表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫、猫、猫!──機械の猫に心を与えるのは罪ですか?  作者: 綾白
第3章 ハンターの日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/40

第13話 ちょっと黒いパンケーキ

「見て見てラドリー! これ、すっごいよ!」


「うるせぇ、耳元で叫ぶなって……」


 ソファにもたれかかっていたラドリーが片目を開けると、目の前に猫型自動人形——ソラがぴょんっと飛び乗ってきた。

 タブレットを掲げたソラは、興奮気味にしっぽを揺らしている。


「これね、ひっくり返すときに、ぽいって飛ぶんだよ! すごくない!?」


 覗き込むと、妙にテンションの高い料理動画が流れていた。

 タイトルは『ふわふわで、ぶっ飛ぶ幸せ!パンケーキ』。


「朝から何回リピートしてんだよ」


「5回……あ、違う、これは6回目! いや、途中で一回巻き戻したから……6.5回?」


「……そんな正確な報告いらねぇよ」


「だってね、この“ぽい”って飛ぶ瞬間、何回見ても飽きないんだよ! ほら、ぽいって! 見て見て、ラドリー、もう一回飛ぶから!」


「やめろ、タブレットをこっちに突きつけんな……画面が近すぎんだよ」


「ほら~、バターがじゅわってして、ぷつぷつってなって、ぽいっ! うわぁ~、たまんないっ!」


「お前……朝からテンション無駄に高ぇな……」


「パンケーキだよ? 幸せの食べ物だよ? テンション上がらないわけないじゃん!」


「俺は起きてからずっと下がりっぱなしだ……」


「しかもね、このお姉さんのしゃべり方クセになるんだよ! 『ほら見てください~、ふわふわですよ~、ぶっ飛びますよ~』って!」


「……もうその声、耳にこびりついて離れねぇよ……」


「ラドリーも一緒にやろうよ! 飛ばそうよ、パンケーキ!」


「嫌だ。俺は寝ていたい。朝から飯を飛ばす趣味はねぇ」


「ボクね、レシピ完璧に覚えたよ! 材料はパンケーキミックス、牛乳、卵、それから——」


「はいはい、分かった分かった。お前、いつの間に料理AIになったんだよ」


「違うもん! パンケーキAIだよ!」


「……どっちでもいいけど、うるさいのは変わんねぇな……」


 ラドリーが肩をすくめたその時、玄関のチャイムが鳴った。


「よう、ラドリー! パンケーキの材料持ってきたぞ~。昨日の約束、忘れてねぇよな?」


 満面の笑みで現れたのは、旧友のマイロだった。

 手にした紙袋には、パンケーキミックス、卵、牛乳、そしてちょっと奮発したという蜂蜜の瓶。


「……マジでやる気だったのか」


「当たり前だろ。『明日非番だから買ってきてやる』って言ったじゃねぇか」


「冗談で済ませとけよ……」


「ボクも! ボクも! ボクね、食べる準備は完璧なんだからっ!」


 ソラがくるくるとラドリーの足元を走り回る。


「な? ここまでその気にさせといて逃げる気か? ハンターの心得として、依頼はきっちりこなせよ」


「依頼って言うな……俺にとっては試練だ……」


 ぶつぶつ文句を言いながらも、ラドリーは渋々キッチンへ向かう。


「動画では中火って言ってたからな。強火にすると焦げるぞ」


「分かってるよ」


「ひっくり返すタイミングは、ぷつぷつ泡が出てきたら~だよ!」


「……もう黙って見てろよ、解説AIどもが」


 ラドリーはぎこちない手つきでフライパンを熱し、生地を流し込んだ。

 じゅわっと音がして、ソラが思わず声を上げる。


「わあっ! 本物っぽい! 泡が出てきた~!」


「ラド、手震えてねぇか? 緊張してんのか?」


「うるせぇ。俺は料理人じゃねぇっての……よし、ひっくり返すぞ」


 くるんっ。


「——あ」


「……黒いな」


「これは……ちょっと焼き過ぎたな……」


 ソラは固まり、マイロは冷静に指摘し、ラドリーは動じた様子もなく誤魔化す。


「ちょっと……? これは……えっと、“こんがり強め”ってやつだね!」


 ソラが懸命にフォローするが、マイロは現実を突きつける。


「……それ、ただ“焦げた”って言葉をオブラートに包んだだけだろ」


「でも、いい匂いするよ。食べてみていい?」


「マジで食うのか?」


「うん!」


 ソラは皿の上の焦げたパンケーキをしばらく見つめた後、にっこり笑って蜂蜜をとろりとかけた。


「いっただっきまーす!」


 ぱくりと一口。

 もぐもぐ……にこっ。


「おいしいっ!」


「本気で言ってんのか?」


「うんっ! だってラドリーが作ってくれたんだもん! 世界一のパンケーキだよっ!」


 その言葉に、ラドリーは思わず視線をそらした。


 ——隣でマイロがこっそり動画を撮影していたことには気づかずに。


「なぁラド、今の……すげぇいいシーンだったな」


 マイロがスマホを掲げる。


「……お前、録ったのか?」


「記念用にな。あとでソラに渡してやろうかな。“世界一のパンケーキ記念日”ってタイトルで」


「消せ」


「次はもっと上手く焼けよな、ラドリー・シェフ」


「お前は黙ってろ、マイロ」


 そう言いつつも、ラドリーの表情にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

 少し焦げたパンケーキの香ばしい匂いが、部屋中にふんわりと広がっていた。

評価やブクマなど、そっと残していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ