第11話 鋼の残響
ソラが垂れ下がった配線とダクトの隙間を擦り抜け、狙い通りに移動する。
敵の一体がそれに気づき、動きを変えた——その瞬間、ラドリーはあらかじめ設置していた反射板に光を当てた。
閃光がサメシャークの視界をかすめ、動きが一瞬止まる。
その隙にソラが上から飛び出して囮となる。
ラドリーの三発目が放たれ、三体目も崩れ落ちた。
残る一体は仲間の死を見て即座に態勢を立て直す。
だが、その動きすらもすでに読まれていた。
最後の一撃が鋼鉄の動力中枢を正確に貫く。
残響だけが、工場にこだましていた——
静寂が戻る。
工場の奥には、倒れたモンスターたちの残骸。
油がにじむ金属の塊。
ラドリーは最後の死骸に近づき、足先で軽く蹴って反応を確かめた。
……動かない。
「……終わったな」
通信端末を起動し、討伐完了と座標データを送信する。
報酬は後日、街の警備局経由で支払われるはずだ。
その間、ソラはモンスターの残骸の周囲を回り、あちこちの部品を興味深そうに覗き込んでいた。
緊張が解けると、じわりと体の奥から疲れが広がる。
だが、それは悪くなかった。
久しぶりの実戦——しかし今回は、いつもとは違っていた。
隣に誰かがいるだけで、背中の重さがまるで違う。
ラドリーが立ち上がると、ソラも自然と隣に並んだ。
工場の出口へ向かう途中、ソラがぽつりと呟く。
「さっきのシャーク……ボクと違って、空っぽじゃなかったね」
「ん?」
「怒ってた。ちゃんと何かが詰まってる顔だった。ボクの中はまだ、空のまんま」
その言葉は、錆びついた工場の空気に溶けるように響いた。
ラドリーは歩きながら、一瞬だけ空を見上げた。
「空だから、違うんだろうな」
「え?」
「怒りとか、破壊したい気持ちとか、そういうのが詰まってると、あいつらみたいになる。お前が空っぽで良かったよ」
ソラはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑い、うんと頷いた。
「じゃあラドリーと、冒険と、甘いお菓子と、あったかい気持ちだけでいっぱいにするね」
「……それでいい」
廃工場を出る頃には、空はゆっくりと金色に染まり始めていた。
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