第26話 たい焼きを守れ!
たい焼き屋の裏手に広がる、古びた石畳の路地裏。
建物の隙間を通り抜けた一陣の風が、ひらりとソラのベストの裾を揺らした。
ラドリーは背後の壁にもたれて、眉間を揉みながら静かに空を見上げる。
一方その足元では、ソラが拾ったネジをじっと見つめていた。
金属片に反射する微かな光が、彼の瞳に映り込む。
「……あの子、くちばしの先が工具みたいになってたから……やっぱり旧世界の修理鳥型だと思う。でも、なんでネジを投げてきたのかな……?」
くるりと指先でネジを回しながら、ソラは小さく首をかしげる。
「もしかして、攻撃じゃなくて警告だったのかも……。『近づくな』って。そう言ってた……のかも……」
ラドリーはその言葉に短く息をつき、目を細めた。
「いや、明らかに攻撃だったぞ。狙いが甘いとはいえ、あれ、頭に向かって飛ばしてたしな。……角度が違えば、額に刺さってたかもしれん」
「うぅ……それはこわい……」
ソラは身震いするように蹲り、しっぽを前にぎゅっと抱え込んだ。
そのとき——
「よっ、おふたりさーん。こんな真っ昼間っから恋人ごっこかぁ?」
後ろから陽気でちょっと軽い、しかし聞き慣れた声が響いた。
振り返れば、たい焼き屋の角からマイロが手をひらひら振りながら姿を現した。
「……誰がだ」
ラドリーが即座にツッコミを入れるより早く、ソラの顔がぱっと明るくなった。
「マイロっ!」
ぴょんっと跳ねるように立ち上がると、ソラはぱたぱたと走り寄り、しっぽをふわふわと振りながら、空色のベストを見せつけるようにぴょこんと立ち上がった。
「見て見て! これ、ラドリーが買ってくれたのっ! たい焼き防衛隊の警備ベストなんだよ! 今日からボク、本格的に警備活動開始なのっ!」
「おぉ〜!? めっちゃ似合ってんじゃんか! なんかこう……隊長っぽいぞ、隊長!」
「たいちょー!? わーっ、それ、かっこいいっ!」
ソラはくるくるとその場で回りながら、しっぽを立てて得意げな笑顔を見せた。
ベストの銀色のボタンが、日差しにきらりと光る。
「……隊長って、誰の?」
ラドリーがぼそりと聞くと、マイロはニカッと笑って答えた。
「そりゃ決まってんだろ。ソラがたい焼き防衛隊の隊長で、ラドは副隊長だな!」
「断る。……てか、たい焼き屋にそんな役職必要ねぇだろ」
「夢がないねぇ、ラドリーはよ〜。子ども心ってもんがない」
そう冗談めかして笑ったマイロが、ふと辺りを見回す。
「で、何してんの? 昼間っからこんな裏路地で。たい焼き屋なら、もう開店してるだろ?」
ラドリーが何か言いかけたその瞬間——また、あの甲高い電子音が空を切り裂くように響いた。
「出たっ! あの子だっ!」
ソラが空を指さして叫ぶ。
視線の先に、陽の光を反射して青く光る金属の鳥型ドローンが現れた。
ばさばさと羽ばたくようにホバリングしながら、嘴には小さなネジをつまんでいる。
「おぉ、なんだアレ? 新手のモンスターか……って、うおっ、こっち来たぞ!?」
次の瞬間「ピン!」と金属音を立てて放たれたネジが——見事にマイロの額に命中した。
「いってぇえぇ!? マジで当ててきやがった!? くっそ、何が楽しいんだよコイツー!!」
マイロは目をしばたたかせながら、ふらふらとよろめき、額を押さえてうずくまった。
「マイロ!? ダメージ確認しますっ!」
すかさずソラが駆け寄り、真剣な顔で彼の顔を覗き込む。
「目が回ってませんかっ? 手が震えてませんかっ? あと、たい焼きの匂いは感じますかっ?」
「最後の何!?」
マイロはむせるように笑いながら叫んだが、ソラは真剣なままうんうんと頷いた。
「よし、反応オッケー! たい焼き防衛隊、出動だねっ!」
「おい勝手に出動するな……!」
ラドリーが頭を抱える横で、マイロはにやりと笑い、ポケットからスマホを取り出した。
「よっしゃ。じゃあ俺は、たい焼き防衛隊・特別機動班に配属ってことで! 任務は……モンスターの動きを撮影して、SNSでバズらせること!」
「マイロ! それは作戦機密の漏洩になるからダメっ!」
「だよなー! ははっ!」
爆笑しながら動画を撮影しようと構えるマイロ。
一方、ラドリーはこめかみを押さえ、少し諦めた目で空を睨んだ。
「……この状況、誰が収拾つけるんだよ……」
頭上では、再び旋回するドローンが、嘴を開いて新たなネジを咥えようとしていた。
今日もまた、たい焼きをめぐる静かなる攻防が始まろうとしていた——




