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猫、猫、猫!──機械の猫に心を与えるのは罪ですか?  作者: 綾白
第6章 ソラvsたい焼きモンスター

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第21話 たい焼きモンスターの伝説

 朝の日差しがやわらかく降り注ぐ商店街。

 ぽかぽかとした陽気のなか、たい焼き屋「はねつき堂」からは焼きたての甘く香ばしい匂いが通りに広がっていた。

 通りがかった人たちは、ガラス越しに焼けるたい焼きを見て、吸い寄せられるように足を止める。


「はいよ、お待たせ。羽根つき二枚ねぇ」


 店のおばちゃんが金属トングで器用にたい焼きを紙袋に詰め、ラドリーに手渡す。

 ラドリーはそれを受け取り、代金をぽんと置いた。


 そのすぐ横では、ソラが目を輝かせながら店のおばちゃんとすっかり打ち解けて話し込んでいた。


「へぇ〜、このたい焼きって旧世界のたい焼き機で作ってるんだ!」


「そうそう。なかなか頑丈なもんでねぇ。……でもねぇ、もう部品が手に入らなくってさ」


 おばちゃんは手拭いで汗をぬぐいながら、少し寂しそうに笑った。


「それって、すごく貴重なんだねぇ……!」


「そりゃそうよ。今の型じゃ、羽根がこう……カリッときれいに広がらないのよ」


 「カリッ」という擬音に合わせて、ソラのしっぽがふわっと揺れる。


「でもね……あんまり羽根を広げすぎると、モンスターが来るって昔は言われてたのよ?」


「モンスター!?」


 ソラの瞳がまんまるになり、きらりと光を反射した。

 興味を引かれたというより、好奇心という名のロケットが今にも打ち上がりそうな勢いだ。


「たい焼きのモンスター。昔この辺りでね、有名だったのよ。羽根がやたら立派に焼けた夜には、それを狙って旧世界の警備機械がぬぅっと現れるって」


「……ぬぅって?」


「そう、音もなく忍び寄ってくるの。でっかい魚みたいな形してて、赤く光る目で……」


 おばちゃんは両手を広げながら大げさに言葉を重ねる。

 ソラは、ごくりと喉を鳴らした。


「なんで、たい焼きを狙うの?」


「さぁねぇ……熱源と甘味成分に反応するセンサーが残ってるとかなんとか。大量に焼いた日は屋台の裏にすーっと近づいてきて、誰にも気づかれずに、ぜ〜んぶたい焼きを持ってっちゃうらしいよ」


「うわあ……まるで、おとぎ話だぁ……」


「でもね、本当にあったって言い張る人もいたのよ。夜中、たい焼きの甘い匂いに引き寄せられて、金属の足音がカツン、カツンって近づいてくるってね」


「それで……それに出会っちゃったら、どうなるの……?」


 ソラは、ひしっとラドリーの足にしがみつきながら尋ねた。

 少し緊張しているようにも、わくわくしているようにも見える。


「たい焼きを差し出せば助かるって噂だったよ。でもね、羽根がないと怒るんだってさ。羽根つきじゃないとダメ。……やたらとグルメな機械だったのかもねぇ」


「グルメモンスター……それ、なんか響きが強い……!」


 横でラドリーが眉をひくりと上げ、ふんと小さく鼻を鳴らした。


「くだらねぇ。そんな旧式の警備機械、もし残ってたら、とうの昔にスクラップになってる」


「夢がないなぁ、ラドリーは〜」


「現実的なだけだ」


 ソラは、おばちゃんに身を乗り出すようにして言った。


「おばちゃん、続きある? モンスターがたい焼きを食べるとどうなるの?」


「続きはねぇ、各自の想像力次第。ほら、たい焼き冷めないうちに食べな」


 おばちゃんは、くしゃっと目を細めて笑い、手を軽く振った。


 ソラはぺこりと頭を下げると、たい焼きを胸に抱えるようにして、ぴょこぴょこと歩き出した。

 空色のベストの裾がふわりと揺れ、しっぽがご機嫌そうにふわふわと左右に揺れている。


「ねぇ、ラドリー。たい焼きモンスターって、もし本当にいたら、どんな見た目だと思う?」


「さあな。……ヒレが羽根みたいになってて、あんこをまき散らしながら空飛ぶんじゃねぇの」


「わぁ、最悪〜! でも、ちょっと可愛いかも……」


「どうせ、今夜あたり夢で追いかけられるぞ」


「そしたら、たい焼きダンクで歓迎してみる!」


「それで退散するようなら、そいつもだいぶ平和ボケしてるな」


 ソラは立ち止まり、空を見上げた。

 雲ひとつない空に、朝の光がまだ残っている。


「……羽根つきのたい焼きが好きなモンスター……ほんとにいたら、ちょっと会ってみたいかも」


「お前な、次の遺跡でうっかり出会っても知らねぇぞ」


「そしたら、ラドリーが守ってくれるんでしょ?」


「はいはい……」


 ラドリーは肩をすくめる。

 ソラは笑い、たい焼きの袋をぎゅっと胸に抱え直した。


 風が通り、羽根つきの香ばしい香りがふわりと街角に漂う。

 ——たい焼きモンスターなんて、きっとただのおとぎ話。

 けれど、おかしくて、ちょっと甘いその伝説は、今日も誰かの心をくすぐっていた。

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