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帰還、そして砂の伝説(最終話)

第4話を読んでくださった方、ありがとうございます!


魔王城を砂で封鎖し、世界を救った聡美。

でも、誰もそれが聡美の功績だとは知りません。


さて、聡美は異世界に残るのか、それとも――


最終話、お楽しみください!

■第十三章:砂の伝説


それから、数週間が経った。


かつて人類の脅威であった魔王城は、突如として出現した「物理的な砂の山」によって完全に封鎖され、魔物の供給が途絶えた。


世界に平和が訪れた。


人々は空を見上げ、歓喜の声を上げた。


だが、誰も知らない。


これが、ただ淡々と砂を撒き続けた一人の砂魔道士・聡美による功績だということを。


* * *


街では、まことしやかな噂が広まっていた。


「砂の魔女が魔王を葬ったらしい」


「いや、あれは砂の災厄による神罰だ」


「真の名は『砂の支配者サンド・ルーラー』。世界を救った救世主だ」


尾ひれがついた伝説が独り歩きするが、その正体を知る者はいない。


当の聡美は、宿の片隅で静かに家計簿をつけていた。


「銅貨も銀貨もかなり溜まったキュ。そろそろ両替商で金貨に換えてもらうキュ」


地味に地道に、お金を貯めてきた成果だ。


* * *


ある日、ギルドの掲示板に一枚の特注依頼が貼り出された。


【緊急捜索:砂の魔女を探しています】


世界を救った英雄として、王都にて最高級の叙勲を執り行いたい。

心当たりのある方、または情報をお持ちの方は、

ギルドまでお申し出ください。


報酬:金貨1000枚


――王国騎士団団長


聡美はその貼り紙を、0.1秒で視界からシャットアウトした。


「……そろそろ、宇都宮に帰るキュ」


目立つのは合理的ではない。


彼女の目的はあくまで「生存」と「平穏」だった。


叙勲されて有名になったら、きっと色々な依頼が殺到する。


それは面倒だ。胃に悪い。


* * *


■エピローグ:帰還


聡美は、かつて転生してきた始まりの広場に立っていた。


高名な神官に多額の寄付を払い、帰還魔法の儀式を依頼する。


「……本当によろしいのですか? あなたは世界を救った英雄なのですよ。富も名声も、望むままなのに」


神官の問いに、聡美は表情一つ変えずに答えた。


「誰も知らないから、私は英雄じゃないキュ。それに、私は元の世界で普通に暮らしたいキュ」


「……そうですか」


神官は深く頷いた。


「あなたの無欲さは、まさに聖者のそれですね。では、どうかお元気で」


神官が杖を振るう。


眩い光が聡美を包み込み、その姿を異世界から消し去った。


* * *


――宇都宮。


アパート近くの、見慣れた公園。


「ただいま……だキュ」


聡美は目を開けた。


排気ガスの匂い、遠くで聞こえる車の走行音。


元の世界。元の身体。


彼女はふらりと公園の砂場に歩み寄り、砂をひと握りだけ掬い上げた。


そして、誰もいない方向へ、かつての癖で軽く放る。


「サンドブラインド……なんてね」


バサァ、と乾いた音を立てて砂が地面に落ちる。


魔法は発動しない。


魔力のない、ただの砂だ。


小さく、本当に小さく笑って、聡美はアパートへと歩き出した。


* * *


部屋に戻り、充電の切れていたスマホを起動すると、一通のメッセージが届いた。


『聡美ちゃん、久しぶり!元気?今度また山登り行こうよ! by なおちゃん』


聡美は、どこか懐かしい響きの名前に口角を緩めた。


「行くキュ」


画面に向かって小さく呟く。


異世界で山を砂で埋めた自分が、また山登りをする。


なんだか不思議な気分だ。


でも、それでいい。


地味で地道な日常が、聡美には一番合っている。


* * *


その頃、異世界では――


「また砂山だ!」


「一体誰が!? 聖女は去ったはずでは!?」


平和になったはずの王都広場に、突如として出現した「巨大な砂のピラミッド」。


聡美がさっき公園で投げた"最後の砂"が、異世界で砂山になってしまったのだった。


人々はそれを、去りゆく聖女が残した守護の象徴として、永く語り継ぐことになる。


歴史に名は刻まれず、ただ砂の山々だけが、静かに彼女の足跡を物語っていた。


* * *


■後日談:つのみや大学の日常


数週間後。


宇都宮にある「つのみや大学」。


昼休みの喧騒に包まれたカフェテリアで、聡美は友人と向き合っていた。


「なおちゃん、私、実は砂魔道士になったキュ」


「砂魔道士? なにそれ、新しいネット用語?」


なおちゃんがパスタを巻きながら笑う。


「で、魔王でも倒してきたわけ?」


聡美は真顔で頷いた。


「魔王城を物理的に砂で封じ込めてきたキュ」


「あはは! 聡美、相変わらず天然というか、不思議ちゃん全開だね」


周囲の女子学生たちが「また聡美が変なこと言ってる」という生温かい視線を送ってくるが、聡美はもう気にしない。


異世界で魔王城を封鎖してきた自分に比べれば、この程度の視線は何でもない。


* * *


「じゃあさ、その砂魔法、ここで見せてよ。砂魔道士さん?」


おどけるなおちゃんに対し、聡美は指先をそっと立てた。


「サンド……」


言いかけて、止める。


もしも砂魔法がここで発動したら、このカフェテリアは瞬時に砂に埋もれ、三限の講義は絶望的になるだろう。


それは非常に非効率だ。


「……今日はMP切れキュ。砂を撒くと掃除が大変だキュ」


「あはは、確かに! じゃあ砂魔道士さん、授業が始まるから行こう」


なおちゃんが立ち上がる。


「講義室には砂を撒かないでね!」


「善処するキュ」


* * *


異世界を救った最強の砂魔道士・聡美は、今日も地味で地道な「普通」の女子大生として、平穏な日々を謳歌するのだった。


聡美の部屋には、異世界から持ち帰った賢者の砂が小瓶に入って飾られている。


時々、砂が金色に光る。


それが異世界からのメッセージなのか、ただの錯覚なのか、聡美にはわからない。


でも、それでいい。


地味で地道な人生も、悪くない。


砂のように、静かに、確実に、積み重ねていけばいい。


* * *


そして――


宇都宮の公園では、今日も子どもたちが砂場で遊んでいる。


その中に、ときどき現れる優しいお姉さんがいる。


魔法のように綺麗な砂の城を作ってくれる、不思議なお姉さん。


子どもたちは知らない。


そのお姉さんが、かつて異世界で魔王城を砂で封鎖した伝説の砂魔道士だということを。


* * *


ある日の午後。


聡美が砂の恐竜を作っていると、少し離れた場所で子どもたちの声が響いた。


「えいっ!」


「やめてよ! 目に入った!」


見ると、男の子が別の子に砂を投げている。


聡美は即座に立ち上がり、駆け寄った。


「サンドブラインドはダメキュ!」


真剣な表情で注意する。


「……え? さんど、ぶらいんど?」


男の子がきょとんとする。


「砂を投げたら、目に入って痛いキュ。危ないキュ」


聡美は優しく、でもしっかりと諭す。


「ごめんなさい……」


男の子が素直に謝る。


聡美は小さく頷いて、砂場に戻った。


* * *


そして聡美も、もう気にしていない。


ただ、砂場で子どもたちと遊びながら、小さく微笑むだけ。


「今日はお城じゃなくて、恐竜がいいキュ? わかったキュ」


砂魔法は使えなくても、手で砂を盛れば形は作れる。


地味で地道な作業だけど、それでいい。


聡美にとって、それが一番幸せな時間だから。


* * *


かつて異世界で数え切れないほど「サンドブラインド」を使った聡美。


でも今は、子どもたちに「砂を投げてはいけない」と教える立場。


その矛盾を、聡美は少しだけ可笑しく思う。


「でも、異世界では必要だったキュ。ここでは必要ないキュ。それでいいキュ」


小さく呟いて、また砂を盛り始める。


平和な世界では、砂は投げるものじゃない。


形を作って、遊ぶもの。


それが、本来の砂の使い方キュ


聡美は今日も、宇都宮で元気に生きている。


――『砂魔道士・聡美の異世界冒険譚』完


【完】

最終話、お読みいただきありがとうございました!


ハズレ属性「砂」で転生した聡美の物語、いかがでしたでしょうか?


砂投げから始まり、生き埋め戦法を確立し、

ダンジョンを砂で満たし、魔王城を封鎖して――


やってることは最後まで「砂をまく」だけでしたが、

地味に地道に、確実に世界を救いました。


聡美は異世界に残らず、宇都宮に帰りました。

普通の日常が、彼女には一番合っていたのです。


でも、異世界には今も砂の山々が残っています。

それが聡美の足跡であり、伝説です。


この物語を最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました!


★評価やブックマーク、感想をいただけると、

作者が砂のように喜びます!キュ!


また別の作品でお会いしましょう!


次回作:聡美がスキルがないまま異世界に?

「異世界待機 ピ は異世界を救う!」

お楽しみに!

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