『砂?』ハズレ属性の転生者 砂属性でどうやって魔王討伐するキュ?
はじめまして!
この作品は「『砂』というハズレ属性で異世界転生したら、
意外と最強だった」というコメディ寄りの
異世界ファンタジーです。
主人公の聡美は少し胃弱で、口癖が「キュ」です。
ゆるく楽しんでいただければ幸いです。
※この作品はフィクションです
※「キュ」は転生の副作用です(大事なことなので)
それでは、お楽しみください!
■プロローグ:転生
「え……これって……」
気がつくと、聡美は見知らぬ石畳の広場に立っていた。
宇都宮のアパートで、YouTubeを見ながら寝落ちしたはずなのに――空はやけに青く、空気はやけに乾いている。
遠くに見える建物は明らかに西洋風の石造り。街ゆく人々の服装は中世ヨーロッパのようだ。
「転生者様、ようこそこの世界へ!」
白い法衣をまとった神官らしき老人が、金色の杖を掲げて声を張り上げた。
周囲には鎧姿の屈強な戦士、尖った帽子をかぶった魔法使い、革鎧にダガーを差した盗賊風の者たち――明らかに「冒険者」な人々が数十人は集まっている。
――あ、これ、異世界転生だ。
聡美は妙に冷静に理解した。
昔から現実逃避は得意だった。「どうせ夢キュ」と思えば意外と平気になる。便利なスキルだ。
神官は聡美の額に皺だらけの手をかざし、低く響く声で祈りを捧げる。
淡い青白い光が聡美を包み込んだ。温かくて、ちょっとくすぐったい。
「さあ、あなたの魔法適性を判定いたしましょう。
火、水、風、雷、光、闇――いずれかの属性に必ず目覚めるはず……」
光が収束し、空中に金色の文字が浮かび上がる。
《砂》
「……す、砂?」
神官の声が震えた。
周囲の冒険者たちもざわざわと騒ぎ始める。
「砂属性……? そのような属性は、古の文献にも記録にも……一度たりとも……」
周囲がざわめく。冒険者たちが顔を見合わせ、露骨に目をそらし、そして、すぐに結論に達する。
「砂って……戦えるのか?」
「聞いたことねえな」
「土属性の劣化版じゃね?」
「パーティーには……ちょっと……」
「砂、目に入ったら痛いけどさ……それだけだろ」
聡美は、じわじわと胸が苦しくなるのを感じた。
異世界転生――人生リスタート。輝かしい第二の人生のはずなのに、開始地点で既に詰んでいる。
周りの憐れむような視線が痛い。
「異世界転生したのに、ハズレ属性キュ……?」
口から勝手に「キュ」が出た。
周囲の冒険者が一瞬だけ真顔になり、次の瞬間「やっぱ変なやつだ」という空気になった。
距離を取る者、笑いをこらえる者、同情の目を向ける者。
(転生の副作用が強いキュ……いや、これ昔からのクセキュ……)
聡美は深呼吸しようとした。
が、深呼吸すると胃酸が上がるタイプだったので、浅く息を吸った。
神官が申し訳なさそうに言う。
「まことに申し訳ありません。砂属性というのは前例がなく、どのような能力なのか私にも……とりあえず、基本的な魔法の使い方だけは教えられますが……」
「……お願いしますキュ」
聡美は小さく頷いた。
背中が丸まりそうになるのを必死で堪えながら。
* * *
■第一章:砂投げから始まる冒険
「ハズレ属性だからって、異世界で待機していたら異世界引きこもりになっちゃうキュ!」
神官から魔法の基本だけを教わった聡美は、意を決して街の外の森へ向かった。
未知の属性でも、冒険者として生きていくしかない。パーティーに入れないなら、ソロでやるしかない。
宇都宮時代も友達は少なかったが、なんとかやってきた。今回も同じだ。
森に入ってすぐ、緑色の小鬼――ゴブリンが茂みから飛び出してきた。
「ギギギ!」
棍棒を振り上げ、鋭い牙を剥き出しにして襲いかかってくる。
「キュ!?」
聡美の頭の中は一瞬で真っ白になる。だが、身体は勝手に動いた。
手のひらを前に突き出し、脳内で魔法のイメージを描く。
「とりあえず……サンドブラインド!」
本能的に叫んだ魔法名。手のひらから細かい砂が噴き出し、ゴブリンの顔面に直撃した。
「ギギャアア!」
砂が目に入り、小鬼は目を押さえて転げ回る。涙を流し、顔をこすり、悶絶している。
「効いた!? でもこれ、攻撃じゃなくてただの砂投げキュ……!」
とにかく今は逃げる。聡美は全力で森を駆ける。運動は苦手だが、生存本能だけは強い。
走りながら思う。
(私、今、砂場の小学生と同じ戦い方しているキュ……でも生きているキュ……生きていることが大事キュ……)
しかし運悪く、前方から別のゴブリンが現れた。逃げ道を塞ぐように立ちはだかる。
「ギギ!」
「ヤバいキュ! えっと……サンドスリップ!」
咄嗟に地面へ砂を撒く。ゴブリンは足を滑らせ、盛大に転倒して頭を打った。
ゴツンという鈍い音。ピクリとも動かない。
――脳内に声が響いた。
『ゴブリンを倒した! 経験値30を獲得! レベルが上がった! レベル2になった!』
「倒せた……倒せたキュ!」
嬉しい。心臓がバクバクしている。でも同時に、ちょっと不安になる。
「……でもこれも結局、砂投げキュ……」
それでも、魔法で投げられる砂の量は少し増えた気がする。地味だが確実な成長だ。
地味の積み重ねは、人生を支える――これまでの人生で学んだことだ。
聡美は震える手で、倒れたゴブリンのポケットから銅貨3枚を拾った。これが今日の稼ぎだ。
* * *
■第二章:砂に埋もれるゴブリンキング
それから数週間、聡美は地道に森でレベルを上げ続けた。
毎日同じルーチンだ。朝、街の安宿で質素な朝食を食べる。森へ行く。ゴブリンを見つける。砂をまく。逃げる。倒す。銅貨を拾う。帰る。夜、宿で胃薬を飲む。
投げられる砂の量は徐々に増え、今では一度に両手で抱えるほどの砂を生み出せる。サンドブラインドの射程も5メートルまで伸び、サンドスリップの範囲も直径2メートルになった。
(地味に地味に、地味に……キュ)
レベルは12になった。他の冒険者に比べれば遅いペースだが、死なないことが何より大切だ。
そんなある日。
「グオオオオ!」
森の奥から、地響きとともに巨大な影が現れた。普通のゴブリンの三倍はある体躯、筋肉の塊のような腕、黄金の冠を被った――ゴブリンキングだ。
聡美は思わず後ずさる。足が震える。
「ピンチキュ! でも主人公補正で死なないはずキュ! そうキュ、そうに決まってるキュ!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。半分は自己暗示だ。
ゴブリンキングが巨大な斧を振り上げる。
「サンドブラインド! サンドスリップ! サンドブラインド! サンドスリップ!」
砂が宙を舞い、地面に積もる。ゴブリンキングは怯みながらも迫ってくるが、視界を奪われ、足元を崩され、徐々に動きが鈍る。
「サンドウォール!」
新しく覚えた魔法。高さ3メートル、厚さ1メートルの砂の壁が生まれる。
ゴブリンキングが突っ込む。壁が崩れる。だが崩れた砂がさらに足を取る。
「サンドブラインド! サンドスリップ! サンドウォール!」
息が切れる。魔力も底が見えてきた。でも止められない。止まったら死ぬ。
* * *
十分後、聡美の周囲は砂の海になっていた。
そして――ゴブリンキングは完全に砂に埋まっていた。頭まで。動かない。窒息したのか、気絶したのか。
『ゴブリンキングを倒した! 経験値500を獲得! レベルが上がった! レベル18になった! ドロップアイテム:賢者の砂を入手! 称号「砂使い」を獲得!』
「賢者の……砂? 石じゃないキュ?」
倒れたゴブリンキングの手元に、黄金色に輝く砂の入った小瓶が転がっていた。
手に取った瞬間、全身に熱い魔力が流れ込む感覚が走る。
『砂魔法の威力が10倍になった!』
「10倍!? それってつまり……砂の量が10倍キュ!?」
聡美はなんか不思議な気分になった。
(増え方が雑キュ……! でも……ありがたいキュ……)
聡美は砂まみれになりながら、小瓶を握りしめた。
ハズレ属性。砂投げと変わらない魔法。地味で地道な成長。
でも――生きている。レベルも上がった。強くなっている。
「この調子で頑張るキュ……」
聡美は森の出口へ向かって歩き出した。
背後には、砂に埋もれたゴブリンキングの山が静かにそびえ立っていた。
――この時、聡美はまだ知らない。自分の砂魔法が、やがてこの世界を砂だらけにしてしまうことを。
* * *
【第1話・了】
次回:第2話「はぐれメタルと砂魔道士」
第1話、お読みいただきありがとうございました!
砂魔法……地味ですよね。
でも量が増えればどうなるのか、楽しみにしていてください。
次回は、はぐれメタルとの遭遇です。
物理無効、魔法無効のあの伝説の敵に、砂魔法は通用するのか?
そして砂魔道士聡美、公園の砂場デビュー
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作者が砂のように喜びます!
次回もお楽しみにキュ!




