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第10話:測定不能

翌朝、ギルドの空気は昨日にも増して重苦しかった。

 案内されたのは、一般の受付カウンターではない。奥にある、厚い石壁に囲まれた「特別査定室」だった。


 そこには、昨日ダウナー受付嬢が半泣きで買いに走らされたという、新品の「特級ランク判定水晶」が鎮座していた。昨日使ったボロボロの代物とは違い、内側から澄んだ魔力の光を放っている。見るからに高価そうだ。


「……これ、一個で金貨十枚はするんですからね。絶対、絶対に壊さないでくださいよ」


 ダウナー受付嬢が、今にも泣き出しそうな目でこちらを睨んでいる。

 横に立つ先輩受付嬢は、青白い顔をしながらも無理やり声を絞り出した。


「……三浦様、準備はよろしいでしょうか。ただ水晶に手を触れるだけで結構です」


 俺は、あの脳内にこびりついた「9」のノイズを意識しないようにして、そっと右手を伸ばした。

 指先が冷たい水晶に触れた、その瞬間。


 ――ッ、ガチ、ガチガチガチガチ!!


 部屋中の空気が、物理的な重圧となって押し寄せてきた。

 水晶が、単なる発光ではなく、もはや「暴力」と呼べるほどのまばゆい光を放ち始める。

 透明だった石の内部が、狂ったように赤く、黒く、白く点滅を繰り返す。


「ひっ……!?」


 ダウナー受付嬢が悲鳴を上げて後退する。

 水晶の表面に、ピキッ、と細かい亀裂が走り始めた。

 俺の脳内では、例の羅列が網膜を焼き切るほどの速度でスクロールしている。


 破裂する。そう確信して手を離そうとした直前。

 水晶の光がピタリと止まり、泥のように濁った灰色に変色した。


 中心部に浮かび上がった文字は、ランクを示すアルファベットではなかった。


【ERROR:測定限界を超過しています】


 沈黙が、査定室を支配した。

 先輩受付嬢は文字通り蒼白になり、ダウナー受付嬢は「終わった……」と呟いて膝から崩れ落ちた。


「……これ、どうなるんですか」


 俺の問いに、誰も答えられない。

 本来、この水晶がエラーを吐き出すことなどあり得ないのだ。

 

「――判定保留、だな。少なくとも現行のシステムでは、お前を測る物差しがない」


 背後の重い扉が開き、一人の男が入ってきた。

 使い古された革のコートを羽織り、ひどく疲れた目をした中年男。

 その姿を見た瞬間、受付嬢二人の背筋が跳ね上がった。


「し、支部長……! なぜここに」

「なぜも何も、昨日からずっと気になっていたからな」


 支部長と呼ばれた男は、ダウナー受付嬢を冷ややかな目で一瞥した。


「お前があまりにも不真面目な顔で街中をうろついているからな。サボりかと思って付けていったら、とんでもないものを見せてもらった。――あの『峡谷』のことだ」


 男は俺の前に立ち、蛇のような鋭い視線でこちらを観察する。


「三浦 京。お前を今日からFランクとは呼ばない。かといって、実力不明のままSランクにするわけにもいかない」

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