第24話 夜間巡回記録報告書
朝の光が、そっとカーテンの隙間から差し込んでいた。
やわらかな金色の陽が部屋の床に斜めの線を描き、ゆっくりと空気を温めていく。
まだ涼しさを残した朝の空気が、わずかに揺れたカーテンを通って優しく流れ込んでいた。
「……ん……」
布団の中でごそごそと動いた影——ラドリーが、眠たげに目を開けた。
乱れた髪の毛をかき上げながら上半身を起こすと、視界の先——ローテーブルの上に、何やらきっちりと整えられた紙が置かれているのに気がついた。
「……なんだ、これ……?」
まるで役所から届いた申請用紙のように、角がピシリとそろっている。
いつもの「チラシの裏」ではない。
紙質も妙にちゃんとしている。
眠気混じりに紙を手に取り目をこすりながら読んだラドリーは、すぐに眉をひくつかせた。
《夜間巡回記録報告書》
報告者:猫型自動人形ユニット・ソラ
記録対象:2025年6月8日 午前1時24分頃の不審影について
内容:たい焼きモンスターと類似した影を視認。鳴き声「ニャー」により猫と特定。
対応:巡回・監視(ラドリー氏と共に現場確認)。危険性なしと判断。
感想:たい焼きモンスターではなかったけど、ドキドキして楽しかった。
備考:ボク、警備ロボとしての適性があるかもしれません。
ラドリーは手にした紙をじっと見つめてから、ゆっくりとソファの背にもたれた。
「……何やってんだ、アイツは……」
脱力気味に息を吐いたその時だった。
部屋の奥、風呂場の方から軽やかな歌声がふわふわと流れてきた。
「〜たい焼きモンスター♪ 夜に出る〜♪ ダンクで撃退♪ ラドリーと一緒〜♪」
リズムは適当。
メロディもどこか不安定。
だけどやたら楽しそうだった。
バスルームのドアが開き、ソラが現れた。
ふわふわの尻尾を楽しげに振りながら、拭いたばかりの毛並みはつやつやと光っている。
顔はにこにこ、上機嫌そのものだ。
「おはよー! ラドリー、報告書見た?」
「見た……いや、読んだ。なんでこんな、きっちり書いてんだよ……誰に出すつもりだったんだ?」
「えっ、もちろんマイロに! ボク、警備にスカウトされちゃうかも!」
ソラは胸を張って答えた。
しっぽは「どやっ」と言わんばかりに高く上がっている。
「……やめとけ。ソラが毎晩たい焼きの警備してるなんて報告書が来たら……マイロのやつ、きっと腹かかえて笑い死ぬぞ」
「えぇ〜でもボク、やる気まんまんなのに……。適性あると思う。『夜間対応型・特別巡回ユニット・ソラ改』とか、かっこよくない?」
「警備は、かっこよさでするもんじゃねぇよ」
ラドリーが頭を抱えると、ソラはちょっとしょんぼりして耳をしゅんと伏せた。
けれどそれも束の間。
すぐにけろっと表情を明るくして、ふたたびしっぽを動かしながら声を上げた。
「じゃあ今日は、昼のたい焼きパトロールに出発しよう! 昼の警備も大事だよね! ベストもあるし完璧だよ!」
そう言って、タタタッと小走りでクローゼットに向かう。
中から丁寧に畳んで保管されていた空色のベストを、宝物でも扱うように取り出した。
「……ほんとにやる気だな……」
ラドリーは思わず苦笑して、仕方ないと大きく伸びをした。
肩から背中までを伸ばして、こきこきと音を鳴らすと、心なしか眠気も吹き飛んだ。
今日も——きっと、にぎやかな一日になる。
この猫型の警備員がいる限り、退屈する暇はなさそうだ。
「……じゃあ俺は、たい焼き係ってことでいいか」
「うんっ! 警備には補給が不可欠だからね!」
「食いしん坊なだけだろ……」
「えへへー♪」
笑い声が朝の部屋に軽やかに広がった。
窓の外では、鳥たちが朝の歌を歌い始めている。
ソラの今日の「たい焼きパトロール」が、始まろうとしていた。




