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猫、猫、猫!──機械の猫に心を与えるのは罪ですか?  作者: 綾白
第4章 猫の日常

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第15話 噂の料理

 窓の外には、夜の気配が静かに広がっていた。

 群青色に沈む空に、星の光がちらちらと瞬いている。


 食卓には二人分の夕食が並び、スープの湯気がゆるやかに立ちのぼっていた。

 ソラは手に持ったスプーンで器用にスープをすくい、それをふうふうと真剣な顔で冷ましている。

 やがてひと口すすり、ぱっと表情が輝いた。


「ねぇラドリー、“新ユランダ風・夜明けのビリュイ〜夢見るエルネストゥールの囁き〜”って知ってる?」


 向かいに座っていたラドリーは、フォークを持った手を止めて眉をひそめた。

 パスタの皿の上で、ミートボールの影がランプの光で微妙に揺れている。


「……は? 今なんて?」


「“新ユランダ風・夜明けのビリュイ〜夢見るエルネストゥールの囁き〜”!」


 ソラは勢いよく繰り返し、言い終えるとちょっと誇らしげに胸を張った。

 ラドリーは顔をしかめる。


「長いし、意味がわからん。呪文か?」


「ちがうよ! 今日ネットで見たの! 幻の旧世界レシピを現代風に再現した一皿なんだって! 話題になってたの!」


 言いながらソラは、テーブル脇に置いてあった小さなタブレット端末をタップし、画面をラドリーの方へ向けた。


「見て見て! これこれ! すごいよ、ほら、ソースが……光ってるの!」


 ラドリーは画面をちらりと見やり、思わず眉を上げた。


「……これ、肉か? 魚か? なんか、ゼリーみたいにも見えるんだが」


「エルネストゥールっていう旧世界の食材なんだって。もう採れないらしいけど、これは代用品で再現してるらしいよ」


「つまり、どっかの培養肉で誤魔化してるってわけか」


「うーん、まぁそうだけど。でも、この新ユランダ風の光るソースがすごいんだって。昔の味をそっくり再現してるって話!」


「“新”なのに“昔の味”って、どういう理屈だよ」


「いいの! 美味しいらしいの! レビューもみんな絶賛してたんだから!」


 ソラは再びスープをすくい、頬を染めるような顔でうっとりと呟いた。


「お口のなかでね、エルネストゥールがふわってして、ソースがきゅんって甘酸っぱくて、ビリュイがじゅわ〜って広がって……」


 ラドリーは呆れたように苦笑し、肩をすくめた。


「お前、まだ一度も食ったことないんだろ? なのにそこまで語れるの、逆にすげぇわ」


「夢くらい見たっていいでしょ!」


 ソラはむっと頬をふくらませて、スプーンを口に運ぶ。

 スープの湯気が、ふうっともう一度ふたりの間に漂った。


 ラドリーは自分の皿に目を落とし、さして特徴のないミートソースパスタを見つめながら、ふと口元をゆるめた。


「ま、これも“ラドリー風・今宵の赤い誘惑”とか名前つけたら、それっぽく見えるかもな」


「えっ、それいいね! じゃあボクのは“光のスープ・ソラの青風味”!」


「風味ってなんだよ、色の話か?」


 ふたりは顔を見合わせ、思わず声を上げて笑った。

 些細なことで笑い合える、その時間がなんだかとても贅沢に思える。


 外は静かで、窓越しに遠くのネオンのざわめきが微かに聞こえる。

 けれど、室内にはあたたかな光と、ふたりの笑い声があった。


 いつもの夜。


 だけど、ほんの少しだけ特別な味がするような——そんな時間だった。

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