51章〜再構成《リトライ》〜
……どこ?
小さく古い木造の家だった。壁は所々はげていて、柱の木が剥き出しになっている。
「夢なのか……?」
「何いってんの?早く目覚まして。お母さんたちが待ってるよ」
ドアの方を向くとリエル姉ちゃんが立っていた。幼い容姿の。
「……え……?リエル姉……小さくなった?」
「……ん?寝ぼけてないで早く顔洗ってきなよ」
質問の意味がわからないとでも言いたげに顔をしかめる。
「あ……あぁうん。洗ってくる」
狐につままれたような気持ちで洗面台に行き、ようやくぼやけていた思考が戻っていく。
「……過去に戻ってる……ってわけか」
鏡の下ギリギリに映る自分の姿は、ランド家にいた人として生きる自分そのものだった。
ただ、どうしてだろう……最近この光景を見た気がする……
もし過去だとしてもかなり前のはずなのに……
「おはよう、ノックス」
「おはようおざいます」
キッチンの母さんが、オーブンから小さなバウンドケーキを取り出した。
「あら……少し疲れているの?顔色が少し悪いみたいだけど」
「いや、全然。いつも通りだよ」
「そう……ならいいけど」
「おはよう」
半分寝ているお父さんが自分の部屋から出てきた。みんなが起きた後に起きているということは休日なんだろう。
休日は全員で朝食を取る。昔吸血鬼の父さん、母さん達としていたように。
ただ、食事はあの吸血鬼の村と比べると、圧倒的に豪華だ。
朝から肉が食べられることもあるし、たまに出る白米の味も格段に良い。
「「いただきます」」
「ん!このサラダ美味しい!」
「確かに絶品だな」
「あぁ、それは田舎のおじさんの送ってくれた野菜を使ったのよ」
久しぶりの他愛無い会話が続く。
しかし、少しずつ違和感が生まれ始めていた。
……麦飯……?パラパラとして箸で食べにくい麦飯はお父さんが嫌いだったから、家では滅多に出なかった。
にも関わらず、お父さんが何も言わずに麦飯を食べている。
過去の記憶とは違う世界にいるのか?
「あ、あと私は今日仕事があるから三人で……」
「え、お母さんも仕事なのか?俺も少し手伝ってくれって言われてるから……」
二人が困ったように僕たちを見る。
「あ、それなら私たちで留守番するよ!」
「でも、買い物とかの家事が……」
「それもやっておくよ!ノックスもできるよね?」
リエルが目を輝かせながらこちらを向く。
「う、うん」
同じく僕も頷くと、父さん達はよほど重要な仕事だったらしく、申し訳なさそうに出ていった。
「ノックスやるよ!」
お母さんの書いていたメモをリエルが読んでいく。
・洗濯物を畳む……ね。
しばらくは畳んでいたか、リエル姉はすぐに飽き出したのか畳むスピードがとても遅くなる。
……まぁ僕もこんな感じだったな……
………………?
「じゃあノックスはこっちね!競争」
突然リエルが洗濯物を分けて、僕に片方の塊を投げた。
そして、説明もせずにリエルはすごいスピードで畳み出す。
「絶対そっちの方が多いじゃん!」
少し洗濯物を投げ返すが、すぐに投げ返されて最後には洗濯物の投げ合いになる。
「そっちの方が少ない!」
「そっちこそ!」
遊びの喧嘩が始まり、疲れて30ベルかかって洗濯物をたたみ終えた。
「次は何?」
「えっと……肉屋さんへの買い物」
……先ほどの楽しい気持ちは一瞬にして消えて、一気に体が冷え込んだ。
…………最初からなぜかそんな気はしていた。
これはあの日……僕らが孤児院に連れて行かれた日だ。
朝、起きた時からなぜかそんな気がしていた。
……でも、希望はある。
今日の行動や家の状況は違う点が多い。
要するに、あの能力で僕は過去に戻されている。そして……未来を変えれば良いのか?
「ノックス行くよ!」
着替えたリエルが部屋から出てくる。
「あ、ごめん今から着替える」
「早くしてよ」
リエルが靴を履いて庭に出ていった。
……いや未来を変えるべきなのか?
そうするべきなはずなのに、なぜか頭の片隅でそれを止めようとする自分がいる。
「Storm edge!」
当然何も起こらない。しかし、戦闘は体が動きを覚えている。もちろん力が弱いのでできることは少ないが、戦えないことはない。
僕は料理用の包丁をかばんに隠し持って玄関を出て、何くわぬ顔で肉屋に向かった。
「おまたせ。行こっか」
肉屋は歩いて15ベルぐらいのところにある。途中で裏路地なんかも多く通るし危険な道はいっぱいあった。
……確かここだよな。
3回曲がった先の裏路地。ほとんど人が通らない路地。ここで連れ去られた。
帰りにここを通らなかったとしても、どこで襲撃されるかわからない。
……ならここを通らなければいいんじゃないか?
路地を抜けると商店街に着いた。休日で人が多く、小さい僕らは歩くのも困難だ。
しかし、肉屋は手前の方にあったおかげで比較的楽に済んだ。
「お嬢ちゃん達、何が欲しいんだい?」
「えっと、牛肉が1Vde(200g)と猪肉を2Vdeください!」
「毎度あり!代金は1Ar40Aだな」
リエルは財布から紙幣と一枚の中硬貨(50A)出して肉屋に渡した。
「じゃあ気をつけてな」
肉屋にお釣りをもらい商店街の人の波に飲まれながら商店街から出た。
「あ……そういえば、お釣りで2人の好きなもの買って良いよって書かれてた……」
「いや、諦めよう……あの人混みの中には……」
突然、商店街からとても香ばしいケルの匂いがしてきて、2人のお腹が鳴る。
「ちょっと行ってみない?」
僕は耐えきれず頷いた。
運よくケル屋も入り口に近く、僕らは値段を確認した。
「「1つ10A……」」
お釣りはちょうど10Aだから、二人で一つしか買えない。
「じゃあ、あっちの飴を買わない?」
リエルは隣の店の水晶玉のような綺麗な飴を指差した。
値段も5Aで、2つ買える。
「うん。そうしようか」
飴玉を二つ買い店から離れると、隣のケル屋はもう売り切れていた。
「リエル、今日はこっちの道から帰らない?」
僕はいつもと違う遠回りの道を提案した。
「ダメだよ。お母さんたちに言われた道で帰らないと」
そしてリエルは先に路地にはいった。
「待って!」
リエルに追いつくと、リエルはもうすでに注射を刺されて倒れていた。
「一人は捕獲、あと一人は……来たようだな」
一人は注射器を持ち、もう一人はオートマチックの拳銃を持った、白衣を来た二人組の男女が振り向いた。
……こいつらが……俺たちを……!
あの時は不意打ちで顔を見る隙すらなかった。
明確に敵ができたことで怒りの感情が溢れ出し、包丁を取り出して二人に向けた。
2対1でも、見た感じこいつらは戦闘能力が低い。
人が来ない可能性が高いとはいえ、吸血鬼の能力を使うと後始末が大変になる。
だから、必死に抵抗したように見せかけて包丁で刺す。が最適解だ。
包丁を出されて二人は少し顔に曇りを見せたが、を持った男が俺に銃口を向ける。
「今すぐその包丁を捨てて、後ろを向け」
……精一杯の強がりだな。
「セーフティは?」
俺は知らないが、少なくともリエルは貴重なサンプルだ。
傷をつける可能性を減らすために、拳銃は万が一の脅し用。
男の顔が少し焦った。
包丁を逆手に握って、男に向かって突進する。
「こいつはAだよな!」
「えぇ!そのはず撃って!」
俺なら最悪殺しても問題ないと判断し、セーフティを解除する。
遅い。
すでに男には包丁が深々と突き刺さっていた。
……あとは、この女を殺せば…………………
……手が震えて、包丁をこぼした。
…………こいつを殺せば、こいつさえ……
……殺したら?
なんとなくの違和感に気がついた。
こいつを殺せば、俺はあんな未来を歩むことはない。
……つまり過去を変えることもできない…………
無限ループに陥っているのか……
なんとかしたい。しかし、こいつを殺すことは…………できない。
包丁を再び握り締め、ゆっくりと女の方を向く。
女はパニックに陥ったのか、敵が動いていないチャンスと見たのか、こちらに注射を投げつけた。
簡単に見切れる。けれど、俺は避けなかった。
意識が途絶えていく……
……?
体が元に戻っていた。
目の前で白衣の男の死体を白衣の女が引きずっていく。
ただ、あちら側からは透明になったかのように見えないらしい。
死体を蒸気車に乗せると、彼女は再び戻ってきて幼い少年少女を運んで行った。
どうにもならない歯痒さがあるが、できることは何もない。
「耐えろよ。その先に希望があるはずだから」
聞こえるわけがない。これは自分のため。
ただのエゴだ。
本編は20日土曜日の12時に、短編集を18日木曜日の22時に投稿します。
よろしくお願いします!




