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第14話:柔らかすぎる香りの奥

――シングウ王都軍令府の裏庭――


「俺と取引しないかと思ってな」


 ――よし、当たった……!


 心の中で激しくガッツポーズを決めるが、表情はあくまで冷静なまま。

 もちろん、取引の内容なんて知るはずもない。


「やっぱりそうきたか……」


 とりあえず、もっともらしく返しておく。


 パオタロの顔には戸惑いがはっきり浮かんでいた。

 潜伏を見抜かれただけでなく、話があることまで当てられた。

 さすがのパオタロも、少なからず動揺しているようだ。


 ――もしかして俺……このまま一気に主導権握れたりする……?


「念のため、詳しく聞かせてもらえるか?

 万が一にも齟齬があると困るからな」


 ……いや、マジで説明してくれないと詰むんだけど。





 パオタロが話してくれた内容は、

 正直、聞いてるだけで頭が痛くなるほど複雑だった。


 要するにだ――

 パオタロはかなり前から、ある人物の行動に強い疑念を抱いていて、

 独断で監視を続けていたらしい。


 そして。


 そもそもパオタロとエミリがシシンとともに

 あの教会へ向かうことになったのも、

 その『怪しい人物』の提言がきっかけだった、という。


「あの時、シシン隊長が急いで王都に戻る決断をしてくれたおかげで、

 大男が予告してたテロは防げた。

 もし隊長が戻らなかったら、少なからず被害が出ていたはずだ」


 パオタロは唇をわずかに歪めて続けた。


「つまり、王都でのテロを成功させるために――

 邪魔だった隊長を、わざとあの教会に引きつけようとした可能性がある」


 その言葉に、思わず眉を寄せた。

 あの時の大男の声が、嫌なくらい鮮明に脳裏によみがえった。


『ハハッ、こりゃ傑作だ!

 甲種部隊長のシシン様がこんな辺鄙なところにいるとはなぁ!

 はっ、さぞ王都の警備は手薄なんだろうなぁ!』


 ……確かに、あの驚きようからして、

 シシンがあそこに現れたのは完全に予想外だったんだろう。


 ということは……


 ――シシンさんは特別な事情でもない限り、

   王都から離れるような人物じゃないってことだ。


 そんな人物を、誰かが“わざと”遠ざけた。

 王都の警備を手薄にするために、あんな辺鄙な教会へ誘い込んだ。


 ――つまり……シシンさんを誘導した『怪しい人物』こそが、

   王都テロ計画の重要人物ってわけか。


 ……話が一気に物騒になってきたな。


 その後もパオタロは続けた。


 昨夜、俺たちの部屋にその怪しい人物が接近するのを目撃したという。

 だが、直後に姿を見失ったらしい。


 そして今朝、襲撃の報を聞いて真っ先にその人物のアリバイを確認したが、

 事件の時間帯には“妙な空白”があった、と。


 冷静を装ってはいるが、パオタロの声には焦燥と苛立ちが滲んでいた。


「決定的な証拠が掴めないまま手を打てずにいる。

 だが『転移者様』のお前なら、もしかしたら何とかできるんじゃないのか?

 協力してくれるなら、俺が掴んでいる情報をすべて提供する。

 これはお前自身の安全にも繋がる話だ。悪い条件じゃないだろう?」


 襲撃者の情報に直結する話。

 それなら確かに、こっちにもメリットは大きい。


 それに今は、少しでも味方は多い方がいい。


 ――いや、別に味方である必要はないか。


 ラァラを狙った襲撃者を追い詰めるために、利害が一致する相手。

 それだけで十分だ。


「……いいだろう。その取引、乗ってやるよ」





 こうしてパオタロとの協力関係が成立した。

 もちろん、隠されたものを一定の確率で見抜ける『特殊能力』の件については、

 エミリ同様、口外しないという約束を取り付けさせてもらったけど。


 ――変な噂が広まっても困るし。

   だって本当は、俺にそんな能力なんてないんだから。


 さて、ラァラのことを考えたら、のんびりしてる暇なんてない。

 早速本題に入らせてもらおう。


「パオタロが追ってる人物って、軍令府の人間だよな?」


 その言葉に、パオタロが目を大きく見開いた。

 隣でエミリが小さく息を呑む。


「そんなことまでわかるのか」


「まぁな」


 だって今も、軍令府の中からあの香りが、はっきりと漂っている。


 森の中でラァラを追うように続いていた“あの香り”――

 ラァラの甘い香りとはまるで違う、柔らかく包み込むような穏やかな匂い。


 ――どうせその香りの奥に、何か隠しているものがあるんだろ。


 襲撃者にしては優しすぎるその香りに、

 俺はかえって強烈な違和感を覚えていた。


 必ずその正体を暴いてみせる。


「……ただ、なんとも言えない違和感があるんだよな。

 実際どんな奴なんだ?」


 香りから感じた違和感を、パオタロにぶつけてみた。


「言葉で説明するのは難しいんだが……

 そもそも、『王血部隊』がどういう部隊なのかは知ってるか?」


 パオタロの説明によると、

 『王血部隊』とは、魔女討伐を使命とする特殊精鋭部隊のことで、

 『属性加護が発現しやすい血筋』を持つ王族の血から、

 人工的に生み出された特別な子供たちで構成されているらしい。


 ――……人工的に、か。重い話だな。


「その王血部隊の中でも実際に前線で戦うのが『甲種』って呼ばれるグループだ。

 俺とエミリもそこに所属している」


「その甲種の中でも特に傑出したチームが、『一期生・第一戦闘班』。

 ――通称『イチイセン』だ」


 パオタロの表情が険しくなった。


「俺が追ってるのは、その『イチイセン』の班長――

 王血部隊最強と言われる人物だ」



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