第10話 鋼の棲家
廃工場区画へ向かう道には、鋭い風が吹いていた。
鉄と油の匂いを乗せた空気が、昼の日差しの中でも鈍く重く感じられる。
風化した道路をラドリーのバイクが走り抜ける。
後部座席に乗ったソラは、しっぽを風に揺らしながら興味津々に周囲を見回していた。
「ここって……なに? 建物がみんな、ぐしゃって潰れてる」
「昔の戦争で吹き飛ばされて、そのまま放置されたんだ。元は物資工場だったらしいが、今じゃモンスターの棲家になってる」
「モンスターの……すみか。悪いやつらのおうちだね」
「ああ。気を抜くなよソラ」
「うん、わかった!」
二人がたどり着いたのは、かつて自動兵器や産業機械を製造していた大規模工場群だった。
建物は崩れ落ち、鉄骨やパイプが地面から骨のように突き出している。
ひび割れたガラス、ねじれた金属——時の止まった風景がそこにあった。
ラドリーはバイクを物陰に隠し、ソラの耳元で静かに囁く。
「目撃情報が正しければ、多脚型サメシャークが4体。目よりも振動や電磁波に敏感なタイプだ。動きは速いが、狭い場所じゃ思うように動けない。上から撹乱できれば、俺が仕留められる」
「ボクが囮になるんだね」
「できそうか?」
ソラはニッと笑った。
「ボク、速いよ」
工場内へ一歩踏み込むと、空気が変わった。
腐食した床が軋み、奥からかすかに機械音が聞こえる。
ラドリーはライフルを構え、耳を澄ませた。
そのとき、暗がりの奥で赤いセンサーアイが幽鬼のようにいくつも浮かびあがった。
「来たか」
鉄屑の山を崩すように現れたのは、金属の脚で地を掴む異形——多脚型サメシャーク。
かつて海で使われていたAI兵器を地上用に転用した結果、野生化したモンスターだ。
5メートルを超える巨体が、4体。
「ソラ、行け!」
「了解!」
ソラが跳ぶ。
梁から梁へ、支柱から崩れた足場へと、しなやかに駆け抜ける。
動きは予測不能で、瞬く間に敵の注意を惹きつけた。
鋭利な脚が床を裂き、ソラに迫る——
ラドリーは狙撃位置につき、静かに照準を合わせる。
一発。赤い目が消える。
一体が崩れ落ち、残る三体が警戒モードへ移行する。
だが、ソラはすでに別の場所に姿を隠していた。
次の瞬間、天井を走るパイプを蹴って空中へ。
二体目の真上を飛び越え、壁の影に素早く潜り込む。
一体が反応して壁を突き破る勢いで跳躍した——そこに、ラドリーの二発目が正確に入る。
——残り二体。
「ラドリー、こいつら……ちょっと賢いかも! 連携してくる!」
通信越しにソラの声。
「なら、こっちもだ。下の通路、行けるか?」
「うん、任せて!」
ソラは軽やかに身を翻し、一段下の通路に滑り込んだ。




