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第1話:不条理な魔法選択

全81話予定。まずは12話まで毎日3話更新します!

楽しんでもらえたら嬉しいです!

「さて、今回はどの新魔法にするか決まったかな?」


 例の男がいつもの淡々とした表情で部屋に戻ってきた。

 その問いかけには、有無を言わせぬ圧力が滲んでいる。


 もう何回目になるのか覚えていないが、とにかく残された選択肢はあと三つ。


・寝つきがよくなる魔法

・綺麗な音で指パッチンできるようになる魔法

・ハッタリが通用し易くなる魔法


「……一応、決めましたけど」


 控えめに不満を込めつつ答えると、男は飄々とした顔で返した。


「安心したまえ。“魔女の嫉妬”なんて、そう簡単には発生しないからね」


 まるで他人事のような口ぶりだった。

 しかし――“魔女の嫉妬”が発動すれば、自分は死ぬ。

 それ以前に、魔法を試さなければこの男に殺されるという。


 選択肢があるように見えて、その実、「死ぬかもしれないか、確実に死ぬか」の二択にすぎない。


 せめて命を懸けるなら、もう少しマシな魔法を用意してほしかったとは思うが、これまで試した魔法の中にあった『笑いのツボが浅くなる魔法』のせいだろうか、無性に笑いがこみ上げそうになる。


 ちらりと選択肢の一つに目をやりながら、つい笑い混じりに尋ねてしまった。


「それにしても、この『綺麗な音で指パッチンできるようになる魔法』って、本当に必要なんですか?」


「え? だってかっこいいだろ? 私は指パッチンが苦手でね」


 男のさらりとした返答に、思わず虚空を見つめた。


 あまりに不条理だ。――だけど、指パッチンのために命を懸けるって……ぷっ、ダメだ、笑いそう。


 ほんのさっきまでは普通の学生だった。

 それが今では、こんな理不尽なルールのもとで、命を懸けて魔法を選ばされている。


 だけど、今は少しでも生き延びるのに役立ちそうな魔法を選んでいくしかない。


「で、どれに決めたのかな?」


 覚悟を決め、深く息を吸い込んだ。


「『ハッタリが通用し易くなる魔法』でお願いします」


「いいね、じゃあ早速やってみようか。これまでみたいに、そこに書いてある通りにやれば発動するからさ」


 指示通りに手順を確認し、震える指で魔力を込める。この一瞬に自分の命が懸かっている。心臓が耳元で激しく鼓動し、指先に微かな痺れを感じた――その瞬間だった。


 黒い霧が勢いよく渦巻き、肌にまとわりつくような湿った空気が広がった。

 そして気づけば、目の前に一人の少女が立っていた。


 黒を基調に、白と紫のアクセントが入った特徴的な髪型。

 衣装も同じ配色で整えられ、腕には黒猫が抱かれている。


 ――え、これが“魔女の嫉妬”? 今から俺は殺されるのか!?


 全身に冷たい汗が滲む中、少女が不敵な笑みを浮かべ、まっすぐに駆け寄ってきた。


 ――終わった……!


 死を覚悟したその瞬間。

 少女の小柄な身体が勢いよく飛び込んできて、衝撃でよろめいた。

 同時に、柔らかな感触と甘い香りが鼻先をかすめる。


 気づけば少女に強く抱きしめられていた。

 視線を下げると、少女が飛び込んでくる際に無造作に投げ捨てられた黒猫が、不満げに鳴き声をあげながら床に着地していた。


「ジュリジュリ~! もう会いたかったんだからぁ……!!」


 ――殺されない……のか?


 まさかの抱擁に頭が真っ白になる。

 死ぬ覚悟まで決めていたのに、この肩透かし感はなんだ?

 いや、そもそも『ジュリジュリ』って誰だよ。


 ……笑っちゃうだろ。


 ――俺の名前は一条光流いちじょう ひかるなんですけど!?


 なんでこんなことになったんだ。

 俺は混乱した頭で、こうなるまでの出来事を思い返した――。





 テスト前の一夜漬け。徹夜明けだった。

 なんとかテストを乗り切って寮に戻ると、飯も食わずにベッドに倒れ込んで……気づいたときには、知らない場所にいた。


 そこはどこかの研究室のような場所だった。

 石造りの壁には無数の魔法陣、棚には液体の詰まった瓶や不気味な器官標本、吊るされた鎖と血のにじんだ古布。なぜか場違いな女性用の衣装もある。

 空気は重く、冷たい。


 《転移者、確認。自動同化魔法を展開》


 空気が震えたかと思うと、目の前に光の紋章が浮かび上がった。そして次の瞬間、頭の中に一気に情報が流れ込んできた。この世界の言語がまるで夢の中で勉強したみたいに「知っていたこと」になっていた。そして“適合”が完了したとき、軽快な足取りで入ってきたのが、あの男だった。


 白衣を身にまとった男。細い銀縁の眼鏡の奥の瞳は、鋭く冷静に光っている。髪は軽く乱れており、どこか無造作で神経質そうな印象を与えた。


「ち、今回は男か。まぁいい、意識が戻ったようだな。おめでとう、無事“転移”は成功したよ」


 それが、すべての始まりだった。

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