表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫、猫、猫!──機械の猫に心を与えるのは罪ですか?  作者: 綾白
第6章 ソラvsたい焼きモンスター

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/40

第28話 「昇進だな」

 翌日、夕方。

 明るい西陽が部屋に差し込み、窓辺のカーテンが心地よいそよ風に揺れている。

 テーブルの上には、数枚の紙が広げられていた。


 その中にある一枚のコピー。

 それは、昨日の騒動——ネジ飛ばしドローンとの攻防と、看板修理活動をまとめた報告書だった。


 だが、ただの報告書ではない。

 ページの端には、手描きのたい焼きと看板のイラストが添えられていた。

 そして報告の一部は、どこか日記のような温もりを帯びていた。


「ぷっ……ははっ、おまえなぁ。これ読んだか?」


 ソファに深く腰掛けたマイロが、報告書の一枚を片手に、笑いを堪えきれずに身をよじった。


「猫型支援機ユニット、通称ソラ。看板修理中に舌を出して集中する様子が確認されたって……誰がそんなことまで書いたんだよ」


 ラドリーはカップからひと口コーヒーを飲みながら、ため息交じりに口角を上げた。


「……ソラ本人だ。あいつ、報告書にイラストまで描いてたしな」


「たい焼きへの忠誠心が高いって、評価欄にしっかり書かれてるぞ。これ、公的記録に残るやつだぞ? 市警の資料庫にソラのたい焼き忠誠心、残るからな。未来の研究者が泣いて喜ぶぞ」


 笑いながらそう言うマイロの視線の先では、ソラがラグの上に座り、しっぽをぱたぱたと揺らしていた。

 足先をちょこんと揃えて、照れくさそうに目を細めながらも、口元には笑みが浮かんでいる。


「えへへ……だってボク、たい焼きが好きだってこと、ちゃんと伝えたかったんだもん。それって、すごく重要でしょ?」


 その真剣さが、可笑しくも愛らしかった。

 ラドリーはわずかに肩をすくめると、手元のコーヒーカップをテーブルに置いた。


「まあ……結果的にはドローンの誤作動も止まったし、街の被害も抑えられた。たい焼き屋のおばちゃんにも感謝されたしな」


「ああ、結果オーライだな。あの看板、けっこう気に入ってたらしいぞ」


 マイロは一瞬、表情を引き締めたかと思うと、すぐにまたニヤニヤとした笑顔に戻った。

 報告書の最後の欄を指先で軽く叩く。


「それにな。これ、どこから流れたかわからんが——上層部の一人が読んで、わざわざコメント寄越してきたらしいぞ」


 その欄には、丁寧な書体でこう記されていた。


《ユニット、ソラの状況判断および民間支援行動は高く評価される。同行者ラドリーの指導下での柔軟な判断力も併記して報告。——都市警備管理課》


 ラドリーはその文章を読み終えると、ふっと鼻で笑った。


「指導下って……あいつの、やりたいようにやらせただけだぞ。指示なんて、ほとんどしてねぇ」


 その呟きに、マイロがグラスを傾けながらニヤリとする。

 氷がカラン、と軽やかな音を立てた。


「昇進だな。いや、なんなら特別民間協力員の推奨リストに名前が載るかもって噂も聞いたぞ? 子猫連れの冷静系って紹介されるかもな」


「……やめろ。気持ち悪ぃ」


「おっ? 今、ちょっと照れたな?」


 マイロがぐいっとラドリーを指差すと、ソラがぱっと顔を上げて目をキラキラと輝かせた。


「えっ、ボクたち、えらいの? えらいの? ねえねえ、昇進ってことは……たい焼き、増量!?」


 ラドリーは目を伏せ、こめかみを指で押さえるようにして、小さくうなった。


「……そんな制度はない」


「えぇぇ!? じゃあ! たい焼きひとつ!」


「…………あとでな」


 その言葉に、ソラの顔がぱぁっと明るくなった。

 ほっぺたを真ん丸にして、満面の笑顔で跳ねるように両手を上げる。


「やった——!! ボク、たい焼き隊長に昇進——!!」


 その宣言に、マイロが盛大に吹き出した。


「なんだよそれ! たい焼き隊長ってなんだよ!」


 笑いながら彼はグラスをテーブルに置き、肩を揺らして笑い続けた。


「じゃあ俺は……何隊長にすりゃいいんだ?」


「うーん……おさけ隊長?」


「……それ、ちょっと否定できねぇな……」


 マイロは頬をかきながら、少し苦笑するように呟いた。


 ラドリーは、黙って報告書を折りたたんだ。

 その手つきは、どこか丁寧で、少し名残惜しげだった。


 外では鳥の影が空を横切り、部屋の中には、ソラの明るい声とマイロの笑い声がこだましていた。

 ラドリーは静かにそれを聞きながら、ソファの背もたれにゆっくりと体を預ける。

 テーブルの上の報告書からソラへ、そして窓の外、まだ明るい陽の光が照らす空へと視線を移した。


 胸の奥に、じんわりと染み込むような温もりがあった。

 それは、ただの報告書一枚では測れない、かけがえのない時間の記録だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ