伝説の魔物も山の主も、砂を盛れば安心キュ。
第1話を読んでくださった方、ありがとうございます!
今回は、聡美がついに伝説の敵と遭遇します。
物理無効、魔法無効のあの強敵に、砂魔法は通用するのか?
そして公園の砂場で、聡美が気づいたこととは――
地味に地道に、砂の量だけは増えていきます。
それでは、お楽しみくださいキュ!
第三章:はぐれメタルと致命的な算数ミス
謎の激レアアイテム『賢者の砂』を手に入れた。 その瞬間、私の人生……というか、私の「砂魔法」は完全にバグった。
これまでの私の魔法は、せいぜい相手の顔に砂をひっかける「目潰し」か、頑張っても「砂投げ」の域を出ない地味なものだった。
しかし、どうだろう。 今のそれは「砂山作成装置」とも言えるほどの、圧倒的な物量を投下できるようになっていた。
* * *
今や森を歩けば、かつては脅威だったゴブリンたちが、私の姿を認めるや否や悲鳴を上げて四散していく。 「砂に埋められたゴブリンキング」の伝説は、魔物たちの間で「歩く砂地獄」として語り継がれているらしい。
二つ名は『砂の魔女』、あるいは『恐怖のブルドーザー』。
「私は重機じゃなくて人間キュ……」
と言っても、誰も聞いてくれない。
* * *
そんなある日、茂みがかつてない速度で激しく揺れた。
「ガサガサッ!」
現れたのは、銀色に鈍く光る流体金属の塊。 冒険者たちの憧れであり、絶望の象徴――『はぐれメタル』だ。
物理攻撃は通らず、魔法攻撃はレジストされ、超高速で逃走する経験値のバグ。
「キュ! なんか親近感わく敵キュ! 地味で目立たないけど中身はレア……私と同じキュ!」
聡美は一瞬だけ共感した。 が、次の瞬間には冷徹な目つきになる。
「でも、経験値のために埋めるキュ!」
一切の躊躇なく、進化した右手を突き出した。
「サンドブラインド・メガ!」
はぐれメタルに攻撃魔法は効かない。それは世界の理だ。 だが、私の放つそれは「攻撃」ではない。 ただの「大量の砂の投棄」である。
「キュ、キュイッー!?」
はぐれメタルが超スピードで逃げ出すよりも早く、頭上から数トンの砂が垂直落下した。
いくら物理無効の体躯を持っていようと、肺(のような器官)に砂が詰まり、全方位を数トンの圧力で固められればどうなるか。 答えは単純、窒息である。
* * *
【はぐれメタルを倒した!】 【経験値8,000を獲得!】 【タチバナ・サトミのレベルが35に上昇しました!】 【スキル習得:砂魔法の威力がさらに100倍になりました!】 【称号:『砂の支配者』を獲得!】
「賢者の砂で10倍、はぐれメタルで100倍……合わせて110倍キュ! 計算通りキュ!」
満足げに頷く私。 しかし、私は気づいていない。 10×100は『1,000倍』であることに。
この致命的な算数ミスが、のちにさらなる過剰火力を生むことになるのだが、それはまた別の話だ。
* * *
【新呪文:『サンドウォール・ジェネレイト』を習得しました】
「かっこいい名前キュ! これで防壁が作れるキュ!」
と喜ぶ私だが、客観的に見れば「もっと効率よく埋め殺すための壁」が増えただけだった。
そして、はぐれメタルの砂塚から金貨を1枚ゲットした。
「今日の夕飯は奮発して、オークのステーキでも食べるキュ!」
第四章:砂の壁、砂の圧、砂の正義
1,000倍になった砂魔法。 その効果は、すぐに試されることとなった。
「ブヒィィ!」
前方から立ち上る土煙。現れたのはオークの大群だった。 筋骨隆々の豚頭戦士たちが、手にした粗末な斧を振りかざして迫る。 その数、12体。
獲物を見つけたオークたちは、アメフトのラインバッカーを彷彿とさせる凄まじい突進を見せる。地面を揺らし、空気を震わせるその圧迫感は、まさに剥き出しの暴力だ。
到底、足の遅い私には逃げ切れない距離。
* * *
しかし、私は落ち着いて無機質に右手をかざした。
「メガ・サンドウォール!」
ドォォォォン! と空気が破裂するような音と共に、瞬時に巨大な砂の壁が出現した。 高さ5メートル、幅10メートル。
オークたちは壁にぶつかり、もがきながら砂をかき分けようとする。
「サンドウォール! サンドウォール!」
壁を重ねる。砂は押し潰す。押し固める。 オークたちの叫び声が徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなった。
* * *
【オークの群れを倒した!】 【経験値600を獲得!】
システムログが無機質に勝利を告げる。
「砂で生き埋めにする戦法、完全に確立したキュ……」
確立はしたが、これ、絶対道徳の教科書には載らないやつだ。
以前に読んだ歴史漫画でも、冷酷無比な悪役の将軍が城攻めで使っていた気がする。
でも異世界で生きるためには仕方ない。私は自分に言い聞かせた。
砂山をかき分けると、オークたちの持っていた銀貨が20枚ほど出てきた。 今日は稼げた。
でも、今の光景を見たら、しばらく肉は食べたくない気分になった。
「だから、今日の夕飯はサラダチキンにするキュ」 (おいっ!)
* * * *
■第五章:山を砂で埋める
1週間後。
「今日も修行キュ!」
私は森を抜け、岩山地帯へ向かった。 そろそろ新しい敵に挑戦しないと、レベルが上がりにくい。
「ふぅふぅ、山登りは大変キュ……転生前になおちゃんと山登りしたの思い出すキュ……」
なおちゃんは小さくてぽっちゃりで、でも根性だけは妙にあって、私がへばると不機嫌になって引っ張っていくタイプだった。 「聡美ちゃん、そんなんじゃ一生デスクワークだよ!」と笑いながら。
(なおちゃん、今どうしてるキュ……元気にしてるといいキュ……)
* * *
しばらくすると、山頂についた。
「山頂は気持ちいいキュ~」
冒険を忘れしばしくつろいでいると、
「ゴゴゴゴゴ!」
地響きと共に、山の斜面を割って「それ」が現れた。
身長5メートルを超える、肥大化した筋肉の塊。 手には引っこ抜いたばかりの大樹の棍棒。 この岩山の絶対的な主、『ボストロール』である。
「ギ、ギガァァァァッ!!」
ボストロールの咆哮が、大気を震わせる。 通常の冒険者パーティーなら、このプレッシャーだけで失禁して逃げ出すレベルだ。
* * *
だが、私は冷静だった。
「キュ……。デカい、重い、そして――足場が岩場。条件は揃ったキュ」
はぐれメタル戦で跳ね上がった魔力を指先に集中させる。
「『サンドスリップ・マキシマム』! 『サンドブラインド・バースト』! 『サンドウォール・ジェネレイト』!」
名前こそ派手だが、やっていることは単純明快。 「狂ったような量の砂を出す」、それだけだ。
しかし、ステータスがバグり始めた私の「砂投げ」は、もはや砂の暴力へと昇華していた。
ドッ、ドササササササササササッ!!!
「ギッ……!? ギガァッ!?」
ボストロールは驚愕した。 目の前の小娘が手をかざした瞬間、視界が「茶色い絶望」で塗りつぶされたのだ。
目には超高密度の砂が入り、呼吸をしようと口を開ければ肺まで砂が詰まる。 さらに、自慢の巨体が仇となり、砂に足を取られて動きが取れない。
「仕上げキュ。埋まってろキュ」
右手を振り下ろすと、空中に滞留していた数トンの砂が、重力加速度を伴ってボストロールの上に堆積した。
* * *
一分後。
岩山の山頂には、元々の標高をさらに20メートルも上書きする「完全な砂のピラミッド」が完成していた。
【ボストロールを撃破!】 【経験値1,200を獲得!】 【レベルが40に到達しました!】 【固有スキル:『サンドマウンテン』を習得しました】
「マウンテン……つまり、山を作る技キュ!?」
私は首を傾げた。
「……キュ? 最初から山を作ってた自覚はあるキュ。でも、システムに公式認定されたのは大きいキュ……」
私は満足げに頷くと、合理的に最短ルートで山を下りた。
* * *
翌日。 岩山の登山口には、ギルドによって緊急の警告看板が設置された。
【警告:標高が昨日より20メートル高くなっています。また、山頂付近は極めて滑りやすい「謎の砂」で覆われており、滑落の危険性があります。初心者は立ち入らないこと。】
第六章:公園のヒロイン
翌日は休日にすることにした。
「今日はオフキュ! 冒険者だって休みが必要キュ!」
私は街を散歩していた。 市場で焼きたてのパンを買い、噴水広場のベンチに座り、ぼんやりと人々を眺める。 平和だ。
少し歩くと、公園があった。 子どもたちがブランコや滑り台で遊んでいる。のどかだ。 その隅に、砂場があった。
私はふっと笑った。 そして、砂場で遊んでいる子どもたちのもとに近づいて――。
「サンドマウンテン!」
魔力を絞って、砂場に見事な砂山を作った。綺麗な円錐形。
「わあ!」 「おねーちゃん、すごい!」 「魔法使い!?」
子どもたちが目を輝かせて集まってくる。
「お城作って!」 「恐竜がいい!」 「トンネル掘って!」
砂の量をコントロールし、形を整え、城壁を作り、恐竜の背中を丸め、トンネルが崩れないように固めた。
「すごい!」 「おねーちゃん、また来てね!」
母親たちも微笑んで見守っている。 私は久しぶりに心が温かくなった。
* * *
帰り道、私は重要なことに気づいた。
「私、砂をまく量をコントロールできてるキュ!」
戦闘中はいつも最大量でぶっ放していた。 だが今は、必要な分だけ出せる。形も整えられる。
「このコントロール……何かに使えるかもしれないキュ!」
聡美の胸に、小さな希望が灯った。
* * *
大量の砂で強敵を倒してきた砂魔道士聡美。砂の制御を覚え、公園デビューも成功。
だが彼女はまだ知らない。魔法が本当は1000倍になっていることを。
この算数ミスが、やがてとんでもない事態を引き起こす――
【第2話・了】
第2話、お読みいただきありがとうございました!
伝説の敵も、山の主も、砂を盛れば安心キュ。
そして公園デビューして砂場で子どもと遊びながら、今日も元気に砂をまきます。
次回は、ついにダンジョン挑戦です。
狭い通路で最大量の砂を出したら……どうなるでしょうか?
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聡美の胃痛が少し和らぎます!キュ!
次回もお楽しみに!




