50章〜作り物の親〜
ずっと真っ暗な闇の中を僕は彷徨っていた。
あの攻撃を受けて、気づくとここにいた。
死んだのか?体が何もない空間をゆっくりと流れている。
……僕は……俺は……?
いや、僕は自分のことを俺と呼んだことなんてほとんどない。
暗闇の中で少しずつ自分という存在が揺らいでいく。
リエルと……マスターは?
一緒にあの黒い波動を受けた二人はどうなってる?
周りを見渡してみたが、そもそも暗くて何も見えないし、二人がいるような気配もない。
どこに向かっているんだ?
体が少しずつ一つの場所に向かって動いている感覚はある。
抵抗しようとしても、どちらに体が動いているかも分からず流されるままだった。
……光……?
遠くで、ほんのりと小さな電球のような光が灯っていて、僕は少しずつそこに向かって流されていた。
希望を感じるような、それでいて絶望を感じるような光に僕は引き寄せられ、体が光に包まれていく。
「ノックス!朝ご飯!」
リエル姉ちゃんの声が耳に響いて、僕は飛び上がった。
……どこ?
小さく古い木造の家だった。壁は所々はげていて、柱の木が剥き出しになっている。
「夢なのか……?」
「何いってんの?早く目覚まして。お母さんたちが待ってるよ」
ドアの方を向くとリエル姉ちゃんが立っていた。幼い容姿の。
「……え……?リエル姉……小さくなった?」
「……ん?寝ぼけてないで早く顔洗ってきなよ」
質問の意味がわからないとでも言いたげに顔をしかめる。
「あ……あぁうん。洗ってくる」
狐につままれたような気持ちで洗面台に行き、ようやくぼやけていた思考が戻っていく。
「……過去に戻ってる……ってわけか」
鏡の下ギリギリに映る自分の姿は、ランド家にいた人として生きる自分そのものだった。
「ノックスおはよう」
「おはようおざいます」
キッチンの母さんが、オーブンから大きなバウンドケーキを取り出した。
「あら……少し疲れているの?顔色が少し悪いみたいだけど」
「いや、全然。いつも通りだよ」
「そう……ならいいけど」
「おはよう」
半分寝ているお父さんが自分の部屋から出てきた。みんなが起きた後に起きているということは休日なんだろう。
休日は全員で朝食を取る。昔吸血鬼の父さん、母さん達としていたように。
ただ、食事はあの吸血鬼の村と比べると、圧倒的に豪華だ。
朝から魚や肉が食べられることもあるし、白米の味も格段に良い。
「「いただきます」」
「ん!このだし巻き卵すっごく美味しい!」
「確かに絶品だな」
「あぁ、それは少し良い出汁を使ったのよ」
久しぶりの他愛無い会話が続くが、こんな状況で自分はどんなことを話していたのか思い出せず、黙ったままだった。
「あ、あと私は今日仕事があるから三人で……」
「え、お母さんも仕事なのか?俺も少し手伝ってくれって言われてるから……」
二人が困ったように僕たちを見る。
「あ、それなら私たちで留守番するよ!」
「でも、買い物とかの家事が……」
「それもやっておくよ!ノックスもできるよね?」
リエルが目を輝かせながらこちらを向く。
「う、うん」
同じく僕も頷くと、父さん達はよほど重要な仕事だったらしく、申し訳なさそうに出ていった。
「ノックスやるよ!」
お母さんの書いていたメモをリエルが読んでいく。
・洗濯物を畳む……ね。
しばらくは畳んでいたか、リエル姉はすぐに飽き出したのか畳むスピードがとても遅くなる。
……まぁ僕もこんな感じだったな……
………………ん?
「じゃあノックスはこっちね!競争」
突然リエルが洗濯物を分けて、僕に片方の塊を投げた。
そして、説明もせずにリエルはすごいスピードで畳み出す。
「絶対そっちの方が多いじゃん!」
少し洗濯物を投げ返すが、すぐに投げ返されて最後には洗濯物の投げ合いになる。
「そっちの方が少ない!」
「そっちこそ!」
遊びの喧嘩が始まり、疲れて1ナルかかって洗濯物をたたみ終えた。
「次は何?」
「えっと……肉屋さんへの買い物」
……先ほどの楽しい気持ちは一瞬にして消えて、一気に体が冷え込んだ。
やっぱりだ……間違いない。
これはあの日……僕らが孤児院に連れて行かれた日だ。
朝、留守番することになった時から、少し違和感があった。
この行動はあの日とかなり重なっている。
……ただ、希望はある。
僅かだが、違う行動に動いている部分もある。
さっきの洗濯物を畳むときの喧嘩。あの日はもう少しヒートアップしてお互い少し泣いた気がする。
要するに、あの能力で僕は過去に戻されている。そして……未来を変えれば良いのか?
「ノックス行くよ!」
着替えたリエルが部屋から出てくる。
「あ、ごめん今から着替える」
「早くしてよ」
リエルが靴を履いて庭に出ていった。
「Storm edge!」
姉ちゃんがいないのを確認して、能力が打てるかを確認する。
当然というべきか何も起こらなかった。あの頃の僕は能力を持っていなかったからということだろう。
しかし、戦闘能力は違った。体が動きを覚えている。もちろん力が弱いのでできることは少ないが、戦えないことはない。
僕は料理用の包丁をかばんに隠し持って玄関を出て、何くわぬ顔で肉屋に向かった。
「おまたせ。行こっか」
肉屋は歩いて15ベルぐらいのところにある。途中で裏路地なんかも多く通るし危険な道はいっぱいあった。
……確かここだよな。
3回曲がった先の裏路地。ほとんど人が通らない路地。ここで連れ去られた。
帰りにここを通らなかったとしても、どこで襲撃されるかわからない。だったら、タイミングがわかっている方がマシだ。
路地を抜けると商店街に着いた。休日で人が多く、小さい僕らは歩くのも困難だ。
しかし、肉屋は手前の方にあったおかげで比較的楽に済んだ。
「お嬢ちゃん達、何が欲しいんだい?」
「えっと、牛肉が2Vde(200g)と猪肉を5Vdeください!」
「毎度あり!代金は3Arちょうどだな」
リエルは財布から紙幣を3枚出して肉屋に渡した。
「じゃあ気をつけてな」
肉屋から離れ、商店街の人の波に飲まれながら商店街から出た。
「あ……そういえば、1Arで2人の好きなもの買って良いよって書かれてた……」
「いや、諦めよう……あの人混みの中には……」
突然、商店街からとても香ばしいケルの匂いがしてきて、2人のお腹が鳴る。
「ちょっと行ってみない?」
僕は耐えきれず頷いた。
運よくケル屋も入り口に近く、比較的簡単に列に並べた。
しかし、10ベル程して順番が回って来た時にはもう完売寸前だった。
「プレーンのケル2個ありますか?」
「おっ!幸運だな兄ちゃん。ちょうどラスト2つだ」
ガタイのいいおっちゃんは、焼きたてのケルを二つ包んで僕たちに渡してくれた。
「20Aだ」
「1Arからで」
最後の紙幣を渡して、80A分の硬貨が返される。
「落とさないように気をつけろよ!」
「んーおいしい!」
「焼きたてだから最高だね」
ケルはとても美味しくて一瞬路地のことを忘れかけるが、食べ終わると、いつでも包丁を出せるように準備をしておいた。
そして路地にはいった。
瞬間、後ろの瓦礫から大人が出てきて、僕らに注射のようなものを刺そうとした。
即座に反応して、僕に刺そうとした男を切り付ける。
反撃は予想外だったらしく、男はその場に倒れた。
もう一人はリエルに注射を差し切ろうとしたが、直前で50A硬貨投げつけて注射を手から離した。
「待て!」
女が必死で叫んだが、僕は許すつもりはない。
包丁で頭を叩きつけ女の脳が破裂した。
「ノ……ノックス?」
リエルが悪魔を見るような目でこちらを見る。
「大丈夫、悪い人たちは……」
突然体から力が抜けてその場に倒れ込んだ。
「ノックス!?」
再び黒い空間にいた。
あれ……?
止めたはずなのに………………あぁそうか。脳が理解した。いや、させられた感じだった。
あそこで連れ去られなければ、僕があの波動を喰らう未来が無くなるのか……
だからもう一度……。
あそこで僕は分かっていても喰らわないといけない。
大きなため息をつく。
そして、再び光に近づいていった。
ただ先ほどよりもずっと暗く感じる。
そんなやや黒い光に僕は包まれていった。
「ノックス!朝ご飯!」
リエル姉ちゃんの声が耳に響いて、僕は飛び上がった。
………………あれ?僕はさっき何を考えていたんだ?
というかここはどこだ?死んだのか……?
次回は16日火曜日に投稿予定です。(いとこの結婚式に行ってるため延期します)
今回のストーリーの詳しい解説が解説・短編集にあります。
そちらも是非!




