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猫、猫、猫!──機械の猫に心を与えるのは罪ですか?  作者: 綾白
第6章 ソラvsたい焼きモンスター

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第27話 たい焼き屋の謎

 鳥型モンスター(仮)をなんとか追い払ったあと、いつもの商店街にはようやく静けさが戻っていた。

 空には薄雲が流れ、陽の光がたい焼き屋の脇の古びた看板をやわらかく照らしていた。


 店先にちょこんと座ったソラは、たい焼きを食べながら考え込んでいた。

 しっぽをくるりと巻き、真上をじっと見上げる。


「ラドリー……やっぱりおかしいよ」


 小さな声でぽつりとつぶやくソラに、ラドリーはたい焼きを紙袋から取り出しながら視線を向けた。


「ん? 何がだ?」


「さっきの鳥……ボクたちに襲いかかるっていうより、ここ、にだけ反応してる気がするんだよね」


 ソラは前足で、柱の上の看板を指し示す。


「ここって……たい焼き屋か?」


「うん。絶対そう。飛んでくる時、いつもこの看板の真上にピタッて止まってた。まるで……帰ってくるみたいに」


 ソラの瞳が細くなり、耳が探るようにぴくりと動いた。

 しっぽが、ぴんと真っ直ぐに立つ。


「これね、旧型の……電磁誘導式表示パネルだと思う。周囲に微弱な信号を送って、視覚だけじゃなくて、特定のAIに存在を知らせる仕組みのやつ。つまり……『ここだよ』って言ってる看板なんだよ」


「なるほどな。で、その仕組みがまだ生きてるってことか?」


 ラドリーが手を額にかざして看板を見上げる。

 パネルの端には、わずかに焦げたような黒いシミがあり、微かに「ジジジ……」という音が聞こえる。


「うん、たぶん。でももう壊れかけてて、変な波が出ちゃってるのかも。だからドローンが正しく反応できなくて混乱してるのかも」


 そのとき、たい焼きを半分食べ終えたマイロが、口をもぐもぐさせながら首を傾げた。


「それって要するに——」


 ソラがくるりと振り返り、前足をぽんと地面に置く。


「そう。あの鳥型ドローンは、ここを旧世界のドック(巣)だと誤認してるのかも!」


 風が通り抜け、たい焼きの香ばしい匂いがふわりと流れる。

 マイロが思わず眉を上げる。


「……餌場だと思ってんのか?」


「うん、たぶん。しかも、たい焼きの匂いも強いし。そりゃ来ちゃうよね、あの子」


「はは、そりゃそうだわ。たい焼きは……うめぇもんな」


 ラドリーが鼻で笑い、小さくため息をついた。

 そして再び看板を仰ぎ見る。

 そこには長年の風雨に晒されたパネルが、まだうっすらと光っていた。


「……どうすんだよ。これ、何十年もこの店の顔なんだろ?」


 そのとき店先でたい焼きを丁寧に焼きながら黙って話を聞いていたおばちゃんが、手拭いで顔を拭きながら割って入った。


「電磁? なにそれ? この看板はね、うちのじいちゃんの代からあんのよ。時々バチッって音がするけど、まだ光るから使ってんの。壊れてるかもしれないけど、ほら、動いてるうちはねぇ……」


 おばちゃんは看板に目をやると、目を細めて微笑んだ。

 ソラは小さく肩をすくめて、申し訳なさそうに視線を落とす。


「……ボク直せるかもしれない。ううん、ちょっとだけ直すようにできる。完全にじゃなくて、ドローンが反応しないように波を抑えるだけなら」


 ラドリーが意外そうな表情をした後、ソラと目をしっかり合わせて確認する。


「出来るのか?」


「やってみる。だって……あの子も怒ってたわけじゃない。ボクたちと、たい焼きのためにも少しだけ頑張るねっ!」


 マイロが腕を組んで頷く。


「よしやれ、隊長。信じてるぜ」


 ラドリーとマイロとおばちゃんが見守る中、ソラはひとつ深呼吸すると跳ねるように看板の柱をよじ登っていった。


 前足でフレームを掴み、伸ばした爪を液体金属のようにツールに変形させた。

 カチ、カチッ……細かな音とともに古びたパネルの裏面のカバーを開く。

 しっぽのセンサーを使って内部の状態を丁寧に調べたあと、古びたパネルの配線を慎重にいじっていく。


「うわ……配線、錆びてる。でも、エミッターはまだ動いてる……。ここをこうして、信号出力を制御……波を抑えて……んっ……できた!」


 数秒後——それまで続いていた「バチッ、ジジ……」という音が、ふっと消えた。

 まるで、空気そのものが静かになったようだった。


「……これで、もう来ない……かも」


 ソラが降りてくると、ラドリーが軽くその頭をポンと撫でた。


「よくやったな、隊長」


「えへへっ、ボク、隊長だからね!」


 マイロがたい焼きの最後の一口をゆっくり噛みしめながら、どこか感心したように、ぽつりと呟いた。


「おまえさ……ほんとに、空っぽなのか?」


 ソラは一瞬、考えるように空を見上げた。

 雲の間から差す光の向こう、どこまでも続く青を見つめるように。

 そして——にっこり笑った。


「うん。『空っぽのソラ』だよ。でもね……最近、楽しいことがいっぱい詰まってきた気がするんだ。たい焼きとか、ラドリーとか、マイロとか!」


 ラドリーが横目でマイロを見て、ぼそっと呟く。


「調子いいだろ、こいつ」


 マイロは小さく笑いながら、ラドリーの背中を軽く叩いた。


「それがいいんだろ、相棒?」


 ソラは誇らしげに胸を張った。

 胸の真ん中、空色のベストの小さなボタンが、陽の光を反射して勲章のようにキラリと光っていた。

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