48章〜意識の世界〜
爆発音が隠れ家の方から響き、俺たちは急いで戻って行った。
「リエル!ノックス!」
「マスター!」
部屋には背中から羽の生えた司令官。そして、横たわって動かない3人の姿があった。
リエル達が……この戦闘力の高い3人が一瞬で殺された……
その状況を受け入れずに、ただ佇んでいた。
「あなたは誰?ただの人間ではないようだけど」
フラマは即座に状況から判断し、得意のナイフを構えながら司令官へと一歩ずつ近づいていく。
「フラマ!危険だ」
ルーメンが戻そうとするがその必要はなかった。
「!?」
フラマは何もないはずの空間で、透明な壁に接触して転倒した。
「私の生成した壁は君たちには抜けられないよ」
フラマが再びその場所に向かうが、結果は変わらない。玲人が放った炎に関しても同じだった。
完全に攻撃手段を失い、警戒しながら相手の出方を伺うしかない。
魔術で生成した壁?
だとしても耐久値らしきものを感じられないし、質感もない。
なんというか……決して壊すことのできない。そんな感じがする。
「君たちの質問の私は誰か。の答えだが、名乗ったところで君たちは知っているはずもない。あの姉弟の姉なら知っているかもしれないと思ったが、忘れているらしいな」
椅子から立ち上がり、黒い羽が広がる。
「吸血鬼か?」
バルトは司令官が動いたことに警戒しながら問いかける。
「違う」
こちらをじっと見据えたまま、司令官は食い気味に答える。
こちらを攻撃するそぶりも見せず、司令官は余裕げな表情を浮かべている。
……埒が開かない……
「この3人は死んでいるのか?」
「いや、死んではいないよ。本当に運が良かったら生き延びれるだろうね。ただ……」
少し微笑んでいた表情が一変して、顔に影がかかる。
「失敗したら『無限の苦しみ』に堕ちる」
うめき声が上がり、振り向くと3人がやや暴れている。
体がしきりに動き髪を掻きむしったりしていて、苦悶の表情を浮かべている。
……無限の苦しみ……その言葉が再び頭に中で繰り返され、軽い恐怖を感じる。
「あと仲間達の心配だけで大丈夫なの?あと半ナルで、私が要請した国王直属兵の本軍が到着するよ」
……本軍!?この5人のためだけに?
「君たちにできることは私を殺すことぐらいじゃない?ま……半ナルで殺される気はしないけどね」
再び店内の椅子に座り込み、面白がるようにこちらを向いたまま動かない。
逃げ道もないし、戦う術がない……どうすれば……どうすればこの状況を打開できる?
「……そういえば、お前は攻撃しないのか?」
援軍が来るのを待つよりも、自分で始末した方が圧倒的に手間がかからないはずだ。
なのに、攻撃しないということは……何か意図がある?
「私が攻撃したら一瞬で全員消し飛ぶ。そこの3人のようにな」
「お前はそれでいいんじゃないのか?」
「面白くないだろ?」
表情は変わらず余裕そうに答えているが、心なしか少し笑みが消えた気がする。
ただ確証もなく、俺はその言葉に返すことできなかった。
「攻撃しないんじゃなくて……攻撃できないじゃないのか?」
突然の玲人の言葉に一瞬、司令官の表情の仮面が完全に外れた。
しかし、すぐに元の表情に戻した。
「攻撃ができない?そんな訳ないだろ。そこの3人は私の攻撃で倒れているのに?」
「間隔の時間が決まってるんだろ」
一気に断定口調に変わり、透明の壁を挟んだ正面で玲人が向かい合う。
「ほとんどの能力攻撃にはデメリットがある。俺や流羽人の攻撃は魔力制限があるし、吸血鬼は血が不足すると技を打てなくなる……お前の場合は……単に時間が条件じゃないのか?」
「……そう思うならそう思え。ただ、壁を越えることもできない以上関係ない話だ」
司令官は否定はしなかった。
「あとさ……この壁本当に実在するのか?」
再び司令官の顔が引き攣った。
「流羽人達も感じなかった?この壁なんか違和感あるんだよ。絶対に壊せないみたいな雰囲気を感じる」
「……確かに俺も感じたな」
「私もだ」
フラマも頷き、全員が同じ感覚を味わっていたらしい。
「つまり……こんな壁存在しない。俺たちに存在しているという思考を植え付けられて、自ずと作り出してしまっている壁……!」
次の瞬間、玲人は透明な壁をすり抜けていた。
玲人は銃を何発も打ち込むが吸血鬼と同じような再生能力で回復される上に、玲人が銃弾を左手に受けて安定しなくなる。
「そんな壁は存在しない!早く!」
俺たちも一斉に走り込むと、簡単に透明な壁をすり抜けた。
5人同時の全方位射撃は流石に耐えられず、わずかな時間で司令官は後ろに倒れ込み、フラマのナイフでとどめが刺された。
「急げ!援軍が想定より早く来ている。革命軍の同志達の場所に行くぞ!」
バルトが体格のいいマスターを背負い、ルーメンがノックスとリエルを両肩に抱えて外へ出て裏道ではなく、人気の少ない道を通って、他の隠れ家へと向かっていった。
ずっと真っ暗な闇の中を私は彷徨っていた。
あの攻撃を受けたあと、意識が飛んで気づいたらここにいた。
死んでるのかすら分からないし、自分の姿もはっきりと見えない。
……そもそも私なの?
暗闇の中で少しずつ自分という存在が揺らいでいく。
ノックスとマスターもこの状態なのかな……
ノックス?……いや、私の弟だ。
なぜか一瞬疑問に思ってしまった。
どこに向かっているんだろう?
なぜか体が少しずつ動いている感覚はある。
抵抗して逆方向に進もうとしてもそもそもどちらに動いているかすら分からず、流されるままだった。
……?光がある?
遠くにほんのりと光が灯っていて、私は少しずつそこに向かって流されていた。
光はどんどんと近づき、私の体はその光に包み込まれていった。
「リエル姉ちゃん!かくれんぼしよ!」
……!?
「ノックス?」
「うわ!びっくりした。どうしたの?」
目の前には幼い頃の……あの山に暮らしていた頃のノックスがいた。
「……ノックス小さくなった?」
「え?……いやそんなことないと思うけど」
そこで私は自分の視点がやけに低いことに気がついた。
吸血鬼の村で着ている農作業に適した服、自分の小さい体……
……幼少期に戻ってる……
またもや期間が空いてしまいすみません。
次回は8日の月曜日22時過ぎに投稿予定です。




