第1話 ネコvsサメ
暗く狭い保管庫の一角に、小さな格納ケースが静かに佇んでいた。
厚い金属に覆われたそのケースは、長期保存用の設備に収められ、忘れられた時間の中でひっそりと眠っていた。
だが、突如としてその静寂が破られる。
外部からの強い衝撃が保管庫を揺らし、壁と天井が崩れ落ちる。
大量の粉塵が舞い上がる中、システムは異常を検知し、緊急起動マニュアルに従ってケース内部への処理を開始した。
その中で眠っていたのは、一匹の白い猫——のように見える、精巧な機械の身体を持つ猫型自動人形だった。
名前はソラ。
機種名はMEOW-RON22。
ある目的のために設計された特別仕様機だが、ソラ自身はそのことを知らなかった。
ソラの耳がピクリと動き、瞼がゆっくりと開かれる。
瞳の色は、透き通った空の水色をしていた。
数度まばたきをした後、丸まっていた体を起こし、あくびをしながら体を伸ばした。
「……あさ?」
小さな声に呼応するように、ケースの蓋が静かに開いた。
外の光が差し込む。
顔を覗かせたソラは、瓦礫と粉塵の世界を見つめ、ぽつりとつぶやく。
「わぁ……」
辺り一面が崩れていた。
建物の構造は崩壊しており、ここがどこで何が起きたのかは不明だった。
けれど、状況は明らかに危険と判断できた。
ソラは迷わず、しなやかな動きで壁をよじ登り、崩れた天井の隙間から外へと飛び出した。
その——直後。
「わっ!?」
空を飛ぶ巨大な影が、ソラをかすめるように襲いかかる。
鋭利な金属の翼。
戦闘機のような機構。
サメの頭部に似た無機質な顎。
飛行機獣型モンスター——サメシャーク。
空を駆け、破壊と殺戮を繰り返す危険な存在だ。
機体に武装を持たないソラには、戦う術などない。
逃走一択。
一目散に走り出す。
懸命に走るソラを追い、サメシャークは急降下しながら機銃を放った。
着弾の衝撃が周囲に火花を散らす中、ソラはセンサーを駆使し、それを回避する。
機銃が唸り、弾丸が地面を引き裂く。
火花、爆風、粉塵。
ソラは跳ねるように身を翻し、滑り込むように瓦礫の隙間を駆け抜ける。
だが、モンスターの動きは速かった。
——逃げきれない。
そう判断した瞬間、ソラは素早く壁を蹴り、サメシャークの背に飛び乗った。
サメシャークは激しく暴れた。
振り落とそうと旋回を繰り返し、壁へと突進する。
ソラは肉球に備わった接着機能を最大出力にしてしがみつき、ボディにシールドを展開する。
体当たりを食らった壁が派手に爆散するが、防御力に特化したソラの機体は、難なく衝撃を耐え抜いた。
攻撃が効かないと悟ったサメシャークは、やがて興味を失ったように空の彼方へと飛び去っていった。
その背に白い猫を乗せたまま——