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第4話:生かしておけないけど、そばにいて

――古びた教会――


「ヒカル、本当にごめんなさい。

 でも、ラァラの秘密を知られた以上……あなたを生かしておけない」


 また変なことを言い出した――。


 一瞬そう思ったが、ラァラはゆっくりと右手を上げた。

 指先に淡い紫色の魔力が集まり始める。


 ――やばい、本気だ!


 反射的に目をつぶった。

 今度こそ完全に終わった――そう覚悟したが、いつまで経っても何も起こらない。


 ――……あれ?


 恐る恐る目を開けると、ラァラは右手を上げたまま硬直していた。

 その瞳には明らかな動揺が浮かび、焦りで微かに震えている。


「あ……えっと……や、やっぱりやーめたっ!」


 テヘッと無理やり笑ってみせるが、完全に引きつっている。


「じょ、冗談だし……!」


「……は?」


 間抜けな声が漏れたが、ラァラの顔は完全に “やらかした” それだった。


 ――さすがに俺でもわかる。


 じじっと見つめると、ラァラは気まずそうに視線を逸らし、小さく口ごもった。


「だ、だって……その、やっぱりヒカルが可哀想かなーって……?」


 いやいや、嘘が下手すぎだろ……。


「……可哀想って、今、俺を本気で殺そうとしてたじゃん」


 内心では冷や汗ダラダラなのに、なぜか無駄に冷静な声が出た。


 ――『情に流されてやめた』なんて思えない。絶対に何か理由がある。


 胸の奥に意識を集中させ、『ハッタリ』の魔法を静かに起動させる。


「……あのさ、ラァラ」


「な、なに?」


 ラァラがビクッと肩を震わせる。


 ――いや、だからこっちの方がビビってるんだって。


 心臓の音を誤魔化しながら、曖昧に言葉を繋ぐ。


「俺、もうだいたい気付いてるんだけどさ」


「え……?」


 実際は何も気づいてない。

 今はただ、『ハッタリ』の魔法に全力で頼るしかない。


 正直、こういう駆け引きはめちゃくちゃ苦手だ。

 でもここでハッキリさせておかないと、また殺されかける事態にもなりかねない――。


「ラァラは『俺を殺さなかった』んじゃなくて、『殺せなかった』んだろ?

 理由もまあ、だいたい察しがついてるっていうか……あー、だからさ、自分からちゃんと説明して謝るんなら、まあ許さないでもないかなーって……」


 なんとも情けない言い回しになってしまったが、

 ラァラは予想外すぎたのか、大きく目を見開いた。


「えっ……ヒカルがなんでそんなこと知ってるの?」


「ほら……、ちゃんと説明して謝るんだろ?」


 ラァラの顔がみるみる赤く染まる。


「本当にごめんなさいっ!

 あ……あのね、実はラァラ……、

 ヒカルがそばにいないと生きていけないっていうか……」


「は……? えっと、どういうこと?」


 ――何そのいきなり重い告白みたいなの!?


 心臓がバクバクと暴れ出すのを、どうにか平静を装って押さえ込む。


「そ、それってさ、具体的にはどういう……」


「だからその、ヒカルがそばにいないと、

 ラァラの中の魔力が暴走して、それで……あれ?」


 ラァラの言葉がピタリと止まる。


「……どうかした?」


「ヒカルって……魔法のこと全然分からないって言ってたよね?」


「まあ、そうだけど……」


「……だったら、魔力の暴走とか、知ってるわけないじゃんっ!」


 次の瞬間、ラァラが目を大きく見開いて勢いよく詰め寄ってくる。


 ――や、やばい。完全にバレた。


「いや、えっと、その、まあ何となく雰囲気で察したっていうか……?」


「……嘘だよね?」


「いやー、まあ……その、嘘っていうか……勘っていうか?

 ……いや、本当にごめん、俺も必死だったからさ……」


 ラァラは頬をぷくーっと膨らませ、

 じーっと不満そうに俺を睨みつける。


「もう、ヒカルの馬鹿っ!」


 そう言い放つと、ラァラは腕を組んでそっぽを向いた。


「ごめんってば……」


 俺は肩を落とし、しょんぼりとうつむく。


 しばらく重苦しい沈黙が流れた後、

 ラァラがため息をつき、小さな声でぽつりと呟いた。


「でも、ラァラも悪かったし……。

 ラァラがヒカルを殺そうとしたのは事実なんだし」


「……え?」


 ――いやいや、ちょっと待てよ。


 あっさり認めたけどさ。

 やっぱり本気で殺そうとはしてたわけだよな。


 ――ってことは、俺はさっき本当に死にかけたんだよな?

   なんで俺、今謝ってんだ……?


 納得がいかず顔を上げると――


 ラァラは、何かを決意したような真剣な表情でじっと俺を見つめていた。


 その目力に、思わず視線を逸らしそうになる。


 ――いやいや……なんでラァラがそんな“覚悟の顔”してるんだよ……。


「ねえ、ヒカル。取引きしない?」


「……取引き?」


 また何か言い出した。


「そう、ラァラの秘密――自分の意志でこっちの世界に来たこと――を絶対に誰にも言わないって約束して欲しいの」


 ……それ、取引きっていうか、ただのお願いじゃないか。


「それと、その……」


 ラァラは急にもじもじと指を絡めながら、小さく視線を落とした。

 さっきまでの強気な態度が嘘のように、頬はみるみる赤く染まっていく。


「うん?」


「ヒカルがそばにいないと生きていけないってことも……」


 最後の方は、ほとんど消え入りそうな声。

 ちらりと上目遣いで覗く瞳は、恥ずかしさに潤んでいるように見えた。


「……誰にも言わないって、ね? いいでしょ?」


 『取引き』と言いつつ、実質お願いを二つ重ねただけだ。


 俺は不満そうな顔をする――が。


 ラァラはそっと一歩近づき、俺のパーカーの裾をぎゅっと握りしめ、俯いた。


 息が止まる。

 その小さな指先が、かすかに震えているのに気づいてしまった。


 ――そんな姿、見せられたら断れるわけないじゃないか……。


「いや、その……まあ、いいけどさ……」


 気まずく頭を掻きながら返事をすると、ラァラはほっと息をつき、

 なぜか次の瞬間、得意げに胸を張った。


「じゃあ、お礼にラァラがヒカルに魔法のことを教えてあげるっ!」


「……え?」


「だってヒカル、こっちに来たばっかりで何も知らないんでしょ?」


 気づけば、ラァラは完全に主導権を握ったつもりになっている。


 ――いや、でも冷静に考えるとラァラは俺を殺せないし、

   俺のそばにいないと生きていけないっていう制約まであるんだよな。


 つまり、取引きなんかしなくても手出しできないわけで……。


「もう……! ヒカルはラァラの言うことだけ聞いてればいいのっ!」


 どう考えても俺のほうが立場上なのに、

 なぜか完全に押し切られている。


 内心で困惑しつつも、なぜか反論する気が起きなかった。


 ――まあ、ラァラの言う通り、魔法のことは何も知らないわけだし、

   教えてくれるならそれはそれで助かるか……。


 自分の甘さにため息をつきつつ、俺は仕方なく頷いた。


「……はいはい、了解」


 ――俺、このままだと一生ラァラに振り回される気がする……。


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