の依頼だった」


「調査……?」


「そうだ。あの周辺で魔物が異常に強化され、凶暴化しているという報告があった。お前が遭遇したA級魔物も、その異常の一部だ。薬草の採取はその『ついで』に過ぎない。本来は熟練の調査員が向かうはずだったんだ」


支部長は机を指で叩いた。


「お前がその拳で全てを消し飛ばしてくれたおかげで、調査すべき痕跡まで綺麗に消滅した。だが、お前という存在そのものが、その『異常』を上回る最大のイレギュラーだということは分かったよ」


俺の手元には、Eランクと書き換えられた安っぽい木札が戻ってきた。

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