49章〜分岐〜
いや……死んでいるだけなのかな?
あの技が殺傷能力を持っていたのか、それとも技の効果で閉じ込められているのか……
「でも……死んでる気はしないんだよね……」
体が暖かいことなどがその確証になるかは分からない。けど、なんとなく生きてる気がする。
根拠は全くないけど。
「で、かくれんぼしよ!」
「う……うん。いいよ」
「じゃあ姉ちゃんが鬼ね!」
ノックスが無邪気な笑顔で森の中に走っていった。
少し落ち着こう。
太い木の幹の前に立って目を隠して大きく深呼吸をする。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9……」
かくれんぼは何度もしたけど、ノックスと私の二人だけでやったことはほとんどなかった。
「10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20…………もーいーかーい?」
森の中から返事はない。隠れたみたいだ。
カサカサという音を立てながら落ち葉を踏んで、森の中へと入っていく。
……確か……ここにいたことなかったっけ?
森の中心付近にある巨木がある広場。その近くの草むらを一個ずつ探していく。
……いないか。流石にそんなに都合よくはいかないよね。
他に隠れてた場所は……あそことか?
巨木の広場の裏手の備蓄小屋に隠れてたことも……
「見つけた!」
「姉ちゃん早すぎる……」
そりゃあ記憶があるからね。心の中で呟き返す。
ノックスの隠れた場所、言動が私の記憶上と一致している。
……だから、ここはあくまでも私の過去。想定外のことは起こらないはず。
「リエル、ノックス。夕ご飯よ!」
「……母さん……!」
十数リム間見ていなかった母さんの顔を見て、思わず涙を流しそうになるのを必死で堪える。
始めた時間夕暮れ時だったこともあり、母さんが心配して森の中まで迎えに来てくれていた。
母さんと手を繋いで、もう太陽が半分沈んでいる森を帰っていった。
……家だ……
合併レンガの屋根、塗装のはげた木造のわが家に着いた。
私が育てていたひまわりやノックスの集めていた綺麗な石が、玄関の前に置かれている。窓も都市のようなガラス窓ではなく、穴の空いた障子がはまっている。
「ただいま!」
「あ……た、ただいま」
「お帰りなさい」
真ん中の和室に農作業終わりのお父さんが座っていた。
無精髭を生やしているがこだわりは強く、お父さんの作った野菜はとてもおいしかった。
一斉にいろんなものが溢れ出しそうになって、今度は少し我慢できずに目の下が少し湿った。
「リエル、泣いているのか?」
「あ、いやちょっと今日怖い夢を見ちゃって……」
「そうか。大丈夫だよ」
にっこりと笑いながらお父さんの言った言葉は、一度聞いたことがある気がした。
「「「「いただきます」」」」
全員で小さな座卓を囲んで夕食になる。
お父さんの生野菜のサラダと母さんの獣肉のステーキを、一口一口味わって食べる。
本当に懐かしい味がするな……包み込まれるような……
「そういえば、あしたはおかーさんのたんじょうびだね!」
「そうだね、今年も猪を捕まえにいかないとな」
私たち吸血鬼には誕生日に猪鍋を食べる風習がある。
お母さんの誕生日…………?
「ね……ねぇお父さん、お母さん?私って今何歳だっけ?」
「6歳になったかしら」
「あぁ、この前6歳になったよ……ちょっと前までこんなに小さかったのになぁ」
お父さんは少し酔っ払って笑いながら、子供の成長は早いもんだ、としんみりと言った。
ただ、私は身体中の血の気が引くのを感じた。
私が6歳の時、お母さんの誕生日の夜に……村は燃やされた。
……なんとかして放火を止めないと……!
……いや……このことをお母さんたちに伝えれば簡単に止められるじゃん……!
「あのお父さん、お母さん……明日この村でさ、すっごく大きな火事が起こるの」
「夢の話かい?大丈夫、そんなことは起こらないよ」
……そうだった……今私は6歳。そんな子供が、明日大火災が起こるなどと言って信じるはずがない……
「リエル……今日は疲れてるみたいだし、早く寝なさい」
「う、うん分かった。おやすみなさい」
おそらくこれは誰に言っても信じてもらえない。だから私一人で放火を止める、それしかない。
子供部屋の布団の中で決意した。隣ではノックスがぐっすりと眠っている。
多分、ノックスはノックスで同じような状況なんだろうな……
翌日、朝早くから猪を仕留めに行って調理したら、昼時を過ぎていた。
お父さんが猪の肉を大量に使って鍋を作り、家中にいい匂いが充満する。
「おとーさん、一口食べさせて!」
味見をしているお父さんが、特別だぞ、と言って肉を一かけノックスにあげていた。
「リエルもいるかい?」
この肉片硬いんじゃ……
「硬っ!」
恐る恐る食べてみたがやっぱりダメだった。
「あっ……ごめんそれ上の方のやつだから火通ってなかった」
やっぱり今日村が燃えることは間違いなさそう……
夕食の時間になって、豪華な猪鍋が座卓の真ん中に置かれノックスから声が漏れる。
「いただきます!」
すぐに肉を取ろうとするノックスをお父さんが止めて、お母さんに肉や野菜がバランスよく入ったお皿を差し出した。
お母さんは1つ1つ丁寧に美味しそうに食べ終えて、小さな盃のお酒を一気に飲んだ。
「今年も山の恩恵を受けて歳をとることができました。感謝していただきます」
「「「いただきます」」」
それから全員で大盛りの猪鍋を、食後には甘いアカササの実を食べるとお腹いっぱいになり、みんなすぐに眠ってしまった。
……あれ……?今日何があるんだっけ……?……まぁいいや……寝よう……
みんなと同じように私は畳に横たわった。
私が深夜に起きられたのは、本当に偶然だった。
寝相の悪いお父さんの足が、私のお腹に当たった。
「痛っ!」
突然の衝撃に飛び上がって、私は周りを見まわした。
……あれ……あぁ眠っちゃって……
「放火!」
私は急いで外に出た。確か、私たちが逃げ出したのは0ナル過ぎ。時計はもう0ナルの寸前を指している。
どこにいる?
私は夜の村の中を必死に走り回った。
来るとしたら……!
山の表側に、昔の登山道がある。来るならそこの可能性が高いはず!
そちらに向かって私は全速力で走って行った。
「……誰もいない……?」
昔の登山道は人の気配が一切感じられず、発火の原因となるものもない。
その時だった。
山の裏側の家で火事が起きている。
……外れた……!
私は山の裏側へと戻っていった。
間に合って……なんとか……
全力を振り絞って山の裏手に着くと、そこではの国王直属兵が火矢を木造の家に向かって放っていた。
「チッ……小娘がいたぞ!」
私に一気にやの先端が向き火が放たれる。
この小さい体では能力は使えない。けど体の動きは覚えてる。
スライディングで火矢を避けながら距離を詰め、次の矢を打つ隙など与えない。
……血の槍……!
弓を剣に持ち替えられなかった兵士は全員が同時に倒れ、剣に持ち替えた兵士たちも全員が一歩引く。
……血が足りない……!
血の槍が一瞬で形を保たなくなり崩れ去る。
適合するのは……こいつ……!
死んだ兵士の一人を雑に拾い上げ、首筋から吸血する。
正直不味いが文句は言ってられない。
「こ……こいつ!わしの部下を!」
ロングソードで切り掛かるおじさんは、蹴り飛ばすと頭を石にぶつけて血を流しながら動かなくなった。
「ひ……引くぞ、一旦」
全員が少しずつ後退りをするが、私は逃す気など微塵もない。
「人を殺そうとするなら、殺される覚悟を持ってやるべきだよね」
一気に血を飲んだことと感情の起伏で、血の槍が一人三本以上串刺しにすると、その場には誰もいなかった。
……あれ……体が元に戻ってる……?
兵士たちを倒すと、体が元の大きさに戻っていた。
でも、今はそんなことどうでもいい。
早く火を消さないと……!
近くの家の裏手に置かれている放水機を使って、その家の火を消そうとした。
……!
あれ……私どうして今ここにいるの?
……なんで私は……6歳じゃない。12歳までの記憶を持っている。
何を考えている早く火を……!
……違う……これは正しい道じゃない。
私、このリエルという吸血鬼は、故郷を燃やされたことで得た経験で生きている。
だから、私は火を消しちゃいけないんだ。
私は……運命を変えない、変えたくない。
ここで家族と過ごせれば、もっと幸せだったかもしれない。
けど……今の私には……みんなが……×××がいるから。
ごめんなさい。こんな身勝手な私で。
故郷が火に包まれていく。
私は自分の家に戻って行っていた。
物陰からそっと覗くと、燃える家の中から火だるまになる母、幼い私そしてノックスが出てきた。
「あなた達だけでも逃げなさい!リエル!ノックス!」
「お母さんは!」
「私は助からないです。いいから逃げなさい!」
「嫌だ……お母さん!私も一緒に!」
「ダメです!行きなさい!」
「早く行け!」
同じく火に包まれた父が強い剣幕で言い、幼い私は涙を流しながら山を降りて行った。
私が見えなくなると、父と母は涙を流し出した。
「ごめんなさいね。最期に笑顔を見せられなくて」
「……厳しすぎたか……一緒に……死なせてあげても……」
「ダメです」
「でも……あいつらは人間に捕まると……拷問に……」
「そうかもしれません。親として見届けられなかったけども……大丈夫。あの子達なら……。もちろん心配で死にきれませんが」
「あぁ、ただ血の薄い俺たちもそろそろ限界のようだな」
私は幼い私たちがいないのを確認して、物陰から飛び出した。
「誰だ!」
父が怒鳴った。
「私は……リエルです。信じられないかもしれないけど。何リムも後の」
「……走馬灯かしら」
「そう思ってもらってもいいです。ただ、ずっと言いたかった。私は生きて辛い目に多く逢いました。けど、ここで生きていたから、今生きている。本当にありがとうございました」
「娘の声を聞いて死ねるなんて……幸せだな」
「お父さん。野菜おいしかったよ。いつも優しくて大好きだよ」
お父さんに抱きついた。火など今の私は感じない。
「お母さん。私たちをいつも心配して世話をしてくれてありがとう。大好きだよ」
お母さんにも抱きついた。
「あぁ俺も大好きだよリエル」
「ありがとう……リエル」
「うん……うん……」
泣かないように、最後は笑った顔を見せたい。
「「……リエル」」
二人は笑いながら…二人は粉のように体が崩れ落ちていった。
必死に押さえていた涙が一気に溢れ出した。
そして、体が光に覆われていった。
注釈:今回のストーリー内には、タイムパラドックスのような事が起こると捉えられる出来事があります。
詳しくは10日の夜22時投稿の短編集で解説しますが、ここでは簡単に。
リエルが火を止める→村助かる→リエルは村を出ない=今のリエルは生まれない(性格など)
次回は13日土曜日12時過ぎに投稿予定です。




