第25話 たい焼き防衛隊
午前中の街路は、日差しがやさしく石畳を照らし、心地よい風が店先の旗を揺らしていた。
通りのあちこちからは焼きたてパンやコーヒーの香ばしい匂いが漂い、商店街を歩く人々も、どこかのんびりとした様子で朝のひと時を楽しんでいる。
そんな穏やかな風景の中、たい焼き屋の角を曲がってきたのは——いつものペースで歩くラドリーと、そのすぐ隣でちょこちょこと軽快な足取りを刻む小さな影。空色のベストに身を包んだソラだった。
「見て見てラドリー! ボク、今日も警備モード発動中だよ!」
ソラは得意げに胸を張ると、ピンと立ったしっぽの先を左右に揺らし、ぴょこぴょこと跳ねるように歩く。
「しっぽのアンテナも、ピ——ンってしてるの! ほら、今ならネジ一本落ちたって気づけるよ!」
ラドリーはちらりと横目で彼を見下ろす。
「……警備モードってのは、そんな外見的な話なのか?」
「かたちから入るのが基本でしょ! 目と耳としっぽと、そしてお腹をフル稼働させて、たい焼きの安全を守るんだ!」
「……最後に、どうでもよさそうな感覚器が混ざってるな」
ラドリーが半ば呆れたように言うと、ソラはくすっと笑って力強く答えた。
「お腹の報知器は、未来を予知するセンサーなんだよ!」
「そりゃ、ただの腹減りだろう」
そんな軽口を交わしながら、ふたりは街路を歩いていく。
太陽は高く昇り始め、家々の屋根に影を落としながら、穏やかな光で街を包み込んでいた。
——しかし、その空気を裂くように、突然「ピピッ!」と甲高い電子音が空から響く。
次の瞬間、ラドリーの頭部をかすめて「カラン」と何かが地面に転がる音がした。
「……っ!?」
機敏に身をかわして直撃を免れたラドリーが、鋭く目を細める。
ソラもびっくりして、思わず空を仰いだ。
「えっ!? 今の音って……何か落ちてきた!?」
ふたりが視線を走らせると、地面には細長いネジのような金属片が落ちていた。
くるくると回転しながら、ようやく止まる。
「ラドリー! 上だよっ!」
ソラが警報のように声を上げた瞬間——空からヒュルルッと、小さな影が降下してきた。
カッカッと鋭い金属音を立てながら四本の脚を開き、空中でホバリングするその姿は……まるで鳥のような機械だった。
細身の機体。
光沢のある黄色い金属の翼。
赤いセンサーアイ。
その嘴がパカッと開き——「ピン!」っと、またしてもネジのような物体を発射する。
「うわっ、またネジ飛ばしてきたっ!」
ソラは思わずラドリーの後ろに飛び込むように隠れ、しっぽをぶわっと膨らませる。
機械鳥は旋回しながらキィィという音を立て、まるで監視するようにふたりの周囲をぐるりと回った。
「……モンスターか? いや、あれは……旧式のメンテナンスバードかもしれねぇな。作業用ドローンを誰かが改造したか、制御が外れて野良化したか……」
ラドリーが静かに言いながら、腰のナイフを抜いて構える。
ソラはその背にぴたっと貼りついたまま、こくこくと頷いた。
「でも、なんでネジなんて投げてくるの!? しかも、けっこう痛そうな勢いだったよ!」
赤いセンサーアイがまたぎょろりと動き、嘴が再び開こうとする。
が、それを見たラドリーが片眉を上げ、鋭く睨みつけた。
「こいつ……狙いが甘い。攻撃パターンも単純だ。元のプログラムに異常が出てる可能性が高いな。だが……」
「たい焼き屋の方に行っちゃったら大変だよね!」
「……ああ。何より、被害が出る前に片付けた方がいい」
ソラはきりっと顔を引き締め、くるりとラドリーの前に飛び出した。
「ボク、出動するよっ! たい焼き防衛隊・ソラ! 行きますっ!」
そう言いながらソラは二足で立ち上がり、空色のベストを軽くはためかせる。
さらに前足を胸の前で交差して、かっこよく決めポーズを取った。
しかしその直後、機械鳥がひときわ高く旋回音を鳴らし、建物の影にすうっと身を隠すように飛び去った。
「くそ、逃げやがったか……」
ラドリーが舌打ちをし、すぐに追跡の姿勢に入る。
ソラもそれに続くように、ぱたぱたと足音を響かせた。
「今日も、平和とは程遠いな」
「でも、ちょっとワクワクするね!」
「はっ……まあ、お前と歩いてる時点で、今さらか」
冗談のような、本気のようなラドリーの一言に、ソラはふふっと笑ってしっぽを揺らした。
明るい朝の光の中、ふたつの影はドローンを追って細い路地の奥へと軽やかに消えていった——




