第2話 廃墟のスナイパー
灰色の風が、崩れかけた廃墟の谷間を吹き抜けていく。
その風を裂いて、黒鉄のボディを低く伏せるようにして一台のバイクが走っていた。
唸るようなエンジン音と、タイヤが巻き上げる砂塵の音だけを荒地に響かせながら。
ハンドルを握るのは、ハンターの青年——ラドリー。
淡々とした表情の奥に、周囲を見逃さない鋭さが宿っている。
センサーデバイスが、空からの微かな振動を検知した。
顔を上げたラドリーの視線の先に、モンスターの機影が映る。
飛行形態の機械獣——サメシャーク。
鋭く湾曲したメタリックブルーの翼が陽光を反射し、まるで海を泳ぐように大空を悠々と進んでいた。
優美と傲然。
しかし、それはまだ、地上の脅威に気づいていない。
「空の主のつもりか……」
ラドリーは一瞬でアクセルを緩め、バイクを崩れた廃ビルの陰へと滑り込ませる。
砂利を噛むタイヤ音が消え、代わりに静寂と緊張だけが辺りを満たした。
バイクから身を乗り出しライフルを構え、感覚を研ぎ澄ませながら静かに銃口を敵へと向ける。
その眼差しには、かつて夢と共に見上げた空への憧れはもうない。
今はただ、照準器越しに敵を射抜く冷めた鋭さだけを湛えていた。
息を止め、風と重力。距離と速度。すべてを計算に入れる。
銃口が僅かに動き、標的を正確にトレースした。
機影がスコープの中央を横切るその刹那、指が静かに引き金を絞った。
機械の翼。装甲の接合部。
迷いなき精緻さで、その弱点を狙い撃つ。
一発。
空気を裂く閃光と破裂音。
金属を貫く乾いた音。
サメシャークが僅かに体勢を乱す。
二発。
ほぼ同じ軌道。
風を読み、誤差を修正する必要すらない。
さらなる一撃がバランス機構を破壊し、機体を傾かせる。
三発。
静寂の中で放たれた、最後の一弾。
それは寸分の狂いもなく、動力中枢を貫いた。
悲鳴のような金属音を上げて、制御を失った機械獣は大きく崩れる。
そして——墜ちた。
轟音。土煙が舞い上がる。
廃墟が崩れ、谷全体に振動が伝播した。
だが、崩落の中で何かが飛び出した。
白——
ふわりと、舞うような身のこなしで、崩れ落ちるサメシャークの背から廃ビルに飛び移った小さな影——それは、一匹の猫のようだった。
ラドリーの眼差しは、その異質な存在を静かに捉えていた。
センサーデバイスが、反応を告げる。
ラドリーは警戒を解かぬまま、廃ビルの内部へと足を踏み入れた。