第31話 相棒
巡回ルートの終盤、ラドリーとソラは商業区の裏通りへと足を踏み入れていた。
夕暮れが近づく時間帯、大通りの喧騒は少しずつ静まり、代わりに路地裏に広がるのは、どこか懐かしい匂いと、ゆるやかな時間の流れ。
石畳の歩道には細かいヒビが入り、その隙間からは、どこからか種が飛んできたのか、小さな草が顔をのぞかせている。
古びた商店が軒を連ねるこのエリアには、今も昔ながらの人付き合いが息づいていた。色あせた暖簾が、小さな店先でゆらゆらと風に揺れている。
「ここ、なんかいい匂いする〜!」
ソラがくんくんと鼻を鳴らしながら、小さな身体をくるっと回転させる。
続いてふらふらと匂いのもとをたどるように歩き出すと、立ち止まったのは、ひときわ年季の入った小さな揚げ物屋の前だった。
ガラスのショーケースには、ほかほかと湯気を立てるコロッケが並んでいて、香ばしい油の香りが通りに漂っている。
「こんにちは! おばちゃん、いい匂いだね! これってコロッケ? おいしいの?」
ショーケースの奥で、揚げたてのコロッケを丁寧にトングで並べていた小柄なおばちゃんが顔を上げる。
頬には深い笑いじわが刻まれている。
「あらまぁ、猫ちゃんロボ? 真っ白で綺麗な毛並みだねぇ。まるでぬいぐるみみたいだよ。コロッケ、食べられるの?」
「ボク、コロッケ大好きっ!」
ソラは前足をぴょいっと上げて、バンザイのポーズ。
胸を張って元気に言うと、おばちゃんは「あはは!」と声を上げて笑った。
「うちのコロッケは宇宙一美味しいよ。ちゃんと愛情入りだからね」
「宇宙いちっ!?」
通りすがりの子どもたちが「猫がしゃべってるー!」と驚きの声をあげ、少し人だかりができる。
そんな中でもソラは堂々と胸を張って、「ボク、パトロール中なんだよー!」とアピールしていた。
ラドリーは少し離れたところでその様子を見ていたが、ふとおばちゃんと目が合った。
「……あんたも、笑っていいんだよ。いい相棒もらったじゃないか」
その言葉に、ラドリーは小さく肩をすくめて苦笑する。
でも、その目元はどこかやわらかく緩んでいた。
「ラドリー! 宇宙の調査もしないと!」
「そんな項目はねぇよ」
そんな軽口を交わしつつ、ふたりはしばしの休憩をとることに。
おばちゃんの勧めで、コロッケをひとつずつ買って近くのベンチに腰掛けた。
ラドリーはメンチカツ、ソラは迷った末に、ぷりぷりのカニクリームコロッケを選んだ。
「……うんまいな……」
「うんまいね、ラドリー!」
ソラは口元にソースをつけながら、嬉しそうにしっぽをくるくると揺らす。
ラドリーも思わず、「たしかに、宇宙一かもな」とつぶやいた。




