52章〜『本番』〜
「こちらの拠点も襲撃されている可能性もあるから慎重にな」
二人を肩に抱えたルーメンが、姿勢を低くしながら静かに動く。
あの拠点から走って20ベル。別の拠点の近くまで来ていた。
「あの建物?」
「あぁそうだ」
薄暗い路地の突き当たりに、同じくバーだったような場所があった。
その正面は国王直属兵100人以上が包囲しており、今にも突撃しそうな雰囲気だ。
「やはりこっちの場所も裏切り者によってばれていたか……」
「でも、あの固まり方でこの狭い路地にいたら、大軍である意味があまりないよね」
「あぁグレネードかランチャーがあれば一撃だな」
別の拠点に向かった兵士たちが壊滅した。という情報がまだ届いていないらしく、奇襲をすれば楽に倒せそうではあった。
「ただ、別の拠点はどうすんだ?」
「恐らくここの他は大丈夫。全ての拠点に戦闘が得意な人員と大多数を相手にした兵器をある程度配置してる。けど、ここだけは違う」
リエルがグレネードの栓を抜いた。
「ここは本当に革命をしたいという思いを持った人は多いけど、戦闘ができる人は今はいない。普段はバルトとルーメンがいるんだけど」
ルーメンが指でカウントダウンをして、手を開いた瞬間に一瞬物陰から出てグレネードを投げ込んだ。
気づいた数人の悲鳴の後に、爆発音が響いた。
「ナンセンスだね、あの配置の仕方は。逃げることもできない」
再び路地にグレネードを投げ込む。
次も爆発音が響いた後、十数人の兵士が俺たちが隠れている方に向かって走ってくる。
俺たちの隠れている場所に来た瞬間、彼らは蜂の巣になった。
「突撃!」
フラマの掛け声で、怪我人3人を置いて路地に飛び出る。
一面が原型を止めていない死体で埋め尽くされ、血の海になっていた。
「奴らだ!撃て!」
この惨状を引き起こしたとも言える中年の指揮官が叫ぶ。次に彼が目を開けた時には、すでに額をルーメンに撃ち抜かれていた。
残っている数人の兵士は戦闘する意思を完全に失いかけていたが、少し目を瞑った後、彼らは隠れながら何かを取り出し、こちらに近づいてきた。
「「国王陛下万歳!」」
手に持っているのは……自爆用の爆弾!?
「一回引いて!」
リエルが古いリボルバーの拳銃で敵を一人倒したが、10人以上が特攻してくる。
俺たちはリエルたちがばれないように、わざと大通りに向かっていく。
しかし足が速い兵士も多く、玲人が爆発の射程範囲に入ってしまった。
「「国王陛下万歳!」」
一人の兵士が爆弾を起爆した。
「足を向けて伏せろ!」
バルトが叫び、玲人がその態勢を取るが、これはあくまでもダメージ軽減。肋骨なんかが折れてもおかしくはない。玲人が衝撃に耐えられることに賭けて俺も目を閉じた。
かなりの時間、爆発音が響いた。
……耐えてる……どころか無傷?
振り返ると、血の繭のようなものが十数個出来上がっていた。
「リエル、ノックス!」
ドブの水を飲んだような顔をしたリエルとノックスが立っていた。
彼らが能力で助けてくれたらしい。
「……生きてたのか……?」
フラマたちも戻ってきた。
「うん……死にそうなことを2回も味わったけど……」
「そうだね……」
二人はやや顔が青ざめている。
「何があったんだ?」
「能力の方は長くなるから後で話すけど……、なんでこの便利な能力を今まで使わなかったと思う?」
……確かに。この繭が使えれば、もっと楽になった戦闘も多かったはずなのに。
ノックスが地面に倒れている兵士を指差した。
「これ……めっちゃ血を消費するんだよね」
……察した。
「まじで不味い。適合もしてないし死んでる血なんか、普通飢えても飲むもんじゃないね……」
「……あ……後で血分けるから……助かった」
「「「?」」」
後ろの3人からしたら、意味不明な発言すぎた。
拠点の中に200人近くがいた。
ここも同じように地下が広く、3階まで地下に伸びている。
「フラマさん……ありがとう。本当に行きた心地がしなかったよ……」
中の人々が、口々にお礼を言う。
「それはいい。他の拠点は?」
「全拠点から、『撃破』の通信」
「全拠点に招集をかけて、あとこの中に医療ができるはいる?」
「あ、僕一応医学知識はありますよ」
一人の20歳ぐらいの青年が進み出た。
「マスターを診て」
「わかりました」
フラマがテキパキと指示を出していく。
「全員、『本番』の用意をして」
全員の顔つきが一斉に緊張で強張った。
次々と別の拠点から革命軍の同士が到着してくる。
「フラマさん」
「どうですか?マスターは」
「……」
青年は黙ったまま頷いた。
「……正直に言うと、非常に不味い状況です。心拍こそ正常ですが、呼吸がかなり乱れていて、何よりも臓器爆発が起こる可能性があります」
「臓器爆発?」
「えぇ。マスターは何を喰らったんですか?」
「……えっと」
「一種の精神攻撃だと思う」
実際に喰らったノックスが代わりに答えた。
「なるほど、恐らくこのまま自分で打ち勝たなければ死んでしまいますね」
「何かできることは?」
「ないですね。安静第一です」
青年は首を振り立ち上がった。
「そういえばこの子たちは?」
「あぁ彼らは新しい同志だよ。戦闘能力もかなり高いから、いい戦力になると思う」
「そうなんですか。初めまして、僕はファントム。一応医者志望だけど、革命が成功しないとなれそうにもないから、この革命軍に加わった」
「初めまして、リエルです。こっちが弟のノックス……で、」
「初めまして、流羽人です」
「玲人です」
「そうか、よろしく」
「……あの、少し喋り方になまりがあるように感じたんですけど……出身はどこなんですか?」
リエルが青年をじっと見つめた。
「あぁ……少し遠い村なんだけどね、国の横暴で皆殺しにされたらしい。そんな村かなりあるから珍しい話でもないんだけどね。ここにいる人の3割はそうさ」
「……あ……ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ」
「そういえば、さっきの『本番』て言うのは?」
「フラマさんは伝えてなかったのか」
「はい」
あの言葉でさっき全員が固まったことでなんとなくは察していた。
「『総攻撃を開始する』って意味」
次回は22日月曜日投稿予定ですが、試験直前なので休むかもしれません。
その場合は、27日が次話更新です。




